6話 影の誘い
地下通路の奥に進むたび、空気はさらに冷たく重くなる。美咲の息が白く立ち、手にした箱の重みが腕に食い込む。床板は軋み、影が壁や天井を滑るように揺れ、囁きが耳元で低く響いた。
小さな光が揺れるたび、壁の刻印や古い文字が生き物のように反応する。影は微かに光を帯び、形を変え、時折人の輪郭を模して美咲を追う。囁きは低く、しかし導くように変化し、恐怖と好奇心を同時に刺激する。
「…何が…待っているの…」
小さな声が闇に溶け、返事はない。床の砂利や落ち葉、床板の軋む音が、彼女の心臓の鼓動と同期するかのように響き渡る。
通路の隅々まで目を凝らすと、古びた写真や手紙、道具が散乱し、懐中電灯の光で照らされるたび、影は壁や床に映り込み、揺れながら語りかけるように動く。美咲は手にした箱を抱え、手紙を一枚ずつ確認しながら進む。
影は床や壁を這い、時折呼吸のように揺れ、美咲の肩越しに囁きを届ける。囁きは悲しみ、怒り、恐怖、諦めの混ざった声となり、耳元で繰り返される。冷気が体を刺し、指先まで寒さが浸透する。
壁に刻まれた文字や模様は微かに光を放ち、影と共鳴する。手紙や写真に書かれた過去の記憶が、その空間に重く積み重なり、息をするたび恐怖が胸を締め付ける。
美咲は息を整え、手を震わせながらも、一歩一歩奥へ進む。影は揺れ続け、囁きは低く、しかし導くように変化する。その場所全体が生きているかのように、冷気、影、囁き、過去の記憶が絡み合い、美咲を深い闇の核心へと誘う――。




