姉と僕
僕のお姉ちゃんは優しくて面白くて美人だ。
自分にとっては世界一のお姉ちゃんだから、そんな人が自分の家族で心底良かったと思う。
「ただいま、あやねぇ」
「おかえりさん。……ってあれっどうしたの弟くん? むすっとした顔して?」
学校から家に帰ると、玄関先で姉が出迎える。
スーツ姿だ。私服じゃない。会社に帰ってきたばっかか。
「えっそんな顔してる?」
「してるしてる。何かあったの? 姉ちゃんにいってごらん」
「別に何もないって……」
「いーから、姉ちゃんにいってごらん」
「わかったよ。実はさ今日……」
「なるほど。ささいなことで、同じ高校の友達と言い争いになったんだね」
「まぁ、そういうことだね……」
「よしわかった。今すぐ仲直りしに行ってきなさい、その友達と」
「えっ、今から? やだよ」
「いーから、仲直りしにいってきなさい。言うこと聞かないなら、今日の晩飯は抜きだよ」
「えっそれは困る。あやねぇのうまい料理が食べれないのは困る」
「でしょー、困るでしょ?」
「しかたない、わかったよ。あやねぇの言う通りにすればいいんでしょ」
「うむ、わかればよろしいー♪」
僕は家を出て、友達に家に行った。
友達に会うと、ごめんと、謝った。
仲直りは拍子ぬけなほど簡単で、心のもやもやはすぐに消えていってしまった。
あやねぇのおかげだった。彼女がいたから、友達との仲を修復できた。
帰ると、あやねぇがいつもより、美味しい食事を作ってくれて、よく頑張ったねと僕を誉めてくれた。
優しい笑顔で僕の頭を撫でてくれた。
その笑顔を見て、ああ、あやねぇには叶わないなと思った。
「おやすみあやねぇ」
「おやすみ弟くん」
夜になると、僕とあやねぇは同じ布団に入る。
抱き合って向かい合いながら、眠るまで雑談を続ける。
「弟くん、ずっとそばにいてね」
「うん。そばにいる。何があっても、あやねぇから離れない」
あやねぇは僕のことを必要としていた。
僕もあやねぇを必要としていた。
お互いがいないと僕らは成り立たない。
まともに、生活していけない。
だから、この関係を続けている。
姉と弟、姉弟として疑似家族の関係を続けている。
僕はあやねぇに、亡くなった姉の面影を重ね、あやねぇは僕に、亡くなった妹の面影を重ねていた。
お互いに大事な存在を、失ってしまったのだ。3年前の災害、多くの命を奪った巨大地震で……。
「ねぇ、もっと強く抱きついて。もっとぬくもり感じたい……」
腰に回されて手の力が強くなる。
「うん、僕ももっと感じたいあやねぇのこと……」
より深く密着する。顔と顔も唇がふれあいそうなくらい、近づける。
お互いの熱の感触を、ぬくもりを求め合う。やすらぎを感じ合う。
大事な家族を失った悲しみを埋め合うように……。
僕らの共依存関係は歪んでいた、とてもいびつに……。