3話記憶の底の闇
地下通路に足を踏み入れた瞬間、美咲の足元に冷たい石の感触が伝わる。湿った匂いが鼻をつき、古い木の梁からは微かに水滴の落ちる音が反響する。懐中電灯の光は通路の先端に向けて揺れ、壁に浮かぶ古い文字や刻印がかすかに光を反射する。
影は壁を伝い、床を滑り、天井の梁に沿って蠢く。まるで意思を持っているかのように、美咲の視線を追う。歩を進めるたび、影の動きは複雑になり、何度も方向を変えて彼女を誘うかのようだ。
「…怖くない…怖くない…」
心で唱えながら、息を整え、慎重に進む。床の隙間から冷気が押し寄せ、手に握った懐中電灯が微かに震える。通路の奥、古い扉の影に、何かが潜んでいる気配がする。
箱の中の手紙や写真を思い出す。子どもたちの孤独、悲しみ、そして影の存在。彼らの声が囁きとなって美咲の耳元に届く。影はその声を体現するかのように揺れ、部屋全体を包む。
通路の壁に刻まれた文字が、光に反応して微かに浮かび上がる。文字の形は揺れ、美咲の視線を追い、次の行動を促すかのようだ。息を飲み、彼女は扉に手をかける。
扉を開けると、狭い部屋の中に古い家具や紙、機械が散らばっている。懐中電灯の光が床や壁に反射し、影は微かに光を帯びて揺れる。影はまるで、過去の記憶を守るかのように、美咲を囲む。
「…ここに…何が眠っているの…」
恐怖と好奇心が入り混じり、胸がぎゅっと締め付けられる。深呼吸して懐中電灯を奥へ向けると、壁の奥にさらに小さな扉が見えた。そこに続く階段は、闇の底へ伸びている。
美咲は一歩踏み出す。影は揺れ、囁きは低く、過去の声を混ぜながら美咲を試すかのように響く。通路の冷気が肩越しに流れ、背筋が凍る。
だが、恐怖に押し潰される前に、彼女は決意を固める。
「…進むしかない…真実を知るために…」
地下の闇はまだ深く、影は揺れ、美咲の足取りに合わせて、ささやきと冷気で恐怖の世界を広げる――。




