43 評価
「おお……これが次の品か…」
「はい、こちらはふかひれになります。」
「また奇妙な形だな、」
深皿にはとろみのついた黄金色に輝くスープがたっぷりと注がれて、その中央に浮かぶ金色に輝く半月。まるでお月様みたいだ。
差し出されたスプーンで半月に切れ目をいれると、半月のそれは繊維の集合体なのかはらりと解けるように別れ、スプーンで救い上げると、とろみのあるスープによく使っててらりと艶やかな照りを見せた。
「はうう…っ!!」
一片を口に運ぶとざくりと歯が入る触感。そして口の中ではらはらと解ける繊維質なそれは噛みしめるたびにしみ込んだ黄金に輝くスープが溢れ、舌の奥底に染み渡っていく。
「柔らかいと思いきやざくッとした触感…それに口の中ではらはらと解けながら染み渡る濃厚なとろりとしたスープ…!とろみがあるからか、このふかひれとやらに良く絡んでいるのがまたいいじゃないか!」
まるで油紙に火がついたように言葉はぺらぺらと止め処なく溢れだす。
今まで静かに食していただけにミサキとアマリアは目を丸くしていたが、しかし言葉が止まらないのだ。
「こ、これは一体何を使っているんだ…?!」
「これはですね……じゃん、こちらです」
そういってミサキがどこからともなく出したのは、アメストリアの定番土産である鮫型モンスター・シャサメの尾ひれをかっぴかぴに乾燥させたものだ。これを家の前に下げておくとモンスターが近寄ってこないと厄除けにされているものだが、これを使ったということか。
「……これ……ってアメストリアの定番土産じゃないか!」
「はい!実は先ほど食べて頂きました半月状のふかひれがこのシャサメの尾ひれなんです。」
「な…っなんだと……?!」
シャサメの尾ひれなんて食べられないし、厄除けのお土産程度にしか使い道がないと言われているのに、これがこんなにも美味しいものに化けるだなんて。
「本来はふかひれを作るためにシャサメの尾ひれを乾燥させる工程があるので最低でも四日は掛かってしまうんですが、アメストリアの定番土産ですでに乾燥しているものがあったので作ってみたんです。」
「ううむ……ということはこれと同じ土産品を使ったということか」
「はい、…あ、作り方は内緒ですけど」
「ぐぬ……」
信じられない。あんなかっぴかぴの乾燥尾ひれがこんなにも硬さを感じさせないものになるだなんて。彼女が釘を刺されなければ是が非でもレシピを知りたかったが、こればかりは仕方が無いか。
少し離れた位置にある別席でテーブルを囲む男たちが「おォい、アマリアちゃあーん」なんて猫なで声でアマリアを呼ぶ。アマリアの視線が私に向けられる。私は無言でうなずくと、アマリアは一度頭を下げたのち踵を返して男たちの方へと向かう。
「俺たちもその嬢ちゃんが食べてるのと同じもの食べたいんだけど」
「残念だけど、今日は出せないわ」
「あぁ?!んなツレないこと言わずにさぁ…俺たち常連じゃん?」
「常連ねぇ…昨日どこ泊ったのよ」
「オ"……ッ、オーフェンだけど…」
「うちの宿じゃないとこに泊まっといてなぁにが常連よ!」
「うぐぐ…」
男たちは(一応)常連客らしい。聞いたことのないメニューが出される光景に自分たちもと思ったようだったが、あっさりと断られていた。ミサキに向けて「出せないのか?」と問いかけるとミサキは困ったように笑って「手間がかかる料理なので…」と言葉尻を濁らせながらつぶやいた。
ふむ。
「オイ、そこの」
私はうんと年の離れた男たちへ向けて声をかける。
「あぁ?」
「残りで構わないなら食べても構わないぞ」
「!いいのか?!」
「あぁ、」
男たちは貴族や王族とは違って紳士さの欠片もない、どちらかというと粗暴寄りにも見えたが随分と可愛らしい、いや素直な性格をしているらしい。子供がおやつを与えられた時みたいに、ぱああっと表情を明るくしたのでアマリアに目配せをすると、アマリアは手慣れた手つきで男たちのテーブルへと食べかけの食事たちを並べてゆく。普通は食べかけなんて遠慮するだろうに、そんなに腹が減っているのか、それとも魅力的に見えたのか。まぁ、その答えも彼らが食せば分かるか。
もう少し味わいたかったが、まぁ致し方ない。
「嬢ちゃん、恩に着るぜ」
リーダー格の男が私に向けてぱちん!と茶目っ気たっぷりに片目を閉じる。私はそれにご愛想程度の笑みを返す。
「う、う、う、うめぇ!!」
「なんだこれ!俺たちが今まで食ってきたものとは全然違うじゃねぇか!」
「うう、このテリーヌってやつ、野菜が新鮮でうまいなぁ…田舎を思いだすなぁ…」
「タタイも散々食ってきたけど、ふうわりとしたこの感じは食べたことないな!うまい!」
「それに、嬢ちゃんが絶賛していたこのフカヒレってやつもうめぇじゃねぇか!」
男たちは大の大人だというのに、恥ずかしげもなく美味い美味い!と声を大にして言いながら食べている。他席に座った貴族らしき身なりの良い客人たちは、迷惑そうな表情を浮かべていたが視線を向けるうちに興味が食べているものに移ったようで、文字通り視線が釘付けとなっていた。
見て美味しい。食して美味しい。何よりじゃないか。
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次回:6/10金曜日




