31 ポポルゴの使い道
痺れにより死ぬことはないとは言え、ポポルゴが食用ではない事をしった上で食べるのは余程の変り者か飢餓状態の者ぐらいだろう。
もちろん若い者にはなんでも挑戦させるべきなのだろうが、挑戦の先にいるのは俺だ。なるべくならば食べたくはない。
そんな俺の感情が顔に出ていたのか、ミサキは
「あ、でもポポルゴは食べませんよ!」
と一言述べる。
食べなくても使用するのであれば変わらない気もするが。
「食べないって、じゃあどう使うんだ?痺れで使えたもんじゃねーだろ」
「そこなんですよ!」
「あぁ?」
俺の言葉にすかさず突っ込みが入る。
いや、この言葉を待っていたといっても過言ではない突っ込みだ。
「私はポポルゴの痺れというのは電気由来のものなのかなと思っていたんですが、どうやらその痺れは電気由来ではなく"タンパク質分解酵素プロテアーゼ"のものだと分かったんです。」
武器も魔法も持たないミサキが何故森や山にいるポポルゴと対峙しているのか。ミサキを気にかけている身としては咎める必要性もあったのだろうが、対峙したことにより発見したものをいま此処で蔑ろにする事は出来ずにとりあえず最後まで説明を聞いたものの、耳にしたことのない単語に俺はつい手のひらを出して肉球を向けた。
「まてまてまて、そのタンパク質…ぶん……なんちゃらってなんだ?」
俺は大工だ。当然そのあたりの詳細な知識を知らないし、知るわけもない。問いかけにミサキは両手のひらを合わせて良い質問だとばかりに笑う。
「タンパク質分解酵素プロテアーゼというのは、タンパク質を分解する効果があるものでして、例えばタンパク質のお肉と一緒に、タンパク質分解酵素プロテアーゼを持つ食べ物を一緒に漬け込むとお肉がとっても柔らかくなるんですよね。」
「ほー…」
なるほど、分かりやすい。
「それが痺れを引き起こすのか?」
「はい!んー、分かりやすいところで言うと、私たちがよく食べるものでパイナップルってありますよね。あれをたくさん食べるとなんだか舌が痺れたりしませんか?」
確かに人によって痺れの感じ方は違うものの、パイナップルを大量に食べると痺れのような痛みを感じる事はある。
「パイナップルも実は同じようにタンパク質分解酵素プロテアーゼを持っていて、舌を保護している粘膜のタンパク質を分解してしまうので、酸味を持つパイナップルの場合には、酸味が刺激となって、痺れに似た感覚を引き起こすんです」
「ははぁ、なるほど。ポポルゴはそのタンパク質を分解する力が特別強いから食べれたものでもないし触ることで痺れると。」
「そういうわけです!というわけで、今回漬け込んだものがこちらにあるので焼いていきますね。」
ミサキはポポルゴの身とバウンティの肉を入れた袋を取り出すと、両手で端を持って俺に見せてから調理台へと置く。
ぺらぺらぺらといつもよりも饒舌に喋るミサキはなんだか楽しそうだ。
「随分手際がいいな」
俺の言葉にミサキが上機嫌に笑う。
袋から取り出された肉には細かく刻まれたポポルゴの身がびっしりとついているのだが、茶色く変色していることもあってかお世辞にも見栄えは良いと言えるものではなかった。
ポポルゴの身を取り除くためにボウルの中に水を張ってバウンティ肉に付着したものたちを洗い流すと、大きめの上に葉っぱのようなものを敷いたバットの上に並べていく。
「それはダスイ草か?」
「えぇ、よくお分かりですね」
ちなみにダスイ草は脱水の力を持つ草だ。
ダスイ草でポポルゴの身を洗い流した肉たちを包んで、手のひらで軽く押すことで圧をかけてやれば、脱水が完了だ。ミサキはフライパンの下に敷いた発火石に魔力を送りフライパンに向けて熱を送ると、手のひらで熱を確認した後手慣れた手つきでバターをひとかけら投入。
その時に響く、じゅうっという音の心地よさといったらもう。
フライパンの面を滑りゆくバターの匂いが辺りに広がり、まだ肉も焼かれていないというのに唾を飲み込むことになる。
飯シーンを描いているとお腹がすいて仕方が無いです。
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