57 遺品
私は目の前に横たわる遺体に向けて手を合わせてから、チャッピーとペスが取り外して傍らに並べたアイテムへと視線を移した。
まるで露店のように地面に並べられたアイテムは護身用らしい短剣に銀細工のブレスレット。それに羽飾りの耳飾りに、丸められた地図に上質な皮で作られたらしいウエストベルトバッグ。一体どこでつかまった人かは分からないが、冒険者にしては随分と荷物が少ないように思う。
「チャッピー、ペス、これ中身を見ていいですか?」
見るからにぺたんこなウエストベルトバッグを指さすと、チャッピーとペスは首を左右に振った。
「ミサキ、カバン、ヤル」
「え?いいんですか?」
「オレタチ、テ、オオキイ」
「カバン、テ、ハイラナイ」
「あぁ……そういうことですか」
「デモ、ナカミ、イイノアッタラホシイ」
「ナカミ?」
人間用ということもあってかウエストベルトバッグの口は、彼らロキータ族にとっては小さいらしい。ガッカリ感を示すように一度肩を落としたが、その代わりと代替案を呟く。
中身も何もウエストベルトバックは何も入ってなさそうなほどぺったんこだが、確かに宝の地図でもあれば彼らにとっては儲けものか。
念のため持ち上げたウエストベルトバックを耳の近くで揺さぶってみるが、中で音はしないし何かが入っているような感覚もない。
「これ、何か入ってますかねぇ」
言いながらも留め具を外してウエストベルトバックを開き中身を覗くが、何も見えない。何も見えないというのは文字通りだ。真上にはまだ太陽があり、明るく日差しだって刺すというのに其処は光を通さないほど暗い。いや、黒い。
「んん?」
違和感こそあったが、試しに鞄の口を下にひっくり返してみるも物が落ちることはなく、違和感だけが残ることになった。
「ミサキ、それは魔法鞄ではないか?」
「あぁ、魔法鞄でしたか。どうりで中身が見えないと…、あ、でも魔法鞄ということは、結構お金を持った方ですよね」
「もしくは魔法鞄が配給される騎士団の一員か…しかし行方不明となった団員は聞いていないので、やはり一般人だろうな」
鞄に空間魔法を施した魔法鞄は四次元空間に繋がっており、見た目以上に物が入るため高級品として販売されている。お金を貯めれば買えなくもない値段ではあるらしいが、それでも日本円に換算すれば五十万円以上もする鞄だ。
それを持っている彼は裕福な身分に違いない。
憶測はそこそこに、底も中身も見えない鞄の中に手を突っ込えば、指先に複数のものが触れる。この中にモンスターがいたらたまったものではないが、これは箱の中身はなーんだという番組あるあるの企画ではない。中にモンスターや危険なものが入っていないことを祈りながら手に触れたものを取り出すことにする。
「中身は、ええと…油に塩に胡椒、それに炭酸水にレモン…あとは鉱石、ですね」
油と塩に胡椒に関してはそれぞれ器や麻袋に複数ずつ入っていた。こちらの世界では塩や胡椒の価値は高いため、これらを複数個もっており、それに持ち運び便利な魔法鞄を愛用しているということは、恐らくは。
「商人だったのかもしれないな」
サイゴドンさんの言葉に私は頷く。
「…油も塩も胡椒も使えるものですから有難く頂きます。炭酸水もレモンも料理に使えますし。」
チャッピーとペスに鉱石は必要かと聞いたが、その石はまずいと一蹴されてしまった。どうやら彼らにも好みがあるらしい。何の鉱石かもわからないがその鉱石も頂くことにした私は、自分が持っているアイテムボックスへと料理に使う素材。それから魔法鞄には盗まれてもダメージのない鉱石を入れて、魔法鞄のウエストベルトバックを腰に取り付けた。
「油、塩、胡椒……それにモスキルト…。」
ふと、何かが引っかかるような違和感を覚えた私はモスキルトを見つめた。
そういえば彼らはどうして遺体を持ってここに訪れたのだろう。
どうしてその場で遺体を食べることなく持ち歩いているのだろう。
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次回:水曜日