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44/50

44 完全勝利

評価・ブックマーク・感想、いつもありがとうございます!



「さ、行くわよ、ユーリ!」


 幌馬車から降りたエリスが意気揚々と告げる。

 まずはワルドから聞き出したオークロードがいたという場所に行こうとしたのだが、


「――っ!? エリス、待って!」


 その瞬間、探知スキルで何かの存在を感じた。

 俺の探知スキルの範囲内に何かが侵入した証拠だった。


 しかし、その数は1つや2つではない。

 ましてや1箇所や2箇所でもなかった。


「囲まれてる……」


 まだ距離はあるが、その大量の何かはキャラバンを円状に囲んで、じりじりと寄ってきている。

 おそらくはオークロードとオーク、そして洗脳されている野盗たちだろう。


『先ほどの襲撃で、正面からぶつかっても勝てないと悟ったのだろう。そして冒険者の男を使ってユーリたちを罠に嵌めようとしたが――』

「失敗したからこうやって囲んで攻めてきたってわけか」


 逃げ道を絶つのと同時に、全方向から攻めることで俺たちを一網打尽にするつもりか。


 本当なら、ここはレベル差に任せて各個撃破に向かうのが最善だ。

 俺たちはオークロードの洗脳魔法は効かないし、オーク程度なら何体いても遅れは取らない。


 しかし、俺たちは魔王の仕掛けた【発情】のせいで離れることはできない。

 俺と離れた途端、【発情】が発動したとしたら……レベル差があってもテッサ姉たちは負けてしまう。

 対処できるのは1箇所ずつだ。


 オークロードがそれを知ってるわけがないが、結果的に俺たち相手に最も効率的な攻め方になっていた。

 しかも、ワルドたちのパーティー【猛き虎】のメンバーが洗脳されて人手が足りないというのも、俺たちの不利に働いている。

 いや、それを見越してワルドたちを嵌めたのか?


