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37 問題点

ベルベネット・アメストリアは五階建ての宿屋だった。


規模感的にも内装的にも宿屋というよりもホテルに近く、煉瓦作りの内壁は触れるとひんやりと冷たいが、煉瓦特有のざらりとした感触はなく、どことなく滑らかだ。数メートル間隔で作られた窪みには希少品と言われている発光石が設置されており日暮れ間近だというのに室内の隅から隅まで明るく照らしている。

地球であれば、いや日本であれば電気がついていることが当たり前だが異世界ではこうもいかない。ましてや希少で値が張る発光石をわざわざ設置しない普通の宿屋では中々考えられないことだ。


「わあ、部屋も広いですね!」


連れられるがまま、階段を上がり4階フロアの丁度真ん中あたりの部屋へと入ると、日本的広さで言うと12畳ほどの部屋がお目見えとなる。うん、一人部屋なら十分な広さじゃないか。

流石にベッドに置かれた敷布団までは柔らかくなかったが、ということはなかったが、心配には及ばない。何故ならワタワタという全身を綿で包むモンスターの綿をかき集めて手縫いで作ったお手製の布団をアイテムボックスに入れてきたから。

あとで一人になったらこっそり出しておこう。


「ふふ、気に入ってくれた?ここの部屋も海がとっても綺麗によく見えるの。」

 

「ソラリア村は内陸で海が見えないですから、なんか新鮮でいいですね…。」


カーテンのされていない窓からは言葉通り、下に下っていく街並みと、それから海が見える。広がる海の地平線へと沈んでいく夕焼けには思わず見入ってしまうほど。なんて美しい光景なんだろう。


「……綺麗」


「ありがと。……私は小さい頃からこの景色を見てるけど、何度みてもぜーんぜん飽きないの。だから皆にもこの景色を見てほしいし、無くなってほしくない。」


「ミアさん…」


「あは、ごめんね。なんかしんみりしちゃった。ね、もう日暮れだし、早速だけどご飯食べない?あ、もちろんリュウくんもね」


ぱちりと片目を閉じて茶目っ気たっぷりにウインクをリュウに贈るミアさん。リュウも嬉しそうに尻尾を左右にちぎれんばかりに振っていた。



1階のレストランに降りて、端の席につくとミアさんのご家族からの挨拶をそこそこに、頼んでもいない料理が運び込まれてきた。異世界のため基本的に何の魚を使っているのかは分からないが、カルパッチョに焼き魚、殻付きの貝がたくさん入ったボンゴレスパゲティに、こぶし大の切り身が三つほど刺さった串。野菜や貝がたくさん入ったトマトスープ。港町を生かした料理が多いが、カルパッチョやトマトスープに入った野菜のお陰で並べられた料理は色鮮やかで美しい。


品数が多いが、ソラリア村では鮮度を考えるとあまり出せない港町だからこその料理たちに心が弾む。


「お姉ちゃん、これは流石に多いんじゃ…」


「なーにいってんだい!うちへのアドバイスを貰うんだから量は多くて良いんだよ」


そういってまた一皿机の上に置いたのは、ミアさんの姉、アマリア・ベルベネットさんだ。ミアさんと違って束ねずに降ろしたワインレッドの髪は毛先が僅かにウェーブがかっており、少し動くだけで豊かに実った胸と共に揺れて、たまたま居合わせたお客さんたちの目線が彼女へと向けられているのがよく分かる。


「さ、ミサキちゃん食べて!」


「はい!いただきます」


そういって私は手を合わせる。異世界の人々からすれば、なぜ両手を合わせるのだろうと不思議かもしれないが、今更手も合わせずにいただきますを言うのは日本人的にも気持ち悪く、こればかりは異世界に合わせることが出来なかった。


フォークを手に取り早速カルパッチョを口に運ぶと、瑞々しい野菜と淡泊な白身魚に絡む濃厚で爽やかなドレッシングの味が口の中に広がる。うん、美味しい。焼き魚も食べなれた味で万人受けしそうだし、トマトスープも言わずもがな。

こぶし大の大きな正方形切り身を三つほど串に刺して焼いたらしい焼き魚は、噛むとぐに、と少し弾力があるようだが、それを何とか齧り取ると口の中であふれるほどの魚のエキスが喉を通って落ちていく。なんたる旨味、なんたるおいしさだろう。先ほど食べた焼き魚よりも味が濃く、それでいて感触も全く違うものはインパクトがあるじゃないか。

生粋の日本人としては米と一緒に食べたいが、米が並ばないあたりもしかしたらアメストリアの食文化は地球で言うイタリアやアメリカなどに近いのかもしれない。


特に料理の味に対して問題があるようには無いようで、周りに座っている客へと視線を向けると運ばれた料理を見て「やっと来た!」と不満を漏らしているようだったが、食事を食べ始めるとその不満はすぐに消えていた。やはり味への問題ではないように思う。


「あの…ミサキちゃん?」


「あ、はい!あの、とっても美味しいです!」


「はぁ…良かった。何か問題点とかないかしら」


「問題点なんてそんな、本当においしいですし料理の味には問題がないと思います」


「料理の味、には?」


「はい、料理の味が問題というよりも……ううん、この宿の運営方法でしょうか」


「運営方法?」

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■次回更新:5/26(水)

次回は調理シーンです!

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