2話沈黙の叫び声
小屋の奥に踏み込んだ美咲の足元には、古い木の床が軋む音が響く。
その音は、まるで小屋自体が呼吸しているかのように、微かに震え、床板の間から冷たい空気が押し出される。懐中電灯の光は限られた範囲しか照らさず、壁の奥で影が揺れるたび、美咲の心臓はドクンと跳ねる。
「…誰か、いるの…?」
声は小さく、震えている。しかし応答はない。
代わりに、壁や梁、天井から低く響くささやきが、美咲を包む。
「…来たのね…」
「…待っていた…」
どこから聞こえてくるのか分からない声は、時折風に乗って形を変え、耳元で囁く。息を飲む美咲の背中を、影が滑るようにかすめる。冷たい空気が肩越しに流れ、皮膚の奥までぞくぞくと刺す。
箱の中の写真を懐中電灯で照らすと、そこにはこの庭や小屋に関わる子どもたちの姿と、微かに揺れる影の輪郭が写っている。写真の中の影は、まるで意思を持っているかのように美咲の目を追うようだ。
「…怖くない…怖くない…」
心の中で繰り返し言い聞かせ、懐中電灯を握る手に力を込める。
床を一歩踏み出すたび、影が壁から天井へ滑り、微かに形を変えて美咲の進行を阻むように揺れる。空気はひんやりとして、胸の奥に緊張と恐怖が重くのしかかる。
壁に古い文字や模様が浮かび上がる。
文字は判読できないが、視線をずらすと意味を持つように光を反射し、微かに震える。
その光の揺れに合わせて、影も微妙に形を変え、まるで小屋自体が意志を持っているかのようだ。
息を整え、奥へ進むと、床の隙間から冷気が押し寄せる。箱の中の手紙を手に取り、読み上げると、過去にここで暮らした子どもたちの孤独と恐怖、助けを求める言葉が響く。影たちはその声を体現するかのように揺れ、美咲を囲む。
足元の軋む音、天井の梁を伝う影のざわめき、低く響く囁き。
すべてが美咲の心を押し潰すほどの迫力で襲いかかる。
それでも美咲は一歩ずつ、奥へ奥へと進む。
箱の奥には、まだ知らない秘密が眠っている――影と過去の記憶が絡み合う、未知の世界。
美咲は震える手で箱を抱き、深呼吸する。
「…もう逃げない…全部、知るんだ…」
背後の影は揺れ続ける。囁きは低く、しかし微かに温かさも含むように変わってきた。
それはまるで、美咲に全てを委ねて、導こうとしているかのようだった。
影が揺れる度に、床の軋む音と風のざわめきが響き、部屋全体が呼吸しているように感じる。
懐中電灯の光を奥に向けると、壁の刻印が微かに浮かび上がり、次の手がかりを示すように輝いた。
美咲は深く息を吸い込み、決意を固める。
「…行くよ…」
小屋の奥に広がる闇は、まだ終わらない。影と記憶、そして過去の声が、美咲を待っていた。




