43 懇願
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「なぁ、聖剣。前の【剣の勇者】……アレンは、オークロードと戦ったことがあるのか?」
『ああ、あるぞ』
「それなら教えてくれ。オークロードの洗脳魔法とどう戦えばいいんだ?」
待機中の幌馬車で、俺は聖剣にオークロードのことを訊ねていた。
ノクロスで戦ったゴブリンジェネラル――ゴブリンを従えるだけの突然変異とは違う、特殊な能力を持つモンスターの出現に、俺は脅威を感じていた。
オークロードは洗脳魔法を使う。
もしテッサ姉たちが洗脳魔法にかかってしまったら……それでオークロードをかばって戦われでもしたら俺はどうすればいいかわからない。
いや、そもそも俺が洗脳魔法をかけられる可能性だってあるんだ。
これで脅威を感じないほうがおかしい。
だから俺は、オークロードと戦ったことがある聖剣に対策を聞いていた。
こういうのは経験者(経験剣?)に聞くのが一番だ。
『安心しろ、ユーリ。オークロードの洗脳魔法はお前には通じない。仲間たちにもだ』
「そうなのか?」
「私たちも?」
『うむ。オークロード程度の洗脳魔法ならば、我からユーリに流れている聖なる力で無効化できる。紋章の力で繋がったテスタロッサたちも同様だ』
マジか。聖剣、便利すぎないか?
あまりにも都合がいいように感じるが、この情報は俺にとって値千金だ。
オークロードの洗脳魔法が俺にもテッサ姉たちにも効かないなら、かなり積極的な攻め方ができる。
『ただし、無効化するのにも我の力が消費される。何度もかけられればいずれ洗脳される恐れはある。油断は禁物だ』
「……ちなみに、何回くらい無効にできるかわかったりする?」
『そうだな。お前たちの強さを鑑みるに……連続で100回かけられても平気だろう』
「ひゃっ――」
100回!?
その回数に、俺だけでなく、テッサ姉たちも驚いていた。
『別に不思議ではないだろう。レベルが上がれば上がるほど、格下の敵からの攻撃ではダメージを受けにくくなる。お前たちほどの強さがあれば、オークロード程度の洗脳魔法を無効化するのに使う力はそう多く必要ない』
「そうなのか……」
何回も無効にできないと聞いて少し焦ったが、それくらい防げるのであれば問題ないだろう。
『お前たちの状態が万全でなければその限りではないがな』
「万全な状態じゃない……戦闘なんかで疲弊してたりとか?」
『そうだ』
俺の言葉を聖剣が肯定した。
「なるほど。オークロードが真正面からやってくるならともかく、手下を使って俺たちの体力を消耗させて洗脳魔法をかけやすくしてくるって可能性もある……ってことか」
「だけど、オークロードは私たちに洗脳魔法が効かないって知らないのよね?」
「うん。でも、オークロードもゴブリンジェネラルみたいに知能が高いから、効かないって知ったら対策を立ててくると思う」
「それじゃあ、逃げられたら厄介ね……」
「でしたら、先手必勝ですわね。わたくしたちの前に現れたら、倒しましょう!」
マリー様の言葉に俺は頷く。
その時だった。
「ゆ、ユーリ! 助けてくれ!」
「……ワルド?」
馬車の外側からワルドの声がしたのは。
何の用だ? 各自、馬車の中で待機して、オークたちが襲撃してきたら対処すると決めていたはずだけど……。
その声はどうにも慌てふためいたもので、俺は怪訝に思いながらも幌を開ける。
そこには、全身が傷だらけになったワルドの姿があった。
「ど、どうしたんですか!?」
「突然変異だ……」
「え?」
「突然変異に嵌められて、仲間が洗脳されちまったんだ……」
「何ですって!?」
ワルドの言葉は予想外のもので、俺はもちろん、テッサ姉たちも驚いてしまう。
「さっき、オレ様たちの幌馬車の前に小柄なオークがいたんだ。オレ様たちはそれを追えばオークたちの巣を一網打尽にできると思って追いかけた。そこに――」
「突然変異がいた……?」
「ああ」
傷を押さえながら、ワルドが頷く。
「仲間たちは奴に洗脳され、オレ様は……お前たちを罠に誘いこむように脅された」
「罠に?」
「あのオーク野郎、舐めやがって……オレ様たちならともかく、お前たちはオークを囮におびき寄せたところで迂闊に追ってこないって言ってやがった。だから、オレ様を脅してお前たちを連れてこさせようとしたんだ」
「…………」
確かに、俺たちはオークロード――突然変異の狡猾さを、一度、身をもって味わっている。
ゴブリンジェネラルの罠を経験しているから、安易に飛びついたりはしないだろう。
しかし、俺たちを罠にはめるのがオークではなく人間だとしたら?
洗脳状態の人間は、さっきまでの野盗のように獣みたいな言動しか取れないようだから、怪しむことができる。
けど、単に脅されただけで洗脳状態じゃない普通の人間が相手だったら?
……また突然変異の罠にかかっていたかもしれない。
「まぁ、あのオーク野郎の言う通りだ。迂闊にエサに飛びついて、仲間を失って……チクショウ!」
ワルドは涙ながらに声を出す。
その涙は怪我の痛みからか、それとも屈辱からか。
「だけどよ、オレ様にも冒険者としてのプライドがあるんだ。ツバ吐きかけて断ってやったぜ。そしたらこのザマだ。どうにか逃げられたがな……」
「…………」
「なぁ、ユーリ。お前たちに散々迷惑をかけておいてこんな頼み事するのは虫がいいとは思うが……オレ様の仲間を助けてくれないか?」
そう言うと、ワルドは頭を下げる。
「頼む! この通りだ! 助けてくれたら、オレ様たちのことをどうしたっていい! だから――お願いだ!」
そんなワルドの姿に、俺は――。
「……テッサ姉」
「もう。ユーリは甘いんだから」
名前を呼ぶだけで、テッサ姉は俺の考えていることを汲んでくれた。
「回復」
ワルドに回復魔法をかけたのだ。
みるみるうちにワルドの怪我が治っていく。
「こ、これは……」
「あなたたちがテッサ姉たちに――俺の大切な仲間たちにしようとしたことを許したわけではありません。賭けは俺たちの勝ちでいいですね?」
「あ、ああ! もちろんだ!」
「なら、あなたたちに俺が望むのは1つです。テッサ姉たちに、もう二度と変なことをしようとしないと誓って謝罪してください」
「誓う! 謝るから助けてくれ!」
「わかりました」
言った通り、俺はワルドたちを許してはいない。
だが、これでちょっかいを出してこないと言うならそれでいい。
「ホント、テッサ姉の言う通り、ユーリは甘いわよ」
「でも、そこがユーリのいいところだよね」
「ユーリ様の寛大さ、素敵ですわ」
俺は改めてワルドに向き合う。
「俺たちはわけがあって別行動できません。俺たちがオークの突然変異を倒すまで、キャラバンが襲われたら守ってください」
「あ、ああ……任せてくれ。でも、大丈夫なのか? アイツは一瞬でオレ様たちを洗脳したんだぞ!」
俺たちは【剣の勇者】パーティーで、聖剣の力があるから洗脳魔法は効かない。
だが、それを明かすことはできない。
だから代わりに俺はこう言った。
「必ず、あなたの仲間は助けます。約束、忘れないでくださいね」
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次回は9/14の午前7時に更新予定です。
チート聖剣技VSオークロードの洗脳魔法、勝つのは果たして!?
【こぼれ話】
「望むのは1つ」とか言いながら「誓い」と「謝罪」の2つを望むユーリくんェ……。




