4話 誘う影
夕方、庭の桜の木が赤く染まる頃、美咲は影と一緒にかくれんぼをして遊んでいた。影は元気に跳ね回り、美咲の笑い声が木々に響く。
しかし、ふとした瞬間、美咲の耳に低く、ひそひそとした声が混じった。
「こっち…来て…」
美咲は立ち止まり、目を凝らす。さっきまで一緒に遊んでいた影とは違う、切なげで少し不安そうな気配が庭の奥から揺れている。
「誰…?」
影は美咲の肩に飛び乗り、警戒するようにヒラリと跳ねる。どうやら、美咲を守ろうとしているらしい。
美咲は恐る恐る声の方向に歩み寄る。影もそっと後ろをついてきて、まるで「気をつけて」と言うように動く。
庭の片隅、去年は見逃していた小さな窓の下に、もうひとつの影がひっそりと現れた。影は遊びたいというより、寂しさと不安を抱えているようだ。
「どうしてここに…?」美咲は小さな声でつぶやく。
影は肩の上で揺れ、まるで「近づかないほうがいい」と警告しているみたいだった。美咲は深呼吸し、影に手を伸ばす。
「怖くない、きっと…」
夜、布団に入った美咲は考える。
「この家には、まだ知らない秘密がある…」
窓の外の桜の影が揺れるたび、もうひとつの囁きが、美咲の心にじんわりと忍び寄る――。