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36 新たな国へ

評価・ブックマーク・感想、ありがとうございます!

暑い日が続いていますので、熱中症などお気をつけください!



「ユーリさん。来てくださり、ありがとうございます」


 テッサ姉たちがシャワーから出てきて、朝食を食べた後、俺たちは昨日の約束通りにアザーストの騎士団の隊舎へと訪れた。

 それを騎士団長であるバンさんが迎えてくれる。

 そのまま、俺たちはちょっと豪華な造りの応接間へと通された。


「改めて、昨日はありがとうございました。ユーリさんたちのおかげで、セレスさんは軽い怪我だけで済んだようです」

「よかった~」


 バンさんの言葉を聞いて、テッサ姉が安堵の息を吐く。

 助けた時に感じた通り、ゴブリンジェネラルたちに犯される前だったようだ。


「それで、昨日ユーリさんが仰っていたゴブリンジェネラルのことですが……教えていただけますか?」

「はい」


 そう、俺たちは昨日のうちにゴブリンジェネラルという存在が森にいたことを伝えていたが、改めて詳しく報告するためにここに来たのだ。


「どうやらモンスターの中に、突然変異という存在がいるようです」

「突然変異……」


 俺は聖剣に教えてもらった突然変異の特徴をバンさんにも共有した。


 通常のモンスターの中からごく稀に腕力が強かったり頭脳が発達していたりするモンスターが生まれること。

 その突然変異の一種であるゴブリンジェネラルが森にいたこと。

 ゴブリンジェネラルは賢く、騎士団の巡回のパターンを覚えていたかもしれないこと。

 それによって、騎士たちの巡回の目を逃れて、セレスさんを襲うことができたのだろうということ。

 さらにゴブリンを統率して俺たちを罠にはめようとしていたこと。

 おそらく騎士団が先に森に入っていたら一網打尽にされていただろうということ。


 それらを話すと、バンさんが唸る。


「そんなモンスターがこの街のすぐ近くにいただなんて……」

「突然変異は文字通り、突然生まれるようです。大都市の近くだからと言って生まれない保証はないんです」

「そうですね。これからは部下たちにいっそう気を引き締めるように言っておきます。しかし、突然変異なんて、これまで聞いたこともありませんでした」


 それはそうだろう。

 俺も、ゴブリンジェネラルと遭遇するまではそんなものが存在するなんて知りもしなかった。

 ノナリロの騎士団でも突然変異の話なんて聞いたことがない。


 その理由も、俺は聖剣から聞かされていた。


「実は……突然変異は魔王の復活が関係しているようなんです」

「ま、魔王!?」


 俺の言葉に、バンさんが驚きの声を上げて身を乗り出す。


「魔王って……かつて【剣の勇者】と【槍の勇者】によって討伐された、あの魔王ですか!?」

「はい」


 かつての【剣の勇者】と【槍の勇者】の記録が残っている勇者神殿がある街の騎士なだけあって、その知識はしっかり持っているようだ。


「しかも、ユーリさん、今あなたは魔王が復活したと言いませんでしたか?」

「そうです。俺はそのことを教えられたんです」


 そう言って、俺は腰に差していた聖剣を掲げる。


「この聖剣から」

「聖剣……!? まさかユーリさんは!」

「はい。聖剣に選ばれた【剣の勇者】です」


 それを聞き、バンさんは放心したように乗り出していた身を椅子に戻した。


「では、そちらの3人は……」

「俺の仲間の――」


「テスタロッサって言います。職業は聖女です」

「エリスです。職業は聖騎士です」

「マリアンヌと申しますわ。職業は賢者ですわ」


「……なるほど。それで合点がいきました。先ほど、ゴブリンジェネラルの罠で100体ほどのゴブリンに囲まれたと言っていて、どうやって切り抜けたのかと思いましたが、ユーリさんたちが【剣の勇者】パーティーだというなら……聖剣の力があればそれも可能ですね」

「えーっと、まぁ、はい。そうですね」


 その時は使ってないんだけどな、聖剣の力。

 普通にレベル99が3人もいるからレベル差でゴリ押しただけだ。


 とはいえ、別にあえて訂正することでもない。


 大事なのは俺がどうやって倒したかではない。

 ゴブリンジェネラルのような突然変異がいかに脅威であるかだ。


 本来は騎士団が巡回してモンスターが人間の生活圏に入ってこないようにしているが、ゴブリンジェネラルのような突然変異は知能が他のモンスターよりも高く、騎士団に見つからないように街に近づいてくるらしい。

 そういう存在がいると知っているかいないかで、いざというときの対応力が変わってくるだろう。


「いやはや、確かにユーリさんの言う通りです。昨日、我々はたかがゴブリンだと思って油断していました。あのまま森に入っていたらと思うと……ぞっとします」


 騎士団がやられてしまえば、街を守る者はいなくなってしまう。

 あとはジェネラルゴブリンの指揮のもと、アザーストはゴブリンに占領され、男は皆殺しにされて女はゴブリンたちの仔を産まされ続けていた……という未来が待っていたかもしれない。


