28 中身
眼差しに尊敬の念が混じる。ルイさんは少しばかり不思議そうな顔をしていたが私にアーティファクトを握らせると手を離してから、私に視線を合わせた。
「どうする?やってみるか?」
無理にとは言わない。別にアーティファクトの解除ができなくて死ぬわけでもないからな。
そう、ルイさんは呟く。確かに、モンスターとも対峙せず今のまま、田舎村であるソラリア村でお弁当屋を経営していればアーティファクトの解除が出来なくても困ることはない。しかし出来て困る事はない。なんせアーティファクトの解除は金になるのだから。
「はい!」
「……そうか、アーティファクトの解除はステータスオープンよりも難しいから少しずつやっていこう。まずは目を瞑って、アーティファクトを感じるところから。」
「アーティファクトを…感じる?」
「あぁ、この解除には加護の観察する者や、鑑定スキルアーティファクトはもちろんだが魔力を通じさせることが必要でな」
目を瞑る前にアーティファクトを見つめる。
アーティファクトはリングケースほどの大きさで、外装は土器質レンガ風のタイル張りになっており、一つのタイルにつき細かな縦線が入っている。几帳面にも揃えられたタイルは古代物であるはずなのに歪みや欠けはなく、開くための隙間や鍵穴がないせいか、素人目からするとただのブロック体しか見えない。
それから瞼を閉じると、集中のために深呼吸を一回。改めて手のひらに乗せたアーティファクトを親指や指先で撫でる。縦線が入った部分は凹凸の繰り返しで、タイルの表面は少しざらついている。
ルイさんは魔力を通じさせることが必要と、そう言っていたっけ。
指先に僅かな魔力を込めると、血が巡るように指先がじんわりと暖かくなるのが分かる。それから瞼を閉じて目の前は真っ暗な筈なのに、ちょうど手のひらのあたりに青い火の玉のようなものが浮かび、私の指先がぴくりと動いた。
「何か……何か、瞼を瞑っているはずなのに青いものが…あるんです。これって、ルイさんにも見えてるんですか?」
「いや、俺には見えていない…が、それはこのアーティファクトの核だろうな」
「核?」
「あぁ、核はこのアーティファクトを開けるための鍵穴みたいなもので、ここに鍵となる言葉を唱えるんだ」
「言葉は?」
「言葉はアーティレリーズだ。」
アーティファクトを解除するからアーティレリーズ。
目を瞑って核に意識を向けると、私は息をゆっくりと吐き出す。そうして改めて落ち着きを取り戻せば、私は教えてもらった言葉を唱える。
「アーティレリーズ!」
唱えた瞬間、核はふっと灯を消すように消える。かわりに手のひらに乗ったアーティファクトが小刻みに振動を始め、「かしゃん、かしゃん、かしゃん」と何重にもなった施錠を開いていくような音を響かせ始めた。
なんだろうこの音は。
一人でに動き始める音、震えるそれ。しかし手のひらにはそれが形を変えるような感覚が無かったため、おそるおそる瞼を開いてみたものの、やはりアーティファクトは音こそ鳴り続けるものの見た目に変化はなく、「かしゃん、かしゃん、かしゃん」という音が不気味に響くばかりだ。
見た目に変化が無いのに振動して一人でに音が鳴るって、なんか不気味だ。だって爆発しそうじゃないか。
私は助けを求めるようにルイさんに視線を動かしたその瞬間、手のひらでアーティファクトが弾けるように崩れ、手のひらには小さな指輪が残る。これが古代のアイテムということだろうか。
中心部に三角形の――トリリアントカットの宝石が鎮座した細身の指輪は、宝石を一石しか使っていないシンプルな作りをしているためか古代感が薄く、宝石は私の髪色と同じ紫色、恐らく種類はアメジストではないだろうか。
「これは……?」
「ん、これは……創造のリングだな」
ルイさんは指輪を見つめて呟く。
「創造の…リング?」
「あぁ、この指輪を装備している間は錬金が出来るようになるんだが……うん、これはお前に。」
「え、いいんですか?」
「俺はすでに錬金スキルを持っているから必要ない。ただこれはスキルではないので、指輪を外したり、壊した瞬間錬金が出来なくなるので注意してくれ。」
スキルは一生もので、道具は消費物ということか。
元々レア度の高いアイテムとはいえ、指輪を外すことで能力値が変わるのであればより一層大事にしなければ。
「ありがとうございます、これ大事に使わせていただきますね…!」
男の人から指輪を貰うだなんて異世界にやってくる前にもされたことがないのに、なんだか変な感じだ。
いつもありがとうございます。
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