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弐.やきもち

 薬屋から出てくると、居ると思っていた柚月がいない。


「あれ」


 椿はそう漏らすと、あたりを見渡した。

 通りを、人々が行きかう。

 その向こう側、はす向かいの店の中に、柚月の姿が見えた。

 ほっとすると同時に、あの店は、と引っかかる。


 小間物屋。

 それも、女物の小物を多く取り扱っている店だ。


 誰かに、贈り物だろうか。


 そう思うと、椿は気持ちが暗くなり、自然と顔が曇った。


「椿?」


 ふいに呼ばれて振り返ると、すぐ後ろ。若い男が一人、立っている。


「ああ」


 椿はそう漏らすと、曇っていた顔がほころんだ。


 長居してしまったな。

 柚月が急いで戻ろうとすると、薬屋の前に椿が見えた。

 待たせてしまっている。


 通りを行く人を避け、椿の元へと急いだ。

 椿の姿が近づくほど、どんどんワクワクする気持ちが強くなる。

 袖の中で、さっきのこんぱくと(・・・・・)が揺れている。


「ごめん、おま…」


 そうまで言って、柚月の振りかけた手が止まった。


 椿の前に、見知らぬ男が立っている。

 しかも、椿はその男と話している。

 それも、ただ話しているわけじゃない。

 とても楽しそうに、笑っている。

 男の方も。


 ただの知り合い、という雰囲気ではない。

 随分、仲がよさそうだ。


 男は、男子にしては短身な方で椿より少し高い程度、やや童顔だ。

 それもあって幼く見えるが年は一六、七といったところ。

 帯刀していることから武士だと分かる。

 着物の感じから、中級、いや、上級の武家の子息だろう。

 だが、そんなことは問題ではない。


 ――誰だ。


 柚月は急に不愉快になった。

 椿の笑顔が、余計苛立ちを掻き立てる。


 柚月には見せたこともないような笑顔だ。

 親しみがにじんでいる。

 それを、見知らぬ男に向けている。


 気に食わない。


 柚月はつかつかと歩み寄ると、椿の腕を掴んだ。

 驚いた椿が振り返り、男の方も驚いた顔になった。柚月一人、ムスッとしている。


 「誰?」


 と柚月が聞くより先に、「あっ!」と声を上げた。

 柚月に対してではない。

 男は、柚月の後方に何かを見つけたようだ。


「じゃあ、またね! 椿」


 そう言うと、男は柚月にもぺこりと一礼して、逃げるように去っていった。


 ――椿⁉


 男が椿を呼び捨てにしたことが、さらに柚月を不機嫌にする。


「誰?」


 その不機嫌が、声にも出ている。

 だが、椿は気が付かなかった。


「ああ、(あかし)ですか?」


 何気なくで応えた。


 ――証⁉


 椿が男を呼び捨てにしたことで、柚月はますます不機嫌になる。


「いや、いい」

 

 そう言い捨てるなり、さっさと歩きだした。


「え…?」


 そうなって初めて、椿は柚月の様子に気が付いた。

 だが、いったい何があったというのか。


 柚月は椿を置き去りに、どんどん行ってしまう。

 異常に速い。

 いつもは自然と椿に合わせている歩調も、すっかり忘れ去られている。

 

「柚月さん?」


 椿が呼んでも、振り向きもしない。

 訳も分からないまま、椿は小走りで柚月について行った。

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