64 薬屋
お久しぶりです。
ブクマをしてお待ち頂いていたみなさん、大変お待たせいたしました。更新再開します!
「それにしても、店も持ってるっていうのに薬屋の手伝いまでするなんて変わり者だねぇ。」
壁際にそびえ立つ、背の高い棚にかけた梯子に上った私は、薬が入った瓶にまとわりついたほこりを棒の先端に切り裂いた布を取りつけたはたき棒で叩き落とすなか、丸椅子に腰を下ろして足を組む老婆が皮肉めいた言葉を吐きながら乾いた笑い落とした。
「いえいえ、きっちり手間賃を頂いていますから。」
はたき棒で薬品が並ぶ棚を叩けば叩くほど、舞う埃。ああ、口と鼻を隠すために布を巻いといてよかった。わたしがもし喘息を持っていたら間違いなく発作が出ていたと思う。喘息持ちではないとはいえ空気の悪さを感じる空間に、眉間に皺を寄せながら呟くと、老婆――もとい薬屋の店主ロージーさんがフンと鼻で笑った。
そもそも私がこの薬屋にわざわざ、手伝います!と名乗り出たのは、慈善活動でもなくいまだこの世界では料理としては使われずに薬として出されているものがないか探るためであった。
たとえば滋養強壮や疲労回復と言われていたチョコレートや、健康に聞くと言われていたケチャップだってはじめは薬として流通していたものは多い。
「今回は何を持って行く気だい」
ロージーさんは手間賃のことを言っているのだろう。ちらりと視線が私へと向けられて、私もロージーさんの方に視線を向けると、ばちりと視線が絡み合い、その瞬間、ロージーさんが目を反らしてフンと鼻を鳴らす。なんてツンデレな人なんだ。
今のところ料理のレパートリーが発展するような、特にそれらしい薬に巡り合っていないので、こうなりゃ手あたり次第使っていくしかないと、脇にはたき棒を挟んでから適当に棚へと手を伸ばすと、奥に隠されるように置かれていた瓶に手が触れた。
「ん…?」
「どうしたんだい。」
「あ、この薬なんてどうですか?棚のいちばん奥にあったんですが…」
棚の奥を覗き込んでいかにも薬瓶ですといわんばかりの茶瓶を取り出すと、中には、粉のようなものが入っていた。奥に置かれていた割には粉が乾燥で固まっているということもなく、茶瓶を傾けるとサラサラとした粉が傾きによって流れていく。
「ん?…んんん?」
ロージーさんは頭にかけていた眼鏡を下ろしながら眉間に皺を寄せる様子に、一旦梯子から降りて棚から持ってきた茶瓶をロージーさんに渡すと、ロージーさんは茶瓶に貼られたシールを見て、
「ああ、それはダイエットの薬だね」
と呟いた。
「ダイエット……食欲減退の薬なんですか?」
「うーん、ある意味食欲減退というのか…」
食欲減退なのであれば、なんとなくチョコレートだとかそういう類ではなさそうだが、ロージーさんの言葉があまりにも煮え切らないので首を傾げると、ロージーさんは眼鏡をはずしてもう一度頭にかけると、ふむ、と一度吐息を零した。
「それは膨れ蛙を粉にした薬でね、昔はそれを飲んでわざと腹部を膨張させて満腹感を得て、食事を減らすっていう強制的なダイエット薬として使われていたってわけさ」
「なるほど、食欲減退ってそういう意味で…なんですね。でも昔ってことはいまはあまり使われてないんですか?」
「あぁ、随分と前に馬鹿がこれを飲み干して体が風船みたいに膨れたって事故があってねぇ。幸いなことに翌日体は戻ったようだが、それ以来使われていないのさ。」
「体が風船みたいに…」
体が風船のように膨らむだなんて一体どんな原理なのかは分からないが、膨らみすぎて破裂する可能性を秘めているのであれば使用されなくなるのも頷ける。
その時、私の中にある一つの考えが思いついた。
「あの……これ貰ってもいいですか?」
「それは構わないが…、まさかこれも料理に使おうってんじゃないだろうね」
「あはは……。」
「……はぁ、まぁいいけどね、使う量には気をつけな。いいかい、小さじ一杯だけだよ。」
さすがはロージーさん理解が早い。私はロージーさんの心配を聞きながら、にっこりと笑うのであった。
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次回:2月11日(金)23:00 ※予約投稿済




