壱.証
翌日の昼食は、いつもより早かった。鏡子と椿が観劇に行くらしい。
二人ともおしゃれをして、椿は雪原からもらった横浦土産のかんざしを挿している。柚月が雪原の代わりに渡した物だ。それを渡したとき、椿は頬を桜色に染めて喜んだ。
あの笑顔をもう一度見たかった、だけなのに。
柚月は渡しそびれたこんぱくとのことが頭に浮かび、自然、表情が暗くなった。
その顔を、鏡子がのぞき込む。
「お土産、買ってきますね」
柚月がはっと我に返ると、鏡子の笑顔があった。柚月が慌てて「ああ、はい」と返事をすると、鏡子はにっこりと応え、今度は雪原に向いた。
「では、行ってまいります」
雪原も、「楽しんできてください」と笑顔で手を振り、楽しそうに出かけていく二人を、柚月は雪原とともに玄関で見送った。
それからしばらくして、その玄関の外に人の気配がした。そして、
「御免」
と声。
柚月が戸を開けると、清名が立っていた。柚月はわずかに緊張が緩んだ、が、来客は清名だけではなかった。
隣りにもう一人。若い男がニコニコしながら柚月を見ている。
柚月は複雑な顔になった。
昨日の男だ。
「来ましたね」
すっと現れた雪原に、清名は一礼し、中に入ろうとする。が、戸口に柚月が立ちはだかったままどかない。じっと若い男の方を見ている。清名も男の方をちらりと見たが、また柚月に視線を戻すと、ゴツッと柚月の頭を拳で小突いた。
「邪魔だ」
柚月はやっと我に返り、小突かれたところを押さえながら道を開けた。
清名が中に入り、当然の様に男も続いて入ってくる。それも、ご機嫌な様子で。
柚月の視線は、無意識にまた男を追っている。
「柚月も来なさい」
今度は雪原の声で我に返った。
柚月が茶の用意をして雪原の部屋に向かうと、廊下にまで楽しそうな笑い声が聞こえてきていた。
珍しい。雪原が笑うことはよくあるが、清名が来た時に笑ったことなどあっただろうか。柚月が不審に思いながら障子戸を開けると、清名はいつもの固い顔がわずかに緩んでいる程度で、歓談の相手は若い男の方だった。雪原と二人、何がそんなにおかしいのだろうと思うほど、楽しそうに話している。
柚月はますます、誰なのだろう、という疑問が湧いた。それが、茶を出しながら目に現れている。が、それに気づく者はいない。
「お前が入れたのか?」
清名は茶のことだけ気にした。
「これがおいしいのですよ」
雪原は上機嫌で一口飲み、続いて口にした清名も驚いた顔をした。うまかったらしい。
若い男も嬉しそうに一口飲み、
「ほんとだ!柚月さんて、なんでもできるんですね。すごいや!」
と、子供のような声を出した。
なぜ名前を知られているのか、柚月は障子戸の脇に控えながら、新たな疑問に眉をひそめる。すると、雪原が思い出したように、
「ああ、柚月」
と手をひらひら振ると、その手で男を差し、唐突に紹介した。
「こちらは、清名証。清名の息子です」