24 縁
加護によりステータスを視たり、アーティファクトとやらの解除が出来ることになるということは、誰しもが持っているような、一般的なものではないということだ。つまりはこの加護によって二つの仕事を受けることが出来るのか。一つはステータスを視るお仕事、それとアーティファクトの解除に携わるお仕事。
ステータスを視るお仕事については需要が大きい分単価は低そうだが、アーティファクトの解除は、アーティファクトの希少さから依頼は少ないだろうがその分単価は高そうだし、十分商売として成り立つような気がする。
「そ、そんな凄いものを私が貰ってもいいんですか?シルフィードさん。」
「あぁ、構わないさ。私を助けてくれた恩人だ、何かをせずに君たちを送り出すわけにはいかない。さあ、こちらへ。」
なんてことない、と言わんばかりの口ぶりだ。龍ってなんだか凄い。いや、シルフィードが凄いのだろうか。
シルフィードの言葉に青年はシルフィードの前に立ち、私へと視線を向ける。彼もいっしょに受けるのであれば怖くはなさそうだ。私は先導するように先に立つ青年に感謝しつつ、私も一歩前に出て青年の隣に立った。
緊張する。風船が萎むときみたいに空気を吐き出しては、胸の前に左手を持ってきて拳を握り、その拳を右手で包み込むも、やっぱり妙な緊張は取れない。初めてのことってどうしてこうも緊張するんだろう。
シルフィードが泉から上がると泉が少しばかり波立って、ざぷんと溢れた水が私の足元を濡らして広がってゆく。
「さぁ、ゆくぞ」
シルフィードの穏やかな声。その声色に敵意や悪意なんてもの微塵もはなく、鱗のない筋ばった手を動かしては鋭い爪が伸びる指先を私たちに向けた。爪先に光の玉が二つ生まれて、ふよふよと僅かに揺れながら浮いた光の玉は小さくなると私と青年の胸元に別れて胸の中へと沈むように入っていく。
そこに感触こそなかったが、何か、心が満たされるようにじんわり暖かく、胸の前にやった腕を降ろしたが光の玉が入っていた胸元は特に変化がないようだった。
「シルフィード、感謝する」
「あぁ、」
青年が言い、シルフィードは頷く。
確かに光の玉が私の中に入った瞬間、暖かいような感覚がしたのだがそれ以降、全く違和感だとか変化を感じなかったせいで、なんというか、実感が湧かない。しかしシルフィードを前に本当に授けてくれました?なんて無神経なことを言える筈もない。
「ありがとうございました」
とりあえず愛想よく笑ってみる。
青年はまた何かわかってないなと言わんばかりの視線を無言で送ってきたが、シルフィードは気付いていないのか目元を線にするようにして笑う。ううん、こればっかりは後で確認するしかないのかもしれない。
「さて、私はそろそろ行かねば……」
名残惜しそうにシルフィードは呟く。
「どこに行かれるんですか?」
私は尋ねていた。うん、これぐらいの質問は的外れでもなんでもないだろう。シルフィードは僅かに笑いを滲ませると
「それは言えないな。」
と一言呟いた。
意地悪、と言いかけたが、そうか。恐らく龍とは希少な生き物。いくら私たちが命を助けたからといって次の目的地を言おうものなら噂となって龍を狙う者の耳に入るかもしれない。まぁ、もちろんシルフィードがどこに言おうが私は告げ口する気はないけれども、きっと仕方のないことなんだと思う。
シルフィードは長い尾を左右に揺らすと体がふわりと重みを感じさせない様子で浮き上がり、あっという間に私たちよりもずうっと高い視線へと移動する。木々がなく開けた場所だからか、真正面にある太陽を隠すように浮かんだシルフィードは、背に太陽の光を受けてなんだか神々しく見える。
「縁があればまた会おう――。」
次話より調理に入ります。
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2021/05/05:ブクマ90越えありがとうございます!大台まであと少しですね、嬉しいです。