5話 鍵が示す場所
雨上がりの午後。庭には水滴をまとった桜の花びらが静かに落ちていた。美咲は手に握った古い鍵をじっと見つめる。
「これ…本当に秘密の場所を開ける鍵なのかな…?」
肩の上に乗った影が、小さくヒラリと揺れ、美咲の心をそっと支える。影の温かさを感じながら、美咲は深呼吸した。胸の奥で、去年の夏の記憶がそっと疼く。
鍵を手に、二階の隠し扉の前に立つ。手が少し震えるのを感じながら、差し込むと――カチリ、と小さな音。扉がゆっくり開く。
中はほの暗く、埃と木の匂いが混ざった空間。棚には古いおもちゃや絵本が並び、まるで時が止まったかのようだ。
影は嬉しそうに跳ねながら、美咲の手を引くように動く。けれど奥の方で、もうひとつの影がじっとこちらを見つめていた。その目は、寂しさと不安で揺れている。
美咲は息をのむ。
「ひとりぼっちだったの…?」
そっと声をかけると、影の気配がほんの少しだけ揺れた。まるで答えているかのように。
美咲は小さく頷き、そっと手を伸ばす。手と手は触れなかったけれど、胸の奥で何かが繋がった気がした。
「怖くないよ、一緒にいるから…」
扉の奥の小部屋は、寂しい記憶で満ちていたけれど、今は優しさで満たされ始める。影も、もうひとつの影も、美咲を見つめるその目に少しだけ希望が灯った。
雨上がりの光が窓から差し込み、部屋の隅の埃を金色に照らす。
美咲は深く息を吸い込み、そっと笑った。
「これからは、きっと大丈夫だね…」