41 オークの支配者
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※9/5の午前4時に前話の賭け制度関連のところを調整しました。
ざっくり言うと、異議申し立てで賭けを無効にできる設定にしました。
「どうやら被害はないみたいですね」
オークと野盗による襲撃を退けた後、俺たちはキャラバンの責任者に報告をしながら被害の状況を確認していた。
俺たちを襲いに来ていたのは、キャラバンの進む先に潜んでいた集団だけだったから被害はないはずだが、俺の探知スキルに引っかからない奴が潜んでいた可能性もある。
念のために何の被害もないと確認するべきだろうというのが俺とリーダーの見解だった。
また、念のための確認ということ以外にも、被害がないとわかればキャラバンは安心するし、その確認の間に襲撃で浮き足立っているキャラバンを落ち着かせようという意図もあった。
そのおかげか、襲撃から時間が経ったからか、いくぶんかキャラバンは落ち着きを取り戻していたようだった。
「助かりました、ユーリさん。……それにしても、まさかオークと野盗が一緒に襲ってくるなんて」
「そうですね……俺もこの目で見てなければ信じられないと思います」
「私もビックリしちゃった」
「普通、オークと人間が一緒に行動するなんてありえないはずよね……」
「わたくし、今でも信じられませんわ」
キャラバンの責任者であるクリスさんの言葉に、俺たちはそう返す。
オークはゴブリンと同じで女性はさらって子を産ませるけど、男性は容赦なく殺す習性を持つモンスターだ。
そんなオークと人間の男が一緒に行動をするなんてあまりにもおかしい。
だが、事実としてそれが起きていたということは実際に対峙した俺たちが一番わかっている。
いったいこれはどういうことなのだろうか?
そんなことを考えていた時だった。
「クリスさん! 捕まえていた野盗が目を覚ましました!」
「わかった。今行く」
商人の1人が俺たちのもとにやってきて、そう報告してくる。
先ほどの襲撃の際、オークは倒していたが、野盗のほうは気絶させるだけに留めていた。
そうして気絶させた野盗たちは戦闘が終わった後に1人残らず拘束したのだが、目を覚ましたようだ。
ちょうどいい。なぜオークと行動を共にしていたのか、問いただそう。
「ただ、様子が変なんです」
「様子が変? どういうことだ?」
「と、とにかく来てください! 暴れまわって大変なんです!」
商人の言葉に、俺とクリスさんは顔を見合わせる。
「とにかく行ってみましょう」
「ええ」
クリスさんの言葉に従い、俺はテッサ姉たちと一緒に【猛き虎】の乗っている幌馬車へと向かう。
拘束した野盗は【猛き虎】の面々に監視してもらっていたのだ。
ワルドはレベル6だと言っていた。
俺たちに比べたらレベルは低いが、普通の人間としては強いほうだ。
そんなワルドが押さえられないくらい野盗たちは強いのか?
「暴れるな! 大人しくしやがれ!」
果たして、【猛き虎】の幌馬車からはそんな声が聞こえてきていた。
「ワルドさん! どうしたんですか!?」
慌てた様子でクリスさんが幌を開けると、ちょうど拘束された野盗の1人がワルドの手に噛みついているところだった。
ワルドが噛まれていないほうの手でそいつを殴るが、野盗は一向に離そうとしない。
「この――っ!」
ついにワルドは腰に下げていた斧を手に取り、野盗に振り下ろそうとする。
すると、敏感に危機を感じ取ったのか、野盗は瞬時にワルドの手を噛むのをやめてワルドから離れた。
そして威嚇するかのような呻き声を出す。
その姿は、まるで獣のようだった。
「これは……!」
それを見て驚愕の声をあげたのは、マリー様だった。
「ユーリ様。どうにも様子がおかしかったので、わたくし、彼を鑑定しましたの」
「何か見えたんですか?」
マリー様の鑑定スキルは、レベル99の俺ですらも鑑定できるくらいに練度が高い。
そんな彼女の鑑定だからこそ、この野盗の様子の原因がわかったのかもしれない。
「……洗脳、と」
『ふむ。オークロードか』
マリー様の言葉を受けて、いきなり聖剣が割って入ってきた。
オークロード。ゲームでは設定した覚えのない言葉だ。
ロード……道という意味ではないだろうな。
たぶん「主」とか「支配者」とかのほうのロードだろう。
聖剣が言ってくるってことは、おそらく――
『オークの突然変異だな』
やっぱり突然変異か……。
俺以外に聖剣の声が聞こえる3人――テッサ姉、エリス、マリー様はそれを聞いて息を飲んだ。
俺たちが【剣の勇者】のパーティーであることは伏せてあるから、さすがに人前で聖剣と話はしないが。
『気をつけろ、ユーリ。オークロードは他者を支配する魔法を使うことができる種だ。おそらくその者たちもオークロードの支配下に置かれている』
なるほどな。だから鑑定したら洗脳って表示されたのか。
でも、魔法によって洗脳されているのなら、それは一種のバッドステータスとも言える。
「テッサ姉。状態異常を回復させられる魔法、使ってもらえる?」
「うん! もちろんよ、ユーリ」
そう答えるや否や、テッサ姉は杖に魔力をこめる。そして――
「状態異常回復」
杖から淡い光が放たれて暴れる男に降り注ぐ。
「な、何だ!?」
野盗の男と対峙していたワルドが驚いているうちに、
「……俺はいったい何を?」
さっきまで獣のように呻いていた男が正気を取り戻した。
さすがテッサ姉。レベルがカンストしている上に、回復魔法の練度も相当高いから状態異常の回復もお手の物だな。
俺たちにとっては見慣れた光景だが、ワルドたち【猛き虎】のメンバーやクリスさんはひどく驚いていた。
それはともかく。
「だ、誰だお前ら!? ここはどこだ!? そうだ! オークは!? オークはどこに行ったんだ!?」
男は正気を取り戻したが、それでも操られていた間の記憶はないのか、ひどく混乱しているようだ。
「落ち着いてくれ。アンタはオークに洗脳されてこのキャラバンを襲ったんだ。それを俺たちが返り討ちにして拘束した」
「オークに……!?」
「何があったか教えてくれ」
* * *
野盗の男の言葉によると、こうだ。
ある日、彼らのアジトにオークの群れが攻め入ってきた。
野盗たちは迎え撃とうとしたらしいのだが、オークの群れからひときわ大きなオークが現れて、そこから先は何も覚えていないそうだ。
おそらく、そこで野盗全員がオークロードの洗脳魔法を受けて、オークの操り人形となったのだろう。
一瞬で人を洗脳する魔法を使えるオークロード。
恐ろしい敵が現れたことに、俺たちは戦慄を覚えた。
ちょっと短めで申し訳ないです。今週お仕事が忙しかったです……>ω<
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※更新予告をしていませんでした!
次回は9/8の午前7時に更新予定です。




