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戦え!改造人間くん!  作者: 魚缶
第1章:俺、今日からバケモノになります。
1/1

プロローグ

 ──なんの冗談だ。


 そんな言葉を飲み込んで、俺はビルの廊下で走っていた。

 何故……と、言われると理由は至極単純。

 追われているからだ、敵に。


 敵の数はチラ見して判明しただけでも、十以上。

 ただの人間とは言え、一斉にかかってくれば簡単に制圧してされてしまうだろう。

 ただの男子高校生の俺なんか、一瞬どころの話ではない。

 まさに瞬殺、そうとしか言えない。


(なんでこんなことになった……)


 と、心のうちで嘆いてみるが、よくよく考えてみれば、これは俺が招いた事態である。


 ──仕方がなかった。


 そう言えるような事態だったはずだから。

 ふと、突然走る俺の右耳に、差し込んだインカムから嘆くような声が聞こえた。


『ねぇ、数多いんだけど!?』


 向こうで響く断末魔。

 激突するような物理音と、割れるような轟音。

 声とともにインカムの向こうからそれらが聞こえる。


「知らん!! そっちでどうにかしろ!!」

『アンタのせいでこんなっ……! はぁ……まぁ、乗った私も私だけど……さぁッ!!」


 と、声とともに強い蹴りの音。

 壁に激突し割れるような音。

 間違いない、彼女の超強力な蹴りが繰り出された音だ。


(剣持ってるのに使わないのかよ)


 なんて、何回も言ったようなことだ。

 背負った剣は本気を出す時以外使わないのはどうかと思う。

 なんて、考えている余裕は、突然なくなってしまう。


「こっちだ!!」

「いたぞ!! 追い詰めろ!!」


 先の曲がり角。

 そこに俺を追っている奴らの仲間が現れたのだ。

 全員がこっちに向かって走り出す。


「っととととぉッ!? マジかッ!」


 急に止まって辺りを見渡す。


 隣は地上三十階の景色が広がるガラス。

 真反対はまさに壁。

 上には通気口のようなものは見えない。


 要するに詰み、である。


「畜生……温存しときたかったんだが……」

『アレを使うつもりなの!?』


 と、インカムからさっきの声とは別の声が響く。

 幼い少女の声だ。


「構わないだろ、博士!」

『使ってもいいけど……わかってるよね!』

「ああ! 三回まで、だろ!!」


 前から後ろから、追っ手が迫ってくる中。

 俺は懐から簡易注射器を取り出す。


 高校生の俺でも簡単に扱えるようなものだ。

 中には紫色の液体が入っている。


「行くぜ、お前ら」


 そしてその注射器を首に突き刺し、勢いよく押し込む。

 それを見た追っ手たちの足が止まりざわつき出す。

 奴らは驚愕と困惑に包まれ、右往左往していた。


「ぐ、ゥ……ぉオッ……!!?」


 一方俺は、注射器を打つと同時に蹲っていた。

 なんせ刺すと同時に、芯の底から湧き上がる痛み、体が膨張するような感覚。


 地獄の苦痛としか例えようのないそれら。

 それらが一斉に体内で押し寄せてきたのだから。

 そしてその瞬間、俺の足はもう既に動き出していた。


「ぐわぁああああッ!!?」


 繰り出した拳が先頭の男に突き刺さり、男は向こうの壁まで勢いよく吹き飛び、壁を突き破って気絶。

 俺は追っ手の男たちの中央に立ち、男たちを見下ろしていた。


「う、撃てッ!! 撃てぇぇええッ!!!」


 追っ手たちは一斉に銃取り出し、俺に向かって撃ち放ち始めるが、通らない。

 肌が銃弾を受け付けない。

 金属音とともに銃弾を弾いた俺の体は、170程度だった俺の身長を約1.5倍までに引き上げられていた。


 体はまるで鋼鉄のような鱗に覆われ、その腕は大きく膨張し豪腕すらも通り越し。

 全体の色は灰色に近く、顔はもはや人間の体をなしていない。

 まさにバケモノ、そう言えるような状態だった。


「そんなもの、効かねぇぞッ!!」


 声を張り上げ腕を振るう。

 腕を振るえば簡単に追っ手たちは吹き飛び、壁に向かって飛んで行く。

 飛べば地面が割れ、駆け出せばフロアが揺れる。


 俺は壁を破壊しながら、ただ先へと突き進んだ。

 周囲の敵を吹き飛ばす勢いで。


『変身したの!?』


 最初の声がインカムから聞こえる。

 息切れが聞こえるところを見るに、それなりに疲れてきているようだ。


 それもそのはず。

 向こうの役割は陽動、蹴って殴ってぶっ飛ばすのが役割だ。


「ああ!」

『じゃあこっちっ……来てよ!!』

「行けたらな!」

『絶対来ないやつ!!』


 ベキッという蹴り飛ばすが音が向こうから響く。

 それと同時にインカムからまた別の声が聞こえた。

『博士』の声とはまた違った声。

 大人びた女性の声だ。


『奴らが逃げ出した!!』

「なにぃ!?」

『すまない、ワープされて捉えきれなかった! だがGPSをつけたから追える筈だ!』


(流石だな……)


 相手にはワープする奴がいるんだ。

 捉え切るのは不可能ってものだろう。

 逆にその状況下でGPSを取っ付けられる判断力を賞賛したい。


(しかし問題は……どこにワープしたか、だな)


 GPSを取っ付けた以上、場所は簡単に判明するだろう。

 俺は暴れながら博士に聞く。


「どこにいる!? 博士!」

『三つ先!』

「三つ!? 部屋か!? 階層か!?」

『ビル三つ分!!』


 と、窓の外、少し遠くの方で眩い光が放たれる。

 右側で発せられていたため、発生源は見られなかったが……間違いない、奴だ。

 能力とは無関係の光だが、理由はわかっている。

 間違いなくワープ能力を持つ奴がいる場所を指し示している。


「ああどこかわかった!! だが誰が行く!?」

『お前だ』

『アンタでしょ』

『君だね』

「知ってたッ!!」


 三人一斉のご指名に答えて、俺は力強く踏ん張って飛び上がる。

 ビルの床を突き破り、上の階層へ。

 そしてもう一度、さらにもう一度……何度も繰り返してビルの屋上へ。


 夜、月光が照らす中、ビルの屋上にて風に吹かれ、俺は下に広がる街を見つめる。

 キラキラと光り輝く街並み、眩しいくらいだ。


「……そっちは完全に任せていいんだな。三人とも」

『任せろ。全員叩きのめすさ』

『絶対拾って帰ってきなさいよ!!』

「わかってるよね! 変身できる回数は……』

「理解してるさ、後二回だろ。大丈夫……後二回で何とかするさ」


 そう言い切って遠くに見える、三つ目のビルを見つめる。

 深呼吸を一度、後ろに下がって走り出す準備。




 その中で俺は色々と思い出す。

 ここまでに至った理由を、戦い出すことになったワケを。


 全ての始まりは、俺がこんな体になった日。

 あの三人組によって拉致された、あの日からだ。

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