49 大商人の提案
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ロイドさんとの約束の時間が訪れ、俺たちは昨日も来たロイドさんの屋敷へと赴いた。
俺たちは食堂へと通され、出された食事に舌鼓を打った。
この世界に生まれてからはもちろん、前世ですらも食べたことがないような豪華な料理の数々に、マリー様を除く俺たちは圧倒されながらもデザートまでありがたくいただき、外もだいぶ暗くなったと思ったその時、
「ユーリさん。お話があります」
給仕をしていたメイドさんを食堂から下がらせつつ、ロイドさんが切り出した。
ついに来たか、と俺は思った。
昨日、ロイドさんが俺たちに宿屋を提供する際に口にした「パイプを作る」という言葉。
冒険者ということになっている俺たちとパイプを作るのならば、それは何か依頼をしたいということに違いない。
しかし、メイドさんを下がらせたのは意図が読めなかった。
まさかと思うが、表に出せないような依頼をさせる気なのか!?
もしそうなら、3人には関わらせたりはできない。俺だけが受けよう。
そう思っていたが、ロイドさんの口から出てきた言葉は、
「あなたは【剣の勇者】じゃありませんか?」
「――っ!?」
俺の予想していなかった言葉だった。
「……【剣の勇者】というのは、魔王を倒したという伝説の勇者のことですか?」
ひとまず俺はごまかそうと試みた。
なぜロイドさんが俺を【剣の勇者】じゃないかと言ってきたのかはわからない。
だけど、もしロイドさんがそのことで俺たちを利用しようとしているのだとしたら。
ロイドさんの意図がわからない以上、迂闊に俺たちが【剣の勇者】パーティーだと答えるわけにはいかない。
「……警戒させてしまいましたね、申し訳ありません。私はあなた方に危害を加えようというわけではないのです」
そう言って、ロイドさんは安心させるように微笑んだ。
「私は独自の情報ルートで【剣の勇者】が現れ、各国の上層部に魔王の復活を警戒するようにという通達があったことを知りました。そして、ノクロスに出現したゴブリンの突然変異を倒したという冒険者――それが【剣の勇者】だろうと推察したのです。そして、先日のキャラバンでのオークの突然変異を倒したユーリさんたちこそが、おそらくその冒険者だろうとも」
「…………」
「皆さんが【剣の勇者】パーティーだということを伏せている理由も、大方の予想がつきます。かつて【剣の勇者】と【槍の勇者】によって倒された魔王の復活……それは世界中の人々に衝撃を与えることでしょう。故に、魔王軍の存在が世に出てくるまでは表立って活動はできない……違いますか?」
だからこそメイドを下がらせた、とロイドさんは続けた。
この話を他の人に聞かれるのは【剣の勇者】の望むところではないでしょうから、とも。
「……もし俺が【剣の勇者】だとして、ロイドさんはなんでそれを俺に言ったんですか?」
「先ほども申し上げましたが、あなた方に危害を加えるつもりはありません。ただ、あなた方に無条件の援助をしたいのです」
「無条件の援助……ですか?」
ロイドさんの言葉に、俺はテッサ姉たちと顔を見合わせる。
「ええ。あなた方が本当に【剣の勇者】であるならば、我がマートン商会は協力を惜しみません。ユーリさんが魔王を倒すまで、マートン商会で取り扱っている武器や装備を無償で提供しますし、また、マートン商会と提携している宿屋での宿泊費をこちらでお持ちしましょう。いかがですか?」
「それは……」
ありがたいなんてレベルの話じゃない。
この旅で俺たちはノナリロ王国から援助を受けられることになっているけれど、その援助に頼りすぎるとノナリロ王国はカマラ帝国からの融資を受けるようになる。
そのカマラ帝国の融資が一定の金額に達することでマリー様の寝取られルートが進行してしまうのだ。
それを防ぐためにここまで可能な限りノナリロ王国からの援助は受けないように旅をしてきて、援助なしでもちょっとしたプレゼントができるくらいになってきたところだ。
