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20 青年

「あ、あなたは一体……」


「………。」


青年は私を一瞥することもなく、もう一度飛び上がってこちらに向けてむき出しにした鋭い爪を振り上げる黒狼を見上げ、横に払った手のひらを黒狼へと向けた。


黒狼は好機とばかりに振り上げた太い手を振り下ろすも、鋭い爪は間一髪のところで空を斬り――そして何かに弾かれて大きく体がのけ反り黒狼は「グゥ……ッ!」と低く唸りながら、後方へと跳び退いた。


いま、一体何に弾かれたというのだ。


黒狼もわけがわからないようで、崩した体制を立て直しながらも青年を睨みつけ、威圧と苛立ちをいり交ぜた咆哮を上げながら長い尻尾を地面に叩きつけた。まるで人間でいう貧乏ゆすりだ。シタン、シタンと長い尻尾を何度も地面に叩きつける様に一層不安を煽られたが、目の前の青年といえば黒狼を見つめたままで、動揺すらしていないようだった。


モンスターと対峙する場面の多い冒険者ともなれば、このような修羅場は朝飯前ということだろうか。


いまだに震えの止まらない手足を持つ私とは正反対の青年は、手のひらを肩口へと向けて、背中に下げた大剣のグリップを持ってするりと抜けば、両手に持ち替えて黒狼に向けて構え、それを大きく振り上げて"誘い"を見せた。


「…電龍波!」


青年が技名らしき単語を呟くと共に大剣を振り下ろすと、どういう原理か電気を纏った衝撃波が小さな龍の形となり地面を抉りながら三又に分かれて、黒狼へと飛んでいく。

しかし、黒狼は前足を蹴り高く飛び上がってはかわして、わずかに及ばない。いや難なく避けたようにも見える。


大剣を振り下ろしたことにより上部が隙となった青年に向けて、黒狼は飛び上がりながら口の中でまた火球を生み出したようだったが、黒狼が火球を放つ瞬間、青年が先に声を上げる。


「来たれ神の雷…ライディーン!!」


青年が呟いた直後、間断なく電光がうねり耳を聾さんばかりの凄まじい破裂音が轟き、目の前にいる黒狼へと一閃。雷が黒狼を貫いた。黒狼は防御する間もなく雷が直撃したこともあり、体を地面に倒すとやがて動かなくなった。青年は黒狼へと近付いて足で胴体を軽く押して状態を確認すると、大剣を背に戻したのち、外套を翻しこちらに視線を向けた。


「………大丈夫か。」


大丈夫なわけがない。いまだ手足の震えが止まらず、言葉が喉につっかえてうまく出て来ない。そんな私を見てか青年は、私の方へと歩みよると私の目の前で膝を折りしゃがんでしっかりと目を合わせた。ずっと背を向けていたので分からなかったが、青年は随分と整った顔をしている。前髪こそ長いが、隙間から覗く金色の瞳は黒髪によく映えている。


「……、………深呼吸しろ。」


目の前の人物が善良な人物なのか、危険人物なのかは分からないが、あの黒狼から守ってくれたこと。それと第一に心配してくれたことを考えたら、信じても良い、…のだろうか。

指示通りに深呼吸を数度繰り返すと、青年は私に視線を合わせたまま。「大丈夫か」と問いかけ、私が頷きを返すと私の返答に、青年は一言「そうか」と静かに呟いた。


「あの、あなたは…?どうして助けてくれたんですか?」


「……助けた理由は特に、無いが………しいていうなら、そうだな、先ほど歩いていたら……犬のおもちゃがあって君を見つけた。」


そういって青年はおもむろにポケットに手を突っ込むと、骨型の――そう、リュウのおもちゃを出した。確かにあれはリュウのおもちゃで、犬のおもちゃだ。でも、どうしてあれを見ただけで、犬のおもちゃと分かったんだろう。素材的にもこの世界では作られていなさそうなものなのに。もしかして、この世界にも犬のおもちゃが作られているのだろうか。


青年の言葉一つに"もしかして"という考えがいくつも巡る。


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