46 大陸一の大商会
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「ねぇ、ユーリ。アタシたちに会いたい人って、誰なのかしら?」
「さぁ……わからない」
エリスの問い掛けに、皆目見当がつかない俺は首を振る。
「でも、クリスさんの知り合いみたいだし、悪い人じゃないと思う」
俺たちは今、クリスさんの操る馬車に乗って、街の中を進んでいた。
馬車と言っても、さっきまで乗っていた幌馬車ではない。
豪華な装飾のついた――いわゆる貴族なんかが乗る馬車だ。椅子もふかふかで座り心地がいい。
目的地までちょっと距離があるということで、馬車を利用している。
この馬車を手配してくれたのも、クリスさんの言う俺たちに会いたい人らしい。
「こんな立派な馬車をすぐに用意できるのですから、裕福な方なのは間違いありませんわね」
「やっぱり、マリー様から見ても良い馬車なんですか?」
「はい。ひけらかすわけではありませんが、わたくしがノナリロで利用していたものと比べても遜色はありませんわね」
「マリーちゃん、こんな立派な馬車に乗ってたんだ……」
ふかふかの椅子にご機嫌だったテッサ姉がマリー様の言葉に驚嘆している。
王族のマリー様がそう言うなら、けっこう良い馬車みたいだな。
俺がこの世界で生まれたのは庶民の家だし、前世でもリムジンみたいな立派な車に乗ったことがないから、立派だということはわかってもどれくらいのグレードなのかわからなかった……。
この馬車に乗ってからすでに30分ほどが過ぎようとしていた。
窓から見える景色は出発した頃とは一変していて、どうにも上品な街並みになっている。
道行く人の服装も高級そうだし、道も整備されて綺麗だ。
「高級住宅街って感じね」
「そうだね……」
同じく窓の外を見ていたエリスの言葉に頷く。
いったい俺たちに会いたいという人は何者なのだろうか。
「ユーリさん、そろそろ着きますよ」
クリスさんがそう言って少しすると、馬車が止まる。
「すごい豪邸……」
馬車から降りたテッサ姉が開口一番、そんな感想をつぶやく。
彼女の気持ちもわからなくもない。
何せ俺たちの目の前に広がっていたのは、前世でもめったにお目にかかれないような大きな屋敷だったからだ。
「どうぞ、こちらへ」
庶民出身の俺、テッサ姉、エリスが呆けていると、クリスさんが勝手を知った様子で門の中へと招き入れてくれる。
「ねぇねぇ、ユーリ! すごいよ。噴水がある!」
「うん……」
「あっちには薔薇園も! きれい……」
「そうだね……」
興奮するテッサ姉とは対照的に緊張している俺は彼女に生返事をしつつ、広い庭を抜けていく。
そしてクリスさんの案内のもと、玄関扉へとたどりついた。
「お邪魔しま――っ!」
扉を開けると、そこにはメイドさんがずらーっと並んでいた。
俺たち庶民とは違って豪邸や噴水と薔薇園付きの広い庭に動じていなかったマリー様も、これには驚いているようだった。
「あなたがユーリさんですかな?」
「え、あ、はい……俺がユーリですが」
メイドさんたちの奥から、初老の男の人が歩み出てくる。
「初めまして。私はマートン商会の会長を勤めているロイド=マートンと申します」
「マートン商会ですって!?」
男の人――ロイドさんの言葉を聞いて、マリー様が驚いたような声をあげる。
「知ってるんですか?」
「ええ……大陸でも随一の商会ですわ」
「えっ!?」
大陸でも随一の商会って……その会長ってさっき言ってたよな。
もしかしてこの人、めちゃくちゃ偉い人なんじゃないのか?
「ああ、かしこまらないでください。この度は、我が息子のキャラバンをモンスターから助けていただいたようで、感謝の意を伝えたく、こうしてここまでおいでいただいたのです」
「む、息子!?」
ロイドさんの隣に、クリスさんが立つ。
俺たちが助けたキャラバンの責任者はクリスさんだ。ということは、必然的に――
「はい。このクリスは私のひとり息子でして。私の商会を継がせる前に別の商会で経験を積ませていたのですが、今回のようなことが起きたと知り、息子を助けていただいたユーリさんたちには感謝しています」
「そ、そんな。俺たちは冒険者として当然のことをしたまでですから」
柔和な笑みをたたえるロイドさんに、萎縮しながらも俺はそう返した。
「冒険者として、ですか……」
「……?」
「いえ、何でもありません。時に、ユーリさん。トレンタには何の用で?」
「えっと……」
いちおう、建前上は【槍の勇者】の情報を集めるためだ。
しかし、俺たちが【剣の勇者】パーティーであることや【槍の勇者】の存在は一般市民にはまだ伝えないことになっている。
ここで素直に【槍の勇者】の情報を探しにと言えば、そこから連鎖的に魔王の復活にたどりつくかもしれない。
だから俺はひとまずこう言うことにした。
「ちょっとした情報収集です」
「なるほど。トレンタはこの大陸でも一、二を争うほど貿易が盛んな都市です。情報も集まりやすいでしょう。しかし、トレンタは広い。情報を集める間、ここで滞在されるのではありませんか?」
「確かに、そうですね……」
そう答えながらも、俺はこれから起きることを考えていた。
ゲームでは、ここトレンタで1週間過ごすことでイベントが起きるのだ。
現実になったこの世界でも1週間後にそのイベントが起きるかどうかはわからない。
もしかしたら明日にも起きるかもしれないし、もっと後かもしれない。
ただ1つ言えることは、そのイベントが起きるまで俺たちはトレンタに滞在していなければならない。
「それでしたら、どうでしょう? ユーリさんたちの情報収集が終わるまで、私に宿を手配させていただけませんか? マートン商会の名にかけて最高級の宿を用意させます。もちろん、宿泊費は私が持ちますよ」
「えっ!?」
正直、魅力的すぎる提案だ。
特に宿泊費を持ってくれるのは、お金を消費したくない俺にとって非常にありがたい。
だが、都合が良すぎるとも思った。
それを感じ取ったのか、ロイドさんは言葉を続けた。
「これはクリスを助けていただいたお礼でもあります。どうか受け取ってください。それに、ユーリさんは実力のある冒険者とお見受けしました。そんなあなたとパイプを作るのは宿泊費を出すだけの価値がある、という打算もありましてね」
このロイドさんの言葉は、ちゃんと自分にも利益があるのだからと伝えることで、二の足を踏んでいる俺に首を縦に振らせるためのものだろう。
そこまで言うのならば、ここでさらに断るのは逆に無礼かもしれない。
彼の厚意に甘えるとしよう。
俺はテッサ姉やエリス、マリー様と目配せをして、ロイドさんの提案を受けることにした。
その後、俺たちはロイドさんの用意してくれた宿屋に行ったのだが、トレンタ内でも一、二を争うというほどの高級な宿屋に案内され、庶民育ちの俺とテッサ姉とエリスが呆然としたのは言うまでもないだろう……。
ここ、一泊いくらくらいするんだ……。
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次回は9/26の午前7時に更新予定です。
最近ヒロインの影が薄かったので、いちゃいちゃします!(宣言)
※9/26 1:40追記
すいません、またもや仕事が忙しくてあまり時間が取れず、
9/27の午前7時に更新に変更させていただきます。




