5 これから起きること(エリスの場合)
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往来の喧噪の中で、ひときわ大きな罵倒。
反射的にそちらを見ると、ひとりの男がボロボロの服を着た女の人を蹴とばしていた。
あいつは……!
その男に、俺は見覚えがあった。
見覚えがあると言っても、この世界での話ではない。前世での話だ。
エリスの寝取りキャラ……奴隷商人のグレマートンだ。
親友がデザインしたキャラデザ通り、でっぷりと太った不摂生そうな容姿だ。
いや、少し若いか? ゲームが始まるまで12年あるから若くてもおかしくはない。
でも、ゲームでは五十代の設定のはずだからあまり変化はなく、一目でグレマートンだとわかった。
ゲームでのノナリロ王国は奴隷の売買は合法となっている設定だった。
おそらく現実となったこの世界でも同様だろう。
しかし、合法といえどルールはある。グレマートンは違法に奴隷を手に入れて売っていたんだ。
そんなグレマートンの悪事を明るみに出したのが、ゲーム開始前のエリスだ。
グレマートンはエリスの手によって捕まったのだけど、それと同時にエリスに目をつけてしまう。
そして裏で手を回して、主人公たちが旅立ってしばらく後に解放され、エリスに復讐……つまり、エリスを自身の奴隷にしようと虎視眈々と狙ってくるのだ。
そうして主人公たちの旅の途中で、あるイベントが起きる。
自身の奴隷売買に違法性はなく、すべては冤罪であると主張したグレマートンによって、エリスが逆に訴えられるのだ。
もちろん、それは事実無根なのだが、グレマートンは国の中枢に根回しをしてエリスを有罪に仕立て上げる。
そして、膨大な慰謝料を支払うか、期間限定で奴隷になって返済するかを選択させてくる。
この寝取られルートのいやらしいポイントは、要求される慰謝料がその時点の主人公たちの全財産の10倍の数字になる点だ。
そして、支払い期限は錬金術のスキルなしでは金策に集中してようやくノルマの半分が到達できるかどうかというタイミングになる。
当然、そんなシビアなタイミングだから1周目だとまず間違いなく支払えずにエリスはグレマートンの奴隷になってしまう。
ただ、このルートではエリスが奴隷になった後も慰謝料を支払えばパーティーに復帰させられるという救済措置を設けている。
しかも、エリスが奴隷としてグレマートンに奉仕することで慰謝料が返済されるという名目で、時間経過によって慰謝料も減っていく仕組みだ。
期間限定で奴隷になるというのはそういうことだ。
期間終了まで奴隷として過ごせば、エリスは解放される。
しかし、慰謝料を支払わずに期限を終えた場合、エリスが戻ってくるかというとそうではない。
ある一定のタイミングまでにエリスを取り戻さないと完全に寝取られて、解放されても自分の意思でグレマートンのもとに戻り、奴隷として一生奉仕することを誓ってしまうのだ。
だから、プレイヤーは奴隷にされないように期限までに支払うか、奴隷になってもなるべく早く取り戻さなければいけない。
お金という要素が『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』で重要になってくる理由がそこだった。もっとも、マリアンヌ姫ルートでも必要になってくるわけだが……。
「ユーリ、行こう」
「うん……」
テッサ姉に促され、グレマートンたちから視線を外す。
グレマートンはエリスの寝取りキャラではあるが、女好きな性格だし、テッサ姉みたいな可愛い子を見たら奴隷にしたいって思うかもしれない。あまり見すぎてテッサ姉に目をつけられたらまずい。
ただでさえ、ハーレムルートは進行が難しいんだ。余計な要素は増やしたくない。
足蹴にされてる子はかわいそうだけど、ここはさっさと立ち去ろう。
テッサ姉に手を引かれて俺は足を踏み出すが、
「おい、そこの小僧と小娘!」
ビクッ!
な、なんだ!? 見てたのがバレたのか!?
それともやっぱりテッサ姉の可愛さに気づいて奴隷にしようとするのか!?
くそ……こんなゲームも始まっていない状態で変なフラグなんて作りたくないが、テッサ姉が狙われるなら俺が守る!
「ふむ……小娘の割に胸がでかいではないか。しかもなかなか可愛らしい顔をしておる。相当な美人になりそうだ……ワシの奴隷にならんか? ん? ワシに買われればお前の家族も楽になるぞ?」
グレマートンはズンズンと俺たちの近くへと寄ってきて、そう言ってきた。
怯えるテッサ姉。
俺はそんなテッサ姉をかばうようにして、テッサ姉に手を伸ばすグレマートンの前に立ち、
「やめろ! テッサ姉に手を出すな!」
そう言い切った。
「何だ、お前。ガキのくせに口の利き方が…………」
グレマートンは忌々しそうに俺の顔を睨みつけて嫌味を言おうとするが、途中で止まる。
……何だ? どうした?
「小僧。お前…………ワシと会ったことがあるか?」
「え……?」
予想外なことを言われた。
グレマートンと会ったこと?
そんなこと、あるわけがない。
グレマートンは王都を拠点にしている。
これまでの6年間で俺も王都に来たことは何度かあるはずだし、どこかですれ違っててもおかしくはないけど、会ったと言えるほどのことがあるわけがない。
「ない、と思うけど……」
「そうだな……そのはずだ……だが、何だ? ワシはお前のことを知っている気がする……」
知っている? 俺のことを?
そうやってグレマートンが呆然としていると、
「そこ! 何の騒ぎだ!」
巡回中の騎士たちがやってきた。チャンスだ。
「テッサ姉! 行こう!」
「あ、ユーリ!」
グレマートンが騎士たちに気を取られた隙に、俺はテッサ姉の手を引いて走り出した。
騎士たちに対してグレマートンがごまかす声を背中で聞きながら、俺たちはグレマートンから離れていった。
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次回は本日(7/14)の午後7時に更新予定です。
【こぼれ話】
グレマートン氏はこの時点で違法な奴隷売買を行っています。
屋敷にはこの話のような感じで強引に手に入れた女性奴隷が100人以上います。
もちろん初日のうちに(大小はありますが)全員に手を出しています。