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45/50

45 護衛終了

評価・ブックマーク・感想、いつもありがとうございます!

とても励みになっています!



「見えてきたぞ、トレンタだ!」


 先頭の馬車からそんな声が聞こえてきた。


「ユーリ、聞こえた? トレンタだって!」


 それを聞き、テッサ姉がはしゃいだような声をあげる。


「ようやく着いたわね……」

「オークロードが現れた時はどうなるかと思いましたが、無事に着いて何よりですわ」


 次いで、疲れた様子のエリスと安堵している風なマリー様が言う。


 オークたちの襲撃をはねのけてから10日が経っていた。


 オークロードの洗脳魔法は、聖剣の力で守られている俺たち以外の全員にかかっていたが、それもオークロードを倒したことで解除された。

 しばらくはみんな気を失っていたものの、すぐに意識を取り戻し、洗脳魔法による影響や後遺症もないようで、翌朝にはトレンタに向けてキャラバンは出発することができた。


 洗脳された野盗たちは縛り上げて最寄りの街に預けた。

 あとはリマンの騎士団に任せることになっている。

 念のため、野盗たちにアジトの場所を聞いて、オークロードに連れ去られた女性がいないか確認もしておいたが、幸いオークの根城になっていたそのアジトには女性の姿はなく、まだそういった被害が起きる前だったようだ。


 その後は、モンスターも野盗も現れず平和な旅路そのものだった。

 結果、オークロードによる襲撃というアクシデントがあったものの、俺たちは無事にキャラバンをトレンタに送り届けることができたのだ。


 これで護衛依頼は終了だ。

 振り返ってみると、いろんなことが起きた依頼だった。


 テッサ姉たちを狙うワルドたち【猛き虎】に賭け(アンティ)を吹っ掛けられたり。

 さっきマリー様が言っていたように洗脳魔法を使うオークの突然変異――オークロードに襲われたり。

 旅の前半は心が休まることがなかった。


 ワルドたちに賭け(アンティ)を仕掛けられた時は、これならちょっとお金を使ってでも普通の馬車で移動したほうがよかったかもしれないと思った。

 しかし、俺たちがいなかったらこのキャラバンは壊滅していただろうし、それによってさらに被害が広がったかもしれない。


 勇者として、オークロードによる被害が未然に防げて良かったとは心の底から思う。


 後半はモンスターや野盗が襲ってきたりはしなかったからだいぶ楽だったが、その代わり――


「ユーリのダンナ! 着いたみたいですぜ!」


 幌を開けて、ワルドが俺に報告してくる。


 オークロードの襲撃の一件で、俺はワルドと約束をしていた。

 彼の仲間たちを助ける代わりに賭け(アンティ)を俺の勝ちとして、今までのことを謝罪し、二度とテッサ姉たちに変なことをしないと誓うという約束だ。

 約束したとはいえ、何だかんだでテッサ姉たちにちょっかいを出すのではないかと思っていたけれどそんなことはなく、ワルドは意外にも素直に俺たちに謝罪して二度とテッサ姉たちにちょっかいを出さないことを誓った。


 しかし、それだけではなく――。


「ワルド……ダンナはやめてってば」


 あろうことか、ワルドは俺の舎弟になると言い出したのだ。

 どうやらオークロードを倒したことで俺に心酔してしまったようで、それからというもの、何かある度にこうやって俺に報告しに来るし、何かと言って俺に用はないかと聞いてくるようになった。


 テッサ姉たちに言い寄るようなことはなくなったが、大柄の男に気に入られるというのは正直ちょっとうっとうしかった。


 ちなみに、テッサ姉はこれ幸いとワルドをこき使っている。

 マリー様を真っ先に「マリーちゃん」と呼んだ時といい、テッサ姉の適応力すごいよ。


 ひとまずトレンタに無事に着いたはいいが、ワルドはこれからどうするのだろうか。

 もしかして、俺たちの旅についてくるって言わないよな?




 * * *




「ユーリのダンナ。ここでお別れだ」


 かと思ったら、トレンタに着くなり意外とあっさりとワルドは別れを告げてきた。


「ついていきたいのはやまやまだが、オレ様の今の力じゃあダンナの足手まといにしかならねぇ。しばらくは依頼を受けてレベルを上げることにするぜ。いつかダンナの力になれるようにな!」


 そう言ってワルドはニカッと笑う。

 その言葉に、俺は少し驚いていた。


 ゲームでは、主人公(ユーリ)の仲間はテッサ姉たち3人だけだった。

【槍の勇者】とそのパーティーとは一緒に戦うけど、仲間という感じではない。


 でも、現実になったこの世界でなら、もしかしてこうやって仲間を増やしていけるのかもしれない。

 仲間というより……味方になってくれる人、という感じか。


 ワルドの言う通り、彼らの今の力じゃハッキリ言って魔王と戦うには足手まといだ。


 だけど、それ以外ならどうだろうか?


 確かに俺はゲームの知識でここから先に何が起きるかはわかっている。

 しかし、突然変異を始めとして、ゲームにはなかった要素が現実になったこの世界にあることもまた事実だ。


 俺が知っているのはゲームの攻略に関することだけ。

 それ以外の部分で、俺の知らないことが起きる可能性もある。

 もしかしたら、俺たち4人だけじゃ対応できないことが起きるかもしれないんだ。


 そんな時に頼りになるのは、意外とワルドたちだったり、この旅で縁ができた人たちなのかもしれない。


「ダンナが困ったときはいつでも言ってくれ! すぐさま助けに行くぜ!」


 だから俺は、ワルドにこう答えた。


「ああ。その時は頼む」




 * * *




「ユーリさん。この度の護衛では、大変お世話になりました。正直、あなたがいなかったら私たちは今頃どうなっていたか……せめてものお礼として、報酬金額を上乗せしておきました」

「いいんですか?」

「はい。どうか受け取ってください」


 ワルドたちと別れた後、俺たちはクリスさんから依頼の報酬を受け取っていた。


 オークロードに襲われたときに倒したオークたちの素材も、1つ1つは安いとはいえ大量に手に入れていたから、この報酬と合わせてだいぶ懐に余裕が出てきたな。


 ここから先はまた少し強いモンスターが出てくる。

 そうなると、手に入る素材も高くなってくる。

 マリー様の寝取られルートの回避に現実味が帯びてきた。


 とはいえ、油断大敵だ。これからも節制して旅を続けないと。


 そんなことを考えていると、クリスさんのもとに商人の1人がやってきて手紙を渡した。

 その手紙を読んだクリスさんは驚いたような表情を浮かべ、次いで、俺の顔を見る。

 何かあったのだろうか?


「ユーリさん。今日、この後はお忙しいでしょうか? 実はあなたにお願いが……」

「お願い? 何でしょうか?」

「はい。会ってほしい人がいるんです」

「会ってほしい人……?」

ちょっと駆け足になってしまいましたが、護衛依頼編はこれで終了です。

トレンタでは箸休め的ないちゃいちゃを挟みつつ、次の物語に進めていきます。


次回は9/22の午前7時に更新予定です。

いろいろ仕事が忙しくなったりしてますが、がんばって更新します!

最近、小説書いてないと毎日が虚無すぎてつらいです……。

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