7話 光と影の約束
夜の祖母の家は、静寂に包まれていた。廊下の影は揺れ、天井の梁から床の隅まで、黒い影が静かに蠢く。美咲は懐中電灯を握りしめ、震える手で箱の前に立った。箱の中には、古い写真や手紙がぎっしり詰まっている。
「…誰…?」
声はまだ聞こえない。だが、空気が変わった。影が箱の周りに集まり、ゆらりと揺れる。美咲が息を呑むと、低く、震える囁きが響いた。
「…私たち…ずっと…待っていた…」
影の形が微かに変わり、輪郭の中から小さな光が漏れる。光の粒が集まり、影の中心に淡い人影が浮かぶように見えた。美咲は息を呑み、手を伸ばす。
「怖くない…」
声に出して言うと、影は少し揺れを静め、囁きが続いた。
「私たちは…この家に残された子どもたちの…想い…悲しみ…怒り…すべて…」
美咲は理解した。影たちはただの恐怖ではない。この家に暮らした子どもたちの記憶、置き去りにされた感情、助けを求め続けた声が形になった存在なのだ。
「ずっと…一緒に遊んでくれると思った…でも…誰も…」
影の声は震え、ゆらりと揺れる。美咲はそっと手を伸ばし、人形を抱きかかえるように差し出した。影の輪郭に触れると、冷たさが体を走ったが、次第に温かさに変わる。
「もうひとりじゃないよ」
美咲の言葉に、影たちは微かに揺れ、少しずつ落ち着いた。怒りや恐怖は溶け、寂しさが前に出る。影の中心から、白い光が広がり、廊下全体に柔らかな輝きを放った。
影は囁き続ける。
「ありがとう…私たち…救われた…」
美咲は胸が熱くなるのを感じ、影の輪郭を見つめる。夜の祖母の家に漂っていた恐怖は、少しずつ消え、代わりに温かい光と静かな安心が広がる。
しかし、美咲は知っていた――この家の秘密はまだ完全には明かされていない。影たちの告白は、新たな謎の扉を開けたに過ぎないことを。
夜の迷い道を抜け、光を頼りに美咲は歩き出す。影たちは静かに彼女を見守り、ゆらり、ゆらりと揺れる。恐怖はまだ完全には消えていないが、確かな希望が、美咲の胸に灯っていた。
そして、美咲の冒険は次の夜、新たな展開へ――影と記憶の真実を解き明かす、最後の章へと続くのだった。