06 てんぷら弁当
サイゴドンさんが籠いっぱいに持ってきた山菜たちはどれも上質なものばかりだった。青々として痛みがなく、それでいてどれも食べごろだ。
これだけ上質な山菜であれば少ない量で笠増し可能な炊き込みご飯も出来るが、上質だからこそ天ぷらも外せないと思ったのは私が山菜をからっと上げた天ぷらが大好きだからで。あの口の中で響く小気味よいサクっと崩れる天ぷらの衣に、口の中に広がり鼻に抜けていく山菜の爽やかな苦み。
普段は肉や魚を食している若者たちにとっては苦みを嫌がるかもしれないが、ここは田舎で若者も少ないソラリア村だ。肉の脂身で胃がもたれてしまうような村民には需要が出るのではなかろうか。
とはいえ、天ぷらを本日の販売分とするとなると少々心もとないような気もする。
新鮮度については時間経過のないアイテムボックスに入れることで長時間の保管は大丈夫だが、物量となると私では解決できない問題だ。と、なれば通常販売は避ける必要がある。
ならば通常販売は避けて限定品と銘打って販売するのはどうだろうか。それであれば数が少なくて売り切れたとしても「限定品だから仕方ない」と片付くだろう。
うん、良い気がする。
「…うん、今日は天ぷら弁当も作りますね!」
「いいのか?今日の弁当の準備をしていたんじゃ…」
「えぇ、今日はカレーとカラアゲを準備をしていましたし、カレーはもう完成しています。でもカラアゲは幸いなことに揚げる前ですし、」
「何よりこれだけ上質な山菜を持ってきてくれたんですから、鮮度が落ちる前に調理しないと勿体ないですよ!」
幸いなことにカラアゲは肉をつけ込んだ状態で揚げる前だったのでアイテムボックスの中に保存していれば明日でも使える。
それにいくら山菜を手渡すためとはいえ、そして騎士団の支部がソラリア村にあるとはいえ、わざわざ王都からソラリア村までやってきてくれた彼にこの山菜を使った料理を出さないのはなんだか申し訳ないのだ。
サイゴドンさんは耳を外側に倒していわゆるヒコーキ耳をした状態で申し訳なさそうな表情を見ていたが、私が山菜を手に笑みを浮かべるとサイゴドンさんは一言「いつも悪いな」と言って、尻尾を僅かに揺らした。
「いえいえ。あ、と数は?」
「三つで頼む」
「三つですね。あ……そういえば今日も任務ですか?」
「あぁ、今日は新人を連れて森の奥で繁殖しているというポポルゴの討伐だな」
「ポポルゴ?」
「キノコ型のモンスターだが見たことないか?」
「キノコ…」
異世界に飛ばされてもう随分と時間が経ってしまったが、まだまだ未開の地やモノが多いこの世界。
そのポポルゴというキノコ型モンスターの身は食すことが出来るのだろうか。もしも食すことが出来るのであればまた料理のバリエーションが広がるというもの。食べられるのであればぜひ食してみたい――が、そんな私の思惑が顔に出ていたのか
「キノコといってもとてもじゃないが食べられないぞ、あれは痺れ粉を多く含んでいて……とてもじゃないが食べられない」
とサイゴドンさんがどこか呆れたように口を挟んだ。
「ま、まだ何も言ってないですよぉ」
「そうか?」
まぁ、考えてはいましたけど。
3/16:誤字脱字のご報告ありがとうございました。
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