34 聖剣技
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「かかれ!」
『グギャァッ!』
巣の中のゴブリンが一斉に俺に襲い掛かってくる。
だが、俺は剣術スキルで迎え撃つ。
「――ソニックスラッシュ」
それは、剣術スキルの中でも最速レベルの技だ。
1秒にも満たない時間で、10体以上のゴブリンが細切れになって素材を落とす。
「ぐっ……」
奥に陣取っているゴブリンがうめき声をあげた。
あいつがゴブリンジェネラルか。
その傍らには、気を失って横たわっている女性がいる。
きっと彼女がセレスさんだろう。
俺は一気にゴブリンジェネラルを倒そうと間合いを詰めようとして、
「動くな! こいつがどうなってもいいのか!?」
その瞬間、ゴブリンジェネラルはセレスさんをその太い足で踏みつけながらそう叫んだ。
「――くっ」
聖剣の言葉によるとゴブリンジェネラルは狡猾なモンスターだ。彼女を人質に取られたらまずいと思ったからその前に倒そうと思ったのに。
ゴブリンジェネラルは油断なく俺を見据えながら彼女の首を持ち、掲げた。
俺たちが攻撃しようとすれば、彼女を盾にするつもりだろう。
だから、俺は持っていた剣を鞘に収めた。
「ぐへへ……そうだよ、大人しくしてりゃいいんだ。どうせならお前の連れの穴も――って、おい! なんで剣を抜く!」
そして、代わりに腰に差していた聖剣を抜いた。
『ようやく我の出番か』
ああ。今まで使うのをすっかり忘れてて悪いな。
だが、聖剣はこういう時にピッタリな武器だ。
なぜなら――
「待て! この穴がどうなってもいいのか! 攻撃すればこの女に当たるぞ!」
「……俺の大切な仲間を侮辱した罪を、その命をもって償え!」
聖剣の刀身から光があふれ出る。
これは昨日の夜、魔王のステータス書き換えを中和したあの光と似ていた。
この光こそが人々を魔王から守る聖剣の力だ。
『さぁ、ユーリよ。叫べ!』
「聖剣技・セイントストライク!」
俺はその技名を叫び、剣を振り下ろす。
瞬間、刀身からあふれ出していたまばゆい光が斬