10 魔法鞄【設定画有】
帰るまでが遠足であるというように、任務も帰るまでが任務だ。帰り道にポポルゴではない別のモンスターやタチの悪い盗賊に絡まれる可能性だってあるのだ。ここで食事を取らせない選択肢はない。
半ば無理やり理由をつけては新人兵士二名が持ってきたという干し肉に、生の芋と人参、それと林檎を受け取ると、代わりに空いた手で腰に下げた小さな革鞄から、明らかに革鞄よりもサイズの大きな弁当を二つほど取り出して新人兵士二名に差し出せば、新人兵士の視線は弁当ではなく革鞄に注がれた。
「おぉ、騎士団長のその鞄って……魔法鞄だったんですか?!」
「あぁ、そうだが…?」
「羨ましい…!俺たちも魔法鞄が買えたら良かったんですけど高すぎて手が出せず…だからまぁ普通の鞄に野菜やら何やらを突っ込んできたってわけなんですけど…」
この世界の鞄にはアイテムボックスが備わった魔法鞄と呼ばれるものと、普通の鞄の二種類がある。
空間魔法によりアイテムボックスが備わった鞄は、見た目がコンパクトなものだとしても中には広い空間が広がっているため魔法鞄よりも大きなものも収納できるようになっている。しかし上位魔法とされている空間魔法が施されている魔法鞄はレア度も高く、値段も普通の鞄の数倍と高くなってしまっているのだが。
「ふむ、……お前たちはまだ新人兵士だが、いくつか階級が上がると国から魔法鞄が支給されるからそれを目指すといい」
まぁはじめに支給される魔法鞄と言えば、あまり容量のない魔法鞄のなかでも一番グレードの低いものではあるが。嘘は言っていない。サイゴドンの言葉に新人兵士は顔を見合わせて「そうなんですか?」と目を輝かせる姿に思わず目を反らしたい気持ちはあったが、此処で目を反らしても胡散臭くなるだけだ、と表情を変えることなく頷いた。
「俺頑張ろう…!」
「お、俺も…!」
弁当が無い二人に加え他の新人兵士たちも口々にやる気を示したところで、
「……それではこれを食べるといい」
そう言って改めて弁当のない新人兵士二名にサイゴドンが弁当を差し出した。
「サイゴドン団長…もしかして…」
「これを見越して俺たちの分も…?」
「う、うむ」
あまりの純粋な言葉に少々言いよどんでしまったが、サイゴドンの返した言葉を純粋にYESと捉えた二人は両手で大事そうに弁当を受け取ると「ありがとうございます!」と声を合わせて深々と頭を下げた。サイゴドンはその言葉に指先でちょいちょいと首元を掻くと早く食べるように促すが、二人はそこで一つの違和感を覚えた。
「…あれ、この弁当あった…かい?」
「任務が始まって結構な時間が経つのに、なんでまだあったかいんだ…?」
手のひらに広がるじんわりと暖かい弁当に二人は訝し気だった。
任務が始まったのは早朝で、現在の時刻はお昼を過ぎていた。
つまりは六時間以上たっている筈なのだ。
しかし目の前のこの弁当は温もりを保ったままでまるで湯たんぽのように暖かい。何か細工があるのかと調べたい気持ちはあるものの、腹の虫が早く食べようとばかりにぎゅるると鳴き急ぐので、疑念をそこそこに弁当の蓋を開けば暖かい湯気が頬を撫でていった。
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イラスト:しかしょみん様