 ただ、聖剣曰く、ゴブリンジェネラルはまだ弱いほうだそうだ。

 人間並みの知能を持ち、罠を張ったりもするが、逆を言えば罠でも張らない限りは人間に確実に勝てるというわけではない。

 つまり、今回のような街道にゴブリンが集団で現れたというような違和感に気づいて罠を見破りさえすれば、決して勝てない相手ではない。


 今回のことでバンさんたちも突然変異に対して警戒するようになったと思うし、アザーストの周辺には弱いモンスターしかいないはずだ。

 そこから突然変異が生まれたとしても、油断さえしなければ騎士団で対処可能だというのが聖剣の言葉だった。


 ……突然変異か。

 他に、どんなモンスターがいるのだろうか。

 後で聖剣に知っている限りの情報を教えてもらったほうがいいな。


 もしかしたら……いや、確実にこの旅で他の突然変異と戦うことがあるだろう。

 その時にテッサ姉たちを危ない目に合わせないためにも。


「ところで、ユーリさんたちは昨日は冒険者を名乗っていましたが、どうして【剣の勇者】と名乗らないのですか?」

「ああ、それは――」


 魔王が復活したという情報で市井の人たちがパニックを起こさないように、俺が【剣の勇者】であることは極力伏せて旅をすることにしているとバンさんに伝えた。


 魔王の復活と【剣の勇者】の出現は、各国の上層部だけが知る情報だ。

 いずれ魔王が本格的に活動を始めた時に、迅速に対処できるように今は準備をするように各国に連絡しているとノナリロ国王陛下が仰っていたが……。

 少なくとも、バンさんには伝わっていないようだ。


「今回は、聖剣のことを言ったほうがゴブリンジェネラルのこともスムーズに信じてもらえそうだったので言いましたが、俺たちが【剣の勇者】パーティーだということは他言無用でお願いします」

「はい、わかりました!」


 これで俺たちがバンさんに話せることはあらかた終わったかな。

 バンさんも、俺たちに聞きたいことはだいたい聞き終えたみたいだ。


「ありがとうございました、ユーリさん。このご恩は忘れません。我々のできることがありましたら、何なりと連絡してください」

「はい。もし、バンさんたちの力が必要になったらよろしくお願いします」

「あ、それと、ユーリさん。こちらを」

「これは……?」


 バンさんが差し出してきたのは、お金の入った袋だった。


「ゴブリンジェネラルとゴブリンを討伐してくださった謝礼金です。受け取ってください」


 マジか。けっこうあるぞ。

 これだけあれば旅の資金も余裕が出てくる。


 こういった謝礼金を目当てでやったわけではないが、俺も寝取られルートを進行させないためにお金は必要だ。ありがたくいただこう。


「ありがとうございます」

「それと、次の目的地は決まっているのですか?」

「次はトレンタに行こうと思っています」

「トレンタ……この大陸随一の交易都市ですか!」


 俺の次の目的地はノクロスから南に位置する海洋国家リマンにある港町――トレンタだ。

 今、バンさんが言った通りこの大陸で最も交易が盛んな都市で、それ故に人の出入りも多く、また、情報も集まってくる。


 ゲームでも【槍の勇者】の情報を求めて、ノクロスの次に行くのがトレンタだった。

 もちろん、そこで【槍の勇者】の情報は得られないのだが。


 ただ、【槍の勇者】以外にも魔王の動向を得られたり、港から船を使って他の大陸に行くことができる。

 ゲームの攻略上、かなり重要な都市の1つだった。


「それならちょうどよかった。実はユーリさんたちにお願いしたいことが……」

「お願い……?」




 * * *




 バンさんのお願いというのは、冒険者への依頼のことだった。

 ちょうどトレンタへ行くキャラバンがあり、その護衛をする冒険者を募っているらしい。


 馬車だと移動に費用がかかるが、この依頼を受ければトレンタまでタダで行けるだけでなく報酬がもらえる。

 しかもトレンタの方角に行く定期便がしばらくないということで、俺はテッサ姉たちと相談して、その依頼を受けることにした。


「でも運がよかったね。ちょうどトレンタに行ける依頼があったなんて」

「ホントね。アタシたちなら護衛にピッタリだし」

「わたくしもがんばりますわね、ユーリ様」


 そんなやり取りをしているうちに、キャラバン護衛依頼の集合場所に着いた。

 そこでは、商人たちが積み荷の点検で忙しなく動いている中で、冒険者らしき集団がいた。

 バンさんからは、俺たちの他にもこの依頼を受けた冒険者パーティーがもう1組いると聞いているが、それが彼らなのだろうか?


 ひとまずキャラバンの責任者に話しかけようとした時だった。


「オレ様たちと一緒にこのキャラバン護衛任務をするってパーティーはお前たちか?」


 1人の男が俺たちのそばにやってきた。


 かなり大きな体躯で、ヒゲをはやした男だ。

 重戦士といった風貌で、おそらくは向こうのパーティーのリーダーだろう。


「はい。ユーリです。よろしくお願いします」


 ひとまず挨拶するが、男の視線は俺ではなく俺の後ろ――3人の仲間たちに注がれていた。


「オレ様はワルドだ。これからしばらくの間、よろしく頼むぜ」


 そう言って、ワルドと名乗った男はニヤリと笑うのだった。


これでいろいろあったアザーストから離脱です。

よかったら、感想などで「ちゃんと更新できて偉いね!」と褒めていただいたり、

この下にある★をぽちっと押して評価していただけると嬉しいです!


次回は3日後の(8/22)の午前7時に更新予定です。


【THE・どうでもいい報告】

実はアイドルマスターシンデレラガールズが好きです。

そして私が担当しているアイドル・上条春菜の初めてのソロ曲が収録されたCDが本日発売です。

CDのフラゲはできなかったのですが、日付が変わった瞬間に配信を購入してフルverを聞きまして、無事に死にました。

春恋フレーム、とてもいい曲でした……。

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