01 寂れた村の弁当屋【設定画有】
秋巡るソラリア村。
木々は赤く黄色く鮮やかに色づき、風に吹かれた木の葉が昇る日の出を追いかけるように舞い上がる。時刻は日の出が過ぎた早朝6時頃。息が凍るほどではないとはいえ、秋の風は少々肌寒い。男は身に纏う外套の中でひんやりと冷えた自分自身を抱きしめるようにして、ぶるっと体を震わせた。
「うぅ…寒ぃ…。」
「だからあの時フェザード製にしたら良いと言ったのになぁ。」
「くそ…っ、あの時負けてなかったら俺だってアレが買えたっていうのに… 。」
「負けたお前が悪いよ、ディッツ。 」
ディッツは横で笑うアントニーを小さく睨んだ。
そりゃあしっかりと裏起毛が施されたフェザード製のお高い外套は暖かいだろうさ。それに比べて俺の外套といったら酷いもんだ。布切れ一枚で特にこだわりもなく作られた薄っぺらい外套は通気性抜群で、ひんやりと冷える秋風を受け止めるどころか、どうぞどうぞといわんばかりに通すのだから。
おかげで外套を着ているというのに俺の体はひんやりと冷たく、追い討ちをかけるように悪戯な風が外套をなびかせるのだ。
「ううう、寒い。」
唸りながら背を丸めて前かがみになるのだが、アントニーは俺の行動とは正反対に姿勢を正すよう背中を叩いて、にかりと笑った。
「まぁまぁ、そうぼやくなよ。」
「そりゃぼやきたくもなるだろ、あのまま山の洞窟に篭ってりゃこんなに寒い思いは……。」
「とはいえ、山でもその格好は寒いからな。」
「ぐぅ、」
「まぁそれにここにきたのは、他でもないうまい弁当屋があってな」
「弁当屋ぁ?」
こんなところに?
いわゆる都会と言われる街から外れたソラリア村は建築物の数が20戸も満たない小さな村だった。
蜂蜜色の石を積み重ねて出来た家が並び、家々の間にある大きく開けた道をびゅうと吹き抜ける風が小さな村を通り抜けていく。
村を示す看板も、村と同じように齢を重ねているようだが、随分と長い間手入れをされていないのか色鮮やかに塗られていたであろうペンキも陽に焼けて薄くなり、この村の衰退を物語っているようだった。
そんな寂れかけた村に、うまい弁当屋ねぇ。
まぁ田舎には田舎特有の美味い野菜なんかがあるんだろう。
「そう。そりゃあ山で日が昇りきって暖かくなるまで篭っていてもいいが、そろそろ食料も尽きてきたしな。」
「うぐ。」
俺は言葉を詰まらせた。
確かにアントニーの言うとおり、手持ちの食料といえば数日前に干した肉があるだけだ。もちろん食料袋だけでなく財布の中身も寂しいが、今後狩りで稼ぐのであれば食を必要以上に抜くことは危険である事は知っている。まぁ、正直なところそろそろ暖かい飯も恋しい。
「確かになぁ……干し肉もそろそろ飽きたわ」
「だろ?」
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イラスト:しかしょみん様