 とにかく、今やれる対策をするしかない。


 幸いにして、まだオークたちが来るまで時間はある。

 この速度だと……だいたい30分くらいか。


「みんなを1箇所に集めよう。……ワルド。手伝ってくれ」


 それから俺たちはクリスさんにも状況を説明し、ワルドの力も借りながらキャラバンのみんなを1箇所に集めた。




 * * *




 周囲の森から迫ってくるオークたちが一糸乱れず円形を維持して、じりじりと俺たちとの距離を縮めているのを探知スキルで感じていた。


 このままならオークたちが姿を現すまで、あと5分といったところ。


 オークに囲まれていると知らせた時、商人たちは慌てふためき、強行突破で逃げようと提案してくる人もいた。

 だが、クリスさんの説得もあって、今は俺たちを信じて大人しく1箇所に集まってくれている。


 囲まれて逃げられない俺たちにとっての唯一の生き残る道。

 それは、襲ってきたオークたちを逆に返り討ちにすることだ。


 俺たちのレベルと聖剣の力があれば、それができるはず。

 迎え撃つ準備はできている。

 あとはオークたちが来るのを待つだけだ。


「……ねぇ、ユーリ。大丈夫かな?」


 傍らに立つテッサ姉が俺の服を掴んで弱音を吐く。

 この作戦で一番重要な役割を持っているのがテッサ姉だった。


「テッサ姉ならきっとできるよ。何たって、俺の自慢の仲間だもん」

「……仲間だけ?」

「え?」


 俺の言葉に、ちょっとむくれるテッサ姉。

 彼女がいったい何を望んでいるのか、あるいは俺の何が失言だったのかはすぐにわかった。


「ごめん、テッサ姉。テッサ姉は俺の自慢の仲間で、自慢の聖女で、自慢の恋人だ。だからきっと大丈夫だよ」

「うん! お姉ちゃん、がんばるね!」


 俺がそう言うと、彼女は花のような笑顔を見せる。

 もうすぐオークロードが従えるオークと野盗たちが襲ってきてここが戦場になるとは思えないほど、可憐な笑みだった。


 俺たちにオークロードの洗脳魔法は効かないとはいえ、体力を消耗していたり、何度となくかけられると洗脳されてしまう可能性はある。

 そして、これからの戦いでその危険が最も高いのは彼女だろう。

 もしも、テッサ姉がオークロードに洗脳されたら……。


 その恐ろしい想像に、ぞくりと背筋が震える。

 そんなことは起こしちゃいけない。


「テッサ姉のことは俺が絶対に守るから」

「ユーリ……」

「だからテッサ姉もさっきお願いしたこと、頼むね」

「うん! お姉ちゃんに任せて!」


 俺が改めてテッサ姉に誓っていると、


「はいはい、いちゃいちゃしないの」

「ずるいですわ、テッサ様」


 エリスが呆れたように、そしてマリー様が羨ましそうに言ってきた。


「アタシだって守ってくれるんでしょうね?」

「もちろんだよ。エリスも俺の大事な恋人なんだから。オークなんかに指一本だって触れさせるもんか」

「恋人……うん。お願いね、ユーリ」

「マリー様も、危なくなったら俺の後ろに隠れてください。そうしたら絶対に守りますから」

「わかりましたわ。信じていますわ、ユーリ様」


 俺たちが会話をできていたのはそこまでだった。


「……来る!」


 まだ姿は見えないが、探知スキルはすぐそこの茂みの向こうにオークたちが潜んでいることを示していた。




 そして、第一波がやってきた。




 ただしそれはオークや野盗が襲ってきたのではない。


「う、ぐああああああああああああああ!!!!!!!!」


 俺たちの背後に集まっていた商人たちから叫び声が上がった。

 それと同時に、周囲の茂みからオークや洗脳された野盗が躍り出てくる。


「テッサ姉!」

「うん! 状態異常回復(クリア)!」


 俺が背後を見ずにテッサ姉に呼びかけると、打ち合わせ通りにテッサ姉も状態回復魔法を使う。

 そして俺とエリスとマリー様で襲ってきたオークや野盗に対応する。


 予想通りの展開だ。


 オークロードの最大のアドバンテージは洗脳魔法で自身の(しもべ)を増やせることだ。

 俺たちが1箇所に固まっていれば洗脳魔法で一気に洗脳しようとすると思っていた。


 俺たちは洗脳魔法が効かないが、商人たちには洗脳魔法は効く。

 正面からオークたちに、背後から洗脳された商人たちに襲われたら、いくら俺たちのレベルが高いとはいえ危険だ。

 その商人たちにかかった洗脳を解くのが、テッサ姉の役割だった。


 野盗なら多少は手荒くしても大丈夫だが、商人は俺たちが守らなきゃいけない人たちだ。

 怪我をさせないように洗脳を素早く解くのが一番だった。


 しかし、レベル99とはいえ、状態異常回復魔法を何回も使えばさすがに疲弊する。

 さらに、俺たちが挟み撃ちを受けないためにも洗脳されたらすぐに解かなければならないから、テッサ姉にかかるプレッシャーは大きいだろう。


 後ろで商人たちが再び叫び声をあげた。

 また洗脳魔法をかけられたのだろう。


状態異常回復(クリア)!」


 再びテッサ姉が商人たちに状態異常回復魔法をかける。

 その間にも、俺たちは次々にオークを倒し、野盗を気絶させて無力化させていた。


 そして三度目の洗脳魔法がかけられる。

 もう一度、テッサ姉が状態異常回復魔法をかけた。


「ユーリ! このままじゃいたちごっこよ!」


 オークを斬りながらエリスが叫ぶ。


 彼女の言う通りだった。

 オークロードを倒さない限り、洗脳魔法が何度でもかけられるだろう。

 今はまだ余裕があるが、いずれ疲弊したら俺たちも洗脳されてしまう。


 一刻も早くオークロードを倒さなければならない。


「ですが、オークロードは遠くから洗脳魔法を放っているかもしれませんわ」

「それじゃお手上げってこと!?」

「……いや」


 マリー様とエリスの言葉を、俺は否定する。


「オークロードはこの近くにいる」

「えっ!?」

「どうしてそんなことがわかりますの!?」


 正気に戻した野盗が言っていた。

 ひときわ大きなオークが現れて、それから記憶がないと。


 そしてワルドも言っていた。

 突然変異が目の前に現れてから、仲間たちが洗脳されたと。


 遠くから洗脳できるなら、何故オークロードは危険を冒してまで野盗たちやワルドの前に姿を現したのか。

 考えられる理由はいくつかあるが、有力なのは2つ。


 1つは、自分の姿を見せることが洗脳魔法をかける条件であること。

 しかし商人たちはオークロードの姿を見ずに洗脳魔法にかかっている。

 となると、答えはもう1つのほうだ。


「オークロードの洗脳魔法は近距離でしか効かないんだ!」


 おそらくオークロードはオークや野盗に紛れてこの近くに潜んでいる。

 木を隠すなら森の中、ということだ。


 だから――


「まとめて倒す! 聖剣!」

『ようやく出番か』

「いくぞ! 聖剣技――」


 俺は聖剣の力を解放して天に掲げる。

 すると聖剣から放たれた光によって、天をも貫くような巨大な光の剣が出来上がった。


「セイントカリバー!」


 そしてその光の剣を水平に360度、振り回す。


 聖剣の光に斬られたオークたちは断末魔の叫びをあげて消えていく。

 対して、洗脳されていた野盗たちは意識を失ったように倒れた。

 オークロードの洗脳魔法が浄化されたのだ。

 守るべき人には傷をつけず、悪しき力のみを斬ることができる聖剣の力だった。


 オークは一匹残らず消え去り、野盗も洗脳が解けて気絶している。

 背後の商人たちも、もう洗脳魔法をかけられていないようだ。

 オークロードが倒れたことで魔法をかける者がいなくなったのだろう。


「はぁ、はぁ……終わったの?」

「そうみたいよ、テッサ姉」

「さすがユーリ様――【剣の勇者】様ですわ!」


 疲弊したテッサ姉にエリスが答え、マリー様は興奮したように俺を称えてくれた。


 洗脳魔法はかかっちゃったけど、商人たちに目立った怪我はないし、ワルドの仲間も助けた。

 襲ってきたオークは全て倒したみたいだ。

 ついでに野盗も一網打尽で捕まえられた。


「俺たちの完全勝利だ!」


 俺がそう言うと、テッサ姉たちは一斉に抱き着いてくるのだった。


よかったら、感想で「ちゃんと更新できてえらい!」って褒めていただいたり、

この下にあるらしき★をぽちっと押して評価していただけますと幸いです。


次回は9/19の午前7時に更新予定です。

キャラバン護衛のお話は次回で終わり。たぶんおそらくきっと。


※9/18追記

すいません、今週お仕事が忙しくて全然執筆時間が取れませんでした……。

更新日を9/20の午前7時に延期とさせていただきます。

どんな話にするかはもう決まっているので、もう1日、お待ちください。

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