30 バウンティのステーキ作り【設定画有】
大工仕事の朝は早いが、その分上がりも早い。
というのが通常なのだが今日に限って夜も遅かった。そんな日はさっさと帰って汚れを落としてから酒を飲みたいが、かといって帰宅後に飯を作る気力もなく、飯を催促する腹の虫を摩ることで眺めては、今の状況にぴったりな店前で足を止めると、扉の真横に張り出された大きなタペストリーを見つめた。
「いらっしゃいませー」
扉を押すと、カランカランなんてやけに軽いベルの音が響く。
「おう、ミサキ。まだやってるか?」
親しい店主の名前を口に出してから中を覗き込むと、俺の存在に気が付いたらしいミサキが紫色の髪を揺らして振り返り、そして
「あぁっテヤンデイさん!丁度よかった!」
と声を弾ませた。開口一番に丁度よかったって、一体何があったんだ。俺の仕事内容を考えると、どこかの修理と考えるのが妥当だが、この店は俺がミサキに貸している店だし何よりメンテナンスはつい最近したばかりだ。
「お、おう、どうした?」
「実はこれから新作開発…というわけではないんですが、新しい調理方法を試したくって。テヤンデイさんさえよければそれをお出ししたいんですが…。あ、もちろん御代は頂きませんので!」
なんだよ、驚かせやがって。俺はミサキに気付かれないよう、そっと安堵の息を零す。
ミサキの作る料理に外れはないので願ってもない提案だが、それにしても新しい調理法だなんて一体何を行うつもりなのだろうか。
「新しい調理方法って…なんだなんだ、俺は一体何を食わせられんだぁ?」
「料理名でいうとステーキ弁当です!」
「ス、ステーキ?!そんなもんをタダで食わせてもらえんのか?」
意地悪混じりに呟いた言葉だったが、かえってきた言葉はあまりにも意外な言葉だった。思わず動揺が言葉に滲み出る。
別にステーキがとんでもなく珍しいってわけではないが、田舎村で自給自足の面も多いこの村でステーキってのはご馳走なわけで。それを無料で食わせてくれるというのだからノーという選択肢はないに決まっている。
「今回は無料で食材が手に入ったんです。食材の提供はそこに座っているルイさんから。」
気配でも消しているのか、カウンターの端の方に座った黒髪の坊主の姿に気付かなかった。視線が合うと坊主は俺に向けて頭を下げる。ふむ、中々良い奴そうだ。
「おう!なんだか悪いな坊主!ご相伴に預からせてもらうぜ。」
俺が店内に入りカウンターの丁度真ん中あたりの席に腰を降ろすと、ミサキは早速とばかりに調理スペースへと移動してフライパンを発火石を敷いた其処に乗せているようだった。
調理方法を変えるといっていたのでてっきり焼きの作業を大幅に変えるのかと思っていたがそうではないようだ。
「…しっかしステーキなら焼くだけだろ?新しい調理方法って何をするんだ?」
今のところこれといって真新しいものはない。
椅子の背もたれに背を預けて両腕を組みながらミサキに向けて問いかけると、ミサキは人差し指を立て指先を右に左に右にと揺らした。
「チッチッチ、確かに焼くだけではあるんですが、今回の食材はこちらを使います!」
そういって俺に向けて見せてきたのはバットに乗せられた大量のステーキ肉たちだ。赤身が強く色合いは牛肉や豚肉なんかよりもずっと色が濃くワインレッドに近い。
「ほう?」
俺は呟く。しかしミサキから声は返ってこない。
それどころかミサキはにこにこ笑っていやがる。
「……」
「…」
「………いや、肉なのは分かるけどよ」
「あっ」
ミサキは俺の言葉にはっと我に返ったような顔をする。
そりゃあ俺は肉を好む獣人ではあるが、だからといってすでに切り分けられた肉を一目見て、牛や鳥以外にも食用の肉にもなるモンスターがいるなかで、ピタリとあてられるほど目は肥えちゃいない。
「し、失礼しました。これは黒狼…じゃなかった、えぇと」
「バウンティ」
チラリと隣の坊主を見て、坊主が助け舟を出すように呟く。
なんだかやけに連携が出来ているというか、なんというか。
「あ、そうだ。バウンティのお肉なんです」
「バ………。」
いや、待て。
バウンティの肉と言やぁ、嚙み切れない固い肉で有名な肉じゃないか。
「いや、ミサキ、バウンティは………」
「大丈夫です!絶対に私が美味しくしますから!」
輝いている。ミサキの目も、それから雰囲気までもがきらきらと輝いていやがる。そんなミサキに向けて、絶対まずいからいらないなんて誰が言えるだろう。いや言えるはずがない。
「お………おう。」
ミサキは俺の言葉にやったぁ!と声を上げる。
普段は一人で店を切り盛りしていることもあって大人びていると思っていたが、ミサキもなんだかんだまだ17なんだよなぁ。好きなことをしている時のミサキはなんだかいつもよりも幼い。
「それではこの固くて不評なお肉に使うのはこちらです!」
上機嫌にも言葉を弾ませながらミサキはもう一枚何かがこんもりと乗ったバットを目の前に出す。バットには鶏ささみでも毟ったような白い身質のものがこんもりと盛られているが、やはりその情報だけで何かを特定することが出来ずに首を傾げるとミサキはにやりと怪しく笑う。
あ、嫌な予感。
「こちらはポポルゴです!」
「ポ、ポポルゴォ?!」
「はい!」
「でもポポルゴは痺れ属性を持っていて食べられたもんじゃねーんじゃ…」
というか食べている奴なんか見たことがない。
それほどまでにポポルゴは食用ではないということが世界の常識になっているのだ。
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イラスト:しかしょみん様
5/14 ブクマ100名ありがとうございます!
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