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05 おっきい柴犬【設定画有】

その日は随分と早い来客だった。


愛犬である柴犬のリュウの散歩を済ませて店舗併用の自宅前へと戻ると、closeと異国文字で書かれた看板を下げた店の前にぼーっと立っている人影を見つけた。時刻は早朝5時。開店まではあと一時間もあるのだがお客さんだろうか。


いや、それにしてはやはり早すぎる来訪者だ。


この村の人間であれば狭い村ということもあり、しゃもじ屋の開店時間はなんとなく把握しているだろうし、常連にはいつも開いている時間帯を伝えているので理解してくれているとは思う。いくつかの選択肢を消したところで残ったのは初めてのお客様と困っている人――と変質者。


変質者がこんな田舎の、しかもよりにもよってうちの店に近づく理由は思いつかないのでそれ以外でお願いしたいところだ。


「ねぇ、リュウはどう思う?」


思わずリュウに向けて問いかけると、リュウは一度私を見た後、もう一度店の前に立っている人影を見つめ――そしてはっと何かに気付いたように尻尾をゆらゆらと降り始めると、私の意志と関係なくリュウはその人影のもとへと走り出し「ウォン!」と大きく鳴いた。


「ちょっ…!リュウ!戻りなさい!」


私もリュウを追いかけると必然的に人影と縮まる距離。そして距離を縮めることでようやく気付いたその人物に


「……へ、え?団長さん?」


と随分と間抜けな声が出てしまった。


「おぉ、リュウ。久しぶりだな。…とそれにミサキ、おはよう。」


「おはようございます…ってどうしたんですか?こんな朝早くに」


「いや。早起きついでにこの間頼まれていた山菜を取ってきたので、渡しにきたんだが到着が早すぎてな。かといって時間を潰す場所もないので、少し待たせてもらっていた。」


「そうだったんですね、もう少し早く戻ってくればよかった…。」


「いいや、私が早く来すぎただけだ。ミサキが気にすることはない」


そういって頭を左右に振る彼の名前はサイゴドン。王都アルタスクに仕える騎士団長だ。

2Mを超える恰幅の良い巨体は鎧を纏っており、胸のあたりには肉球マークを金色で縁取った飾りをつけており朝陽にあたるときらりと煌めいた。一見するとその巨体と厳かな甲冑姿に圧倒されてしまうのだが、厳かさすらかき消してしまうぴょこんと頭上に立つ犬耳。それにチャームポイントである吊りまろ眉につぶらな瞳とくるんと巻いた愛くるしい尻尾を持つ彼は犬の獣人だった。しかも犬種は――リュウと同じ柴犬のように見える。


挿絵(By みてみん)


相手は獣人とはいえ何か通ずるものを感じるのか、ただの柴犬であるリュウは尻尾を振りながらサイゴドンさんの足元をうろうろとしている。サイゴドンさんもそんなリュウを可愛がってくれており、足元をうろつくリュウの頭を撫で、互いに尻尾を振った。


可愛い。柴犬とおっきい柴犬の触れ合いを見てそう思うのは致し方ないことだと思う。


「…ミサキ?」


「あ、はいっ」


おっといけない。つい彼らの微笑ましい姿を見つめすぎたらしい。


サイゴドンさんは少しばかり不思議そうな表情をしている。可愛いなんて言うのは失礼だろうか。うん、きっと失礼に違いない。今思った言葉を零す前に飲み込んで、私は仕切り直しとばかりに提案を一つ返した。


「あの、あとは店を開けるだけなんで、団長さんのお時間さえよければ寄っていかれませんか?」


「あぁ、今日は弁当も買いたかったので、ぜひそうさせてもらおう」


サイゴドンさんはつぶらな瞳を細めた。相変わらず彼の口はへの字だけど、くるんと巻いた太い尻尾が左右に揺れていた。

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非常に励みになります…!


イラスト:しかしょみん様

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