12話 壊れゆく現実
美咲は、通路を抜けた先で立ち止まった。
そこは“外”のはずだった。
でも、空はない。森もない。代わりに、あの小屋の内部が、無限に繰り返されていた。
同じ床、同じ壁、同じ写真――。
歩くたびに、音が遅れて返ってくる。まるで世界が彼女の動きを模倣しているかのようだった。
足元に落ちている手紙を拾い上げる。
それは、ほんの少し前に自分が見たものと同じだった。
いや、同じではない。日付が違う。そこには「明日のあなたへ」と書かれていた。
指先が震える。紙の感触は確かにある。だがその下から、冷たい液体が滲み出していた。
それは――黒い、墨のような血。
「戻れ」
囁きがする。いつもの影の声。
しかし今度は、どこからともなく自分の声に重なって響いた。
懐中電灯を構え、辺りを照らす。
壁の写真が一斉に微笑む。
同じ顔。だが、ひとつひとつの目だけが、美咲の動きに合わせて動く。
呼吸が荒くなる。
箱を強く抱きしめた瞬間、
背後から“もう一人の自分”の手が肩に触れた。
美咲は反射的に振り向いた。
そこには誰もいなかった。
だが、指先に残る感触だけが、確かに“生きている”もののものだった。
世界が歪み始める。
足元の床が液体のように揺れ、影が笑う。
その笑い声は、やがて通路全体に広がっていき――。
美咲は気づく。
逃げられない。
ここは現実ではない。
彼女の中にある“何か”が、この空間を作り出しているのだと。




