表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/50

7 半年の成果

ブックマーク・評価・感想ありがとうございます!




 それからしばらくの間、俺はスキルの練度上げに集中した。

 エリスとの訓練で剣術スキルを上げつつ、買ってもらったスキル本で錬金術のスキルを習得していく。



 そうして半年ほど経った時のことだ。


「やっ、はっ、たぁっ!」

「わ、わ、わ……」


 俺とエリスの訓練は様相を変えていた。

 最初はエリスのほうが良かった勝率が、段々と俺に傾き始めているのだ。

 毎日ちゃんと考えながら訓練して体の動かし方を身につけていった俺は、多種多様な攻め方でエリスを追い詰めていく。逆にエリスは防戦一方だ。


「このぉっ!」


 苦し紛れに俺の木剣を強く弾こうとするエリスだが、俺はそれを受け流し、強引に動いて隙だらけになった体に木剣を当てた。勝負あり。

 これでまた俺の勝率が上がった。

 最近は俺ばっかりが勝っている。

 寝取られ回避のためにはさっさと強くなる必要がある。いい傾向だ。


 とはいえ、レベル自体は上がっていないからレベル1の人間同士ならまだしも、肉欲のゴーシュを相手にするにはまだまだ届かない。やっぱりレベルは上げておきたいな……。


 それと、変わったと言えばもうひとつ。


「さすが私のユーリ! 大丈夫? 疲れてない? お姉ちゃん、ヒールかけてあげようか?」

「テッサ姉……疲労はヒールじゃ治らないんじゃない?」


 俺に甘々だったテッサ姉が激甘になった。


 しかし、私のユーリって……いつから俺がテッサ姉のになったんだよ…………なんて、鈍感系ラノベ主人公みたいなことは言わない。

 俺はヒロイン全員と結ばれるハーレムルートを狙っている。

 テッサ姉の好感度が上がることは望むところ。ハーレムルートに一歩前進だ。


 ……でもハーレムルートって冷静に考えたら相当クズな行動だよな。

 だって自分からハーレム作るためには複数の女の子に告白しなきゃいけないんだろ? クズじゃん。

 まぁ、NTRハーレムルートの寝取りキャラがやる行動がそれなんだけどさ。


 女の子のほうから告白されるにしても、最初の子にOK出した後に他の女の子にもOKって返事するわけだし……やっぱクズだよなぁ。

 どうやってハーレムルートに持っていくべきか……。


 ゲームだとヒロインたちを寝取られずに冒険を続けていくと途中で告白イベントがある。

 その時に一定の好感度以上のヒロインから告白されるんだ。

 好感度が高いヒロインが1人だけだったら1人から告白されてその子のルートに突入するんだけど、2人いる場合は同時に告白されてどちらか1人を選ぶ。

 そして、3人から告白された時にはやはり全員同時に告白されて誰か1人を選ぶ選択肢に加えて「全員」という選択肢が出るから、それを選べばハーレムルートに入れる。

 いややっぱクズだな……。


 ゲームはゲームだからご都合主義でもいいけど、現実だとどうなるんだろう。


 例えば、今のテッサ姉なら恋人同士になることはできると思う。

 けど、そうなったらエリスが俺のことを好きになっても身を引いちゃうんじゃないだろうか。


 そう考えると、テッサ姉の好感度はそのままにしておいて、あえて決定的な関係にはならないでおくってのもありかもしれないな……。

 でもそのムーブは完璧にクズだ。


 どうしたもんかなぁ、なんて考えていると、


「もー! 最近のユーリ、強すぎ! いったいどうしちゃったの!?」


 エリスが剣を手放して地べたにへたり込んだ。

 服の間から覗く肌は汗まみれで、訓練中の彼女の動きが激しかったことを物語っていた。


 対して俺はあまり汗をかいていない。

 当然だ。俺は必要最小限の動きでエリスと試合していたからだ。

 エリスの動きは無駄が多すぎた。だから彼女だけ汗をかいているのだ。


「ちょっと前まではアタシのほうが強かったのに!」

「エリスといっしょに訓練してたおかげだよ」

「それならアタシも強くなってるはずでしょ!」


 確かにそれはそうか……。同じ訓練をしているのだから、エリスも強くなっていなければおかしい。

 でも、実際にはそうなっていない。


 その差は何なのか。

 俺が思うに、意識の差だ。


 剣術に限らず、全ての分野でそうだが、上達するためにはただ数をこなせばいいだけじゃない。

 なんでこの動作をしているのかを意識するのとしないのとでは、上達の速度に大きな違いが出る。

 ひとつひとつの動作の意図の言語化、と言ってもいいだろう。


 エリスはまだ漫然と剣を振っているだけに見える。

 よく言えばセンス、悪く言えばなんとなくでやってしまっているんだ。


 でも、子供にそれを言って納得してくれるかな……。

 俺も子供だけど、いちおう前世で20年以上生きた経験があってそういう風に思えている部分が大きい。


 ゲームだと、エリスは若くして騎士団の小隊のリーダーに抜擢されるほどの実力の持ち主という設定だ。

 だからこれから強くなっていくと思うけど、そういえばエリスが若くして騎士団の小隊長になれる経緯とかは設定してなかった。

 そこを設定しとけばもっと有効なアドバイスとかできたかもしれない。


「ま、へこんでも仕方ないか。よーし! 休憩終わり! もう一本いくよ、ユーリ!」

「うん!」


 よかった……変に気落ちはしてないみたいだ。

 エリスはうまく気持ちを切り替えたらしく、そう言って立ち上がる。




 その後、テッサ姉の熱い応援を受けながら、日が暮れるまでエリスと訓練を続けた。