マートン商会の援助を受けられるならば、ノナリロ王国からの援助を受けずに――マリー様の寝取られルートを進行することなく、魔王を倒す旅が楽になる。
俺にとっては願ったり叶ったりの話だ。
「でも、どうして……?」
「魔王に世界を滅ぼされては困るから……というのはもちろんですが、一番の理由は魔王を倒した後の世で商売をやりやすくするためです」
「商売をやりやすく?」
「はい。世界を平和に導いた【剣の勇者】様に協力していたとなれば、我が商会の評判はうなぎ登りでしょう。それを見越してのことです」
つまり、【剣の勇者】を商会の宣伝塔にしたいってことか。
「いかがですかな?」
ロイドさんの問いに、俺たちは――
* * *
翌日。
俺たちはトレンタの市街を歩いていた。
「それにしても、昨日はびっくりしちゃったね」
「そうね……いきなりあんな提案をされるなんて」
話題は昨日のロイドさんから聞いた援助の提案のことだ。
昨日はその場では即答せずに、いったんみんなで話して決めるということになった。
トレンタを出るまでには結論を出す約束だ。
「マリー様から見て、あの提案はどう感じましたか?」
「そうですわね……あの方が言っていたのは嘘ではないと思いますわ」
マリー様は幼い頃から王族としていろいろな人たちと交流してきていた。
その中で相手の人となりを観察するうちに鑑定スキルを発現させたわけだ。
そんな彼女が言うのであれば、ロイドさんの言っていたことは本心からのことなのかもしれない。
確かに、【剣の勇者】に協力した商会だなんて肩書は、魔王を倒した後の世の中でかなりのアドバンテージになるだろうしな。
「援助をしてくれると言うなら、ありがたく受けさせていただいたほうが良いかもしれませんね」
「わたくしもそう思いますわ」
俺の言葉にマリー様が頷いてくれる。
それなら、今日にでもロイドさんのところにもう一度行って、俺が【剣の勇者】だと明かして(昨日の段階ではまだそうハッキリと言わずに別れてしまったから)援助を受けると言うとしよう。
「ところでユーリ。今日はどこで情報収集するの?」
「あ、うん。今日は港の近くで――」
「や、やめてください!」
……ん? 何だ?
どこからか女性の険しげな声が聞こえた。その声のほうを向くと、
「へっへっへ。姉ちゃん。ひとりなんだろ?」
「俺たちと遊びに行こうぜ」
「そんなことを言われても……」
そこには、見るからに荒くれものといった容姿の男たちに囲まれる女性の姿があった。
こういう街にも、ああいった手合いはいるもんなんだな。
なんとなく、その女性の姿がノクロスの温泉でナンパされていたマリー様の姿に重なって、
「おい。やめろよ」
俺は男たちにそう声をかけていた。
* * *
数分後。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……あなた、強いのね」
ごろつきたちは仲良く道で寝ている。
俺の言葉に逆上して殴りかかってきたから、ちょっと眠ってもらったのだ。
「助けてくれてありがとう。この人たち、すごくしつこくて……」
「いえ、当然のことをしたまでで――」
女性が頭を下げている。
彼女は胸元がゆるめの服を着ていた。
そのせいで、おじぎをすると深い谷間が見えそうになって俺は言葉を失う。
谷間がエロいから――ではない。
その谷間に、見覚えのある紋章がちらりと見えたからだ。
「あの、失礼ですが……お名前は?」
「え? ミラですけど」
「――っ!」
俺はその名前を知っている。
ミラは【槍の勇者】の仲間――いや、ハーレム要員の1人の名前だった。
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次回は来週末に更新予定です!
【槍の勇者】の仲間がトレンタにいる理由とは――!?
【こぼれ話】
ミラさんにゲーム内で立ち絵はありません。
なので、紋章を見て名前を聞くまでユーリくんは気づけませんでした。
※10/11追記
ミラさんの名前を誤って「ミランダ」と書いてました。
初期設定だと「ミランダ」だったので、ごっちゃになってました。
次からちゃんと設定を見直して書きます。ごめんなさい。




