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あんなタイトル  作者: 櫻木サヱ
もうひとつの影
12/22

5話 鍵が示す場所

雨上がりの午後。庭には水滴をまとった桜の花びらが静かに落ちていた。美咲は手に握った古い鍵をじっと見つめる。

「これ…本当に秘密の場所を開ける鍵なのかな…?」


肩の上に乗った影が、小さくヒラリと揺れ、美咲の心をそっと支える。影の温かさを感じながら、美咲は深呼吸した。胸の奥で、去年の夏の記憶がそっと疼く。


鍵を手に、二階の隠し扉の前に立つ。手が少し震えるのを感じながら、差し込むと――カチリ、と小さな音。扉がゆっくり開く。


中はほの暗く、埃と木の匂いが混ざった空間。棚には古いおもちゃや絵本が並び、まるで時が止まったかのようだ。

影は嬉しそうに跳ねながら、美咲の手を引くように動く。けれど奥の方で、もうひとつの影がじっとこちらを見つめていた。その目は、寂しさと不安で揺れている。


美咲は息をのむ。

「ひとりぼっちだったの…?」

そっと声をかけると、影の気配がほんの少しだけ揺れた。まるで答えているかのように。


美咲は小さく頷き、そっと手を伸ばす。手と手は触れなかったけれど、胸の奥で何かが繋がった気がした。

「怖くないよ、一緒にいるから…」


扉の奥の小部屋は、寂しい記憶で満ちていたけれど、今は優しさで満たされ始める。影も、もうひとつの影も、美咲を見つめるその目に少しだけ希望が灯った。


雨上がりの光が窓から差し込み、部屋の隅の埃を金色に照らす。

美咲は深く息を吸い込み、そっと笑った。

「これからは、きっと大丈夫だね…」


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