39 ブラウランの使い方
「このブラウランってアメストリアの方はどうやって食べられるんですか?」
「基本的には剥いて食べるんだけど、ブラウランパイなんかも作ったりするわね」
「へぇー…」
なるほど、食べ方は普通だ。
ブラウランの表面をさっと洗い流してから桃のように柔らかな皮を剥くと、露わになった実本体も確かに青い。真っ青だ。それも食用色素を使ったみたいに、馬鹿みたいに青くてとてもじゃないが食べようとは思えない見た目であった。うーん、どうして青って食欲がそそられないんだろう。
かといって、これって食べられるんですよね。なんて名産のそれを目の前に彼女たちに問いかけられるわけもなく、私は意を決して一口大に切り分けたブラウランを口へと運ぶと口の中でじゅわわと甘い汁が広がる。
「んんっあまいですね…!」
癖もないそれは糖度や味で言うとメロンにも近い。
なんにしてもこれだけ甘いのであればデザート一択だ。
しかしこの青みを活かしてまずは食べさせる気にならないと売れ行きにはつながらないことを考えると、デザートの選択肢はだいぶ絞られてくる。青い生クリームもアイスも毒々しいしなぁ、ううん。
「あ」
そうだ。
「これなら……、アイテムボックス」
そう言ってアイテムボックスから取り出したるは、二枚の布巾と筒状に巻かれた透明の何かだ。薄さと長さは反物と変わらない。しかし透明な其れに触れるとゴムみたいに弾力があり、よく見てみると一本一本が繊維質で上下左右に規則なく織り込まれている。
筒状に巻いたそれを使用する分だけ、30cmほど伸ばせば包丁で切り取ると残りは筒状に巻いたまま調理台の上に置いて、切り取った30cmのそれは細かく千切ってから空の鍋二つにそれぞれ放り込むと、アマリアさんが鍋の中を覗き込んだ。
「ねぇ、これは何?見たことのない食材ね」
というかこれって食材なの?とアマリアさんが首を傾げる。
「これはスライムを干したものです」
「ス……スライム?!スライムってあの、そこらへんにいるモンスターよね」
「えぇ」
あ、アマリアさんが疑っている。そりゃあそうだ、今までスライムを食用とする人はいなかったんだから。
「ふふ、百聞は一見に如かずですよ」
「ひゃ、ひゃくぶん…?」
「あ、 えーと色々と人から聞くよりも、実際に自分の目で確かめるほうが確実ですよ」
「へぇ…!確かに料理人ってのは作って自分の目で、自分の口で確かめさせるのが手っ取り早いか」
「そういうことです」
次は布巾を広げてその上に皮を剥いてその中に適当に切ったブラウランをのせると付近で包んで、ブラウランごと持ち上げてボウルの上で。そして、思い切り握る。これでもかというほど握る。握った瞬間に果汁がぼたぼたぼたと溢れようがなんだろうがとにかく握る、時には揉んで、強く握る。
するとボウルの下にはブラウランの果汁が溜まるというわけだ。
ふと手のひらを見ると真っ青だ。
うーん。なんて毒々しいんだろう。
一度手を洗ってから新しい布巾でしぼった汁をもう一度布巾で濾してブラウランは準備完了だ。
次に干した乾燥スライムが入った鍋の一つに牛乳と少量の砂糖を入れて、発火石コンロで沸騰直前まで温めると中に入れた乾燥スライムが解けて無くなっていく。それももう一度濾してからワイングラスに半分ほど注いでいき、それは冷却石の冷蔵庫へ。
次に同じような手順でブラウランの果汁をもう一つの鍋へと入れて乾燥スライムが無くなるまで溶かすと発火石を止めて、今度は熱々になった果汁をワイングラスではなく適当な深皿に入れて冷蔵庫の中へとしまった。
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次回:6/2(水)23:00頃