 そして俺は、ある決心をつけていた。




 * * *



「いってきまーす!」

「あれ? もうそんな時間かしら? 今日はちょっと早いんじゃない?」

「う、うん! 今日は早めに始めようかって昨日エリスと話してたんだ!」

「そうなのね。お姉ちゃんは後で行くから、がんばってね」

「うん! いってきます!」

「はい、いってらっしゃい」


 テッサ姉の声を背にしながら、俺は家を出た。


 ……ふぅ。危なかった。

 実は今日、俺は訓練前に、街から出て少し歩いたところにある森に行こうと思っている。

 ゲーム通りなら、その森は序盤のレベリングエリア……スライムやゴブリンといった最弱のモンスターが出る地域だ。

 そこに出てくるモンスターは、レベル1でも十分に倒せる程度の強さしかないはずだ。


 俺は今日、モンスターを倒すつもりだった。


 俺が前世の記憶を思い出してからもう半年が経っている。

 ゲームが始まるまで12年だったのも、あと11年半になった。

 それなのに、スキルの練度は上がってもレベルは全く上がっていない。


 当然だ、モンスターを倒していないのだから。


 テッサ姉の寝取られを回避するためには今のうちにレベルを上げていかなきゃいけない。

 まだ時間はあると思っちゃいけない。

 そう思っているうちにあっという間に12年が経ってしまう。


 それに、レベルは高ければ高いだけいい。

 少しでもレベルを上げるため、時間は無駄にできない。

 本当ならもっと早く来てもいいくらいだった。


 ただ、この世界はゲームじゃなくて現実だ。

 ゲームでは最弱レベルのモンスターしかいない設定だったとしても、現実では違っている可能性もあるし、そもそも本当に今の俺で倒せるかどうかもわからない。


 ……逆に殺されてしまうかもしれない。


 父さんも母さんも口をすっぱくして言っていた。

 モンスターは怖いから、絶対に子供だけで街の外に出ちゃいけないって。

 特に森には入っちゃいけないとも。

 街道の近くなら騎士の巡回でモンスターは少ないそうだが、森は奥に入れば入るほどモンスターが多くいるのだそうだ。


 特にゴブリンは俺みたいな男は殺すが、女は巣に連れて帰るらしいから要注意だとも言っていた。

 言葉は濁していたが、そこはゲームの設定どおり苗床にするんだろう。


 もしスライムやゴブリン以外……レベル1じゃ倒せないようなモンスターがいたり、実際に見てみて倒せそうになかったら、一度街に戻る。


 でもゲーム通りだったら……俺は今日、モンスターを倒す。


 そしてレベルを上げる。


 そう決意して、俺はこそこそと街の外に向かうのだった。




 * * *




 モンスターのいる森に入ってしばらく、俺は息をひそめながら進んでいた。

 万が一、強そうなモンスターがこの森にいて、そいつと遭遇しそうになったら気づかれないうちにすぐ逃げられるようにだ。


 そうやって森の中を進んでいくと、一体のスライムが見つかった。

 スライムは例の国民的ファンタジーRPGでおなじみの粘体状のモンスターだ。

 大きさは俺の頭くらいで小さい。

 どう見てもそんなに危険はなさそうなフォルムだが、たまに顔に引っ付かれて窒息死させられる人が出るとか。


 ゴブリンは集団で行動することもあるそうだが、スライムは常に単独で行動しているらしい。

 その例に漏れず、見つけたスライムも一体で行動していた。

 こちらに気づいている様子はない。


「よし……あいつならちょうどよさそうだ」


 俺は音を立てないように気をつけながらスライムの後ろから近寄る。


 そして、木剣をスライムに振り下ろした!


 スライムは最後まで俺の存在に気づくことなく、木剣によって体を簡単に引き裂かれ、短い悲鳴をあげて消えていった。

 後に残ったのは、ゼリー状の塊だけだった。


「…………倒したのか?」


 この世界では魔物は倒されると素材を残して煙のように消える。

 スライムを倒した際に落ちるのは、このゼリー状の塊だ。


 なんというか、拍子抜けだった。

 これならレベル1の俺でも十分倒せる。

 ゲームだとレベル1のままでも一撃で倒せるほど弱くはなかったはずだが……いや、そうか。剣術スキルの差か!


 この半年で剣術スキルの練度が上がってるから、同じレベル1でも攻撃力が違って、俺は一撃で倒せたのかもしれない。

 これなら油断さえしなければ、順調にレベルアップしていけそうだ。


 それに、素材も手に入った。

 この素材は錬金術で使用することができるものだ。

 素材がなければ使うこともできない錬金術スキルだが、これでスキルを使って練度を上げることができる。


 もっとも、スライムの素材で作れるものなんてたかが知れてるが。

 まぁ練度を上げるにはちょうどいいか。


 もう何体か見つけて倒してみよう。


 そう思った時だった。



「きゃぁっ!」



 俺の背後から、エリスの叫び声が聞こえたのは。



よかったら、感想に「ちゃんと更新できて偉い!」って褒めてくださると嬉しいです。

次回は本日(7/15)の午後7時に更新予定です。


【こぼれ話】

人間の生活圏内では、基本的に街道にはモンスターは出てきません。

なので、街から街への移動中はモンスターとエンカウントしません。

モンスターと戦うには、脇道にそれて出没エリアに行く必要があります。

それもゲームにおけるレベル上げに時間がかかる要因の1つになっています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