4 スキル屋
「ここがスキル屋さん……」
「そうよ。ユーリは初めてよね?」
「うん」
前世の記憶を思い出してから数日が経った今日、俺はノナリロ王国の王都に来ていた。
買い物があるからとテッサ姉と母さんが王都に行くと知って、駄々をこねて連れてきてもらったんだ。
目的はここ、スキル屋だ。
スキルは基本的に後天的に覚えていくものだ。
覚える方法は2つと父さんは言っていた。
料理だったり、裁縫だったり、掃除だったり、日々の生活の中で繰り返し行う動作が自然とスキルの形で現れる。
エリスとの訓練も、続けていけばきっと俺には剣術スキルが現れるだろう。いや、もしかしたらもう現れているかもしれない。
これが、スキルを覚える方法のひとつ。
自然と現れるパターンだ。
しかしそれでは、自分と関係がないようなスキルは覚えられない。
魔法スキルなんかも自然には現れない。
そこで必要になってくるのが、スキル本というアイテム。
これを使えば、覚えたいスキルを習得することができるのだ。
もちろん、練度は上げていかなければいけないが。
ゲームだと、スキルを覚えるにはスキル本が必須だった。
だけどそれじゃあ日常生活のスキルがスキル本を買わないと覚えられないことになる。
だからこの世界では自然と現れるパターンもあるのだろう。
そしてスキル本を買えるのがスキル屋だった。
これはこの世界でも同じか……。
俺がスキル屋に行きたいと言ったら、テッサ姉がついてきてくれた。
テッサ姉も買い物があったはずだが、それは母さんにお願いしたらしい。
何を買いに来たんだろう……?
それはともかく、
「テッサ姉も、ここで回復魔法のスキル本を買ってもらったんだよね?」
「うん。ユーリもエリスも、怪我が多いから回復魔法があると便利だと思って、お母さんに買ってもらったの」
テッサ姉に優しく微笑みながらそう言われ、俺の胸が温かくなる。
彼女がずっと俺を気にしてくれていたことはユーリの記憶で知っていたし、そういうキャラとして設定したのも俺だけど、こうして話をすると相手がちゃんと生きた人間だってことを実感する。
そして、大切な相手だということも。
正直、テッサ姉は巨乳で優しい義理のお姉ちゃんという俺の好みを詰め込んだキャラだった。
でも、それはあくまでも属性でしか……ゲームのキャラクターとしてしか見ていない時の話だ。
だから簡単に寝取られルートなんか作れてしまったんだ。
けど、今は違う。
数日いっしょに過ごして、俺はひとりの人間として、テッサ姉のことを大切に思い始めていた。
そんなテッサ姉が魔族の嫁にされちゃうなんて絶対に嫌だ!
「あ、あのさ! テッサ姉!」
「ん? なぁに?」
「俺、テッサ姉のこと守るから! 絶対に!」
いきなりすぎる俺の言葉にテッサ姉は顔をポカンとさせた。それから、
「うん、ありがとうね、ユーリ。お姉ちゃんのこと、ずっと守ってね」
俺の頭を撫でて優しく笑った。
* * *
決意の言葉を口にした俺だが、まだ6歳でレベル1。
スキルも大したものを覚えていない。
俺のアドバンテージと言えば、これから何が起きるか知っていることだ。
そんな俺が、だだをこねてまでなんでスキル屋に来たがったかというと、もちろん寝取られ回避のために必要なスキルが欲しいからだ。
そのスキルとは――。
「あった……」
「え? これ?」
テッサ姉が意外そうな顔を浮かべた。
俺が手に取ったのは、錬金術のスキル本だった。
「ユーリ、錬金術に興味があるの?」
「うーん……興味があるって言うか……」
テッサ姉が驚くのも無理はない。
俺はずっと騎士になりたいと言っていたのだ。
騎士とは全然分野が違う錬金術のスキルを欲しがるなんて、思ってもみなかったのだろう。
しかし、この錬金術は冒険には必須レベルのスキルなのだ。
手に入れた素材から装備を作ることができるし、装備を作れるということはそれを売ってお金にすることもできるのだ。
そしてこの世界では商売をすることで商売スキルも現れることも見込める。
一石二鳥……いや、一石三鳥のスキルだ。
そしてこのお金、『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』ではかなり重要な要素になっている。
ぶっちゃけちゃうと、エリスとマリアンヌの寝取られルートを回避するには膨大な額のお金が必要になってくるのだ。
だからこの錬金術のスキル、絶対に欲しい!
でも、それだけ強いスキルを序盤で手に入れられたらゲームバランスがおかしくなるし、何よりもエリスとマリアンヌの寝取られ回避が簡単になる。
だからめちゃくちゃ高く設定したはず。
きっと買えないだろうな、と思いつつ値段を見てみる。
……。
…………。
………………あれ?
なんか、他のスキル本よりも値札に書かれてる数字、小さくない?
「あまり大きな声では言えないんだけど、錬金術ってあまり使われないスキルよ?」
「え! なんで!?」
「なんでって……だってスキルを使うのに素材が必要じゃない。素材が手に入らなかったら使えないスキルだもの。かといって、そのあたりの適当な素材を使っても良いものは作れないし、良い素材を買うのにもお金がかかるでしょう? だからあまり人気がないの」
そうか……。ゲームだと主人公たちが冒険すれば素材は自然と集まってくる。
だからこそ、このスキルは強スキルという認識で、簡単に買われてしまわないように高く設定していた。
だけど、現実になったこの世界では素材を集める手間を考えたりするとスキルの価値が著しく下がったんだ。
しかもゲームでは客は主人公たちだけだから主人公たちにとって価値があればすごく高い値段になるのも当然だったけど、現実ではモンスターを倒しに行くこともない一般市民にとって不要なスキルだ。だからゲームと比べて価格が暴落しているのだろう。
そりゃ、回復魔法とかのほうが需要あるよな……。
でも、俺にとっては朗報だった。
「俺、これ欲しい!」
「ユーリ!? 本当にこれが欲しいの!?」
「うん!」
絶対に買えないと思ってたからなぁ。
ゲームだとどんなに効率よく進めても、1周目じゃエリスとマリアンヌ姫の寝取られルートがけっこう進行したタイミングでようやく手に入るスキルのはずだ。
もちろん、そういう風に俺が作ったんだけど。
あ、でも人気がないと言ってもいくらくらいなんだろう。
さすがに俺のお小遣いじゃ足りないよな……。
なんて考えていると、
「……なら、お姉ちゃんのお金で買ってあげるね」
「本当!?」
「うん。でも、後でいらないって泣いちゃダメだからね」
「わかってるよ! テッサ姉、大好き!」
「ふふ。調子いいんだから」
そうして錬金術のスキル本を手に入れた俺たちは、スキル屋を出た。
すると、テッサ姉が俺のほうに手を伸ばしてきた。
「お姉ちゃんを守ってくれるならいっしょにいなきゃだから、手をつなごうね」
「あ、うん……」
テッサ姉にとっては、俺はまだ守るべき対象なんだろう。
今はまだスキル本を買ってもらうような子供だけど、ゲームが始まったら俺はテッサ姉を守ってみせる!
そんなことを思いながら母さんと合流するためにテッサ姉と歩いてた時だ。
「早く歩かんか、この奴隷め!」
そんな声が聞こえてきたのは。
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次回は明日(7/14)の午前7時に更新予定です。
【こぼれ話】
主人公はいちおう6歳児なので、意識的に子供っぽく振る舞っています。