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【ヒューマンドラマ】

君に捧ぐ。

作者: 小雨川蛙

 

 君は僕の嘘から生まれた。


「僕には恋人がいる」


 ただの強がりの言葉。

 人にちょっと自慢をしたくてついてしまった嘘。

 そんな嘘は皆にすぐに見抜かれてしまい、嘘をついたことを皆が揶揄(からか)った。


「嘘じゃない! 本当に居るんだ!」


 僕は意地になってそう言い続けた。

 必死になる僕を見て、皆は揶揄うのをやめた。

 いや、僕に構うのをやめてしまった。


 今にして思えば自業自得だ。

 だけど、幼い僕にはそれが認められなかった。


「本当に居るんだ」


 独りきりで僕は呟いていた。

 もしかしたら、僕の方から皆と距離を置いていたのかもしれない。

 いずれにせよ、その時間はとても辛い時間だった。


『ねぇ、お話しをしようよ』


 そんなある時、君が現れた。

 僕と同い年で、僕とは違う性別の君が。


 君の姿はいつでも不確かで。

 テレビや漫画で見た魅力的な存在をすぐに反映する。

 歌も踊りも声も性格も。

 君は僕の理想の存在だった。


『ねえ、ずっと一緒に居ようよ』


 君がそう言ったので、僕は喜んでそれに従った。

 おかげで僕は寂しくなくなった。

 だって、いつでも君が居たから。


 二年が過ぎた。

 十歳の僕が十二歳になる。

 小学生の僕が中学生になる。


 人生の一つの節目。

 そんな時に君が僕に言った。


『そろそろ別れよう』


 その言葉に驚いて僕は問う。


「なんで? なんでさ。一緒に居ようよ」


 すると君は寂しげに笑って言った。


『意地を張るのはもうおしまいにしよう』


 その言葉の意味を僕はよく知っていた。

 つまり、僕は君という存在が僕の作り出した妄想に過ぎないと分かっていたんだ。


「嫌だ。ずっと一緒に居ようよ」

『嘘ばっかり』


 僕の言葉を君が否定して。

 そして、次の瞬間。

 僕は自分が実に惨めな存在であることを認識してしまった。


 僕はずっと空想と一人遊びをしていただけだ。

 孤独に。

 独りで。


 もう手の届かない幻想に。

 僕は自分が世界一愚かで滑稽であるのを自覚しながら呟いた。


「愛しているよ」


 君が『嘘ばっかり』と笑うのを期待した。

 けれど、僕は相変わらず独りきりだ。


 僕は諦めて、ようやく前へ歩き出した。

 意地を張らず、等身大に。


 ・

 ・

 ・


「先生。絵を描くコツを教えてください」


 僕の下に今日も細やかなアドバイスを求めた人々が訪れ、さらに数え切れないほどのメッセージが送られてくる。

 だから僕は答える。

 口頭で、文章で、あらゆる方法で。


「『大好きで、大好きで、それしか考えられないってものを描き続けること。なんのかんのこれが一番楽しいし上手くなる方法だと僕は思います』」


 僕のSNSのアイコンはいつだって『君』だ。


 僕の強がりと見栄っ張りで塗り固められた嘘である君。


 もう会えないけれど、確かに愛していた。


 僕を大人にしてくれた。


 かけがえのない君に捧ぐ。



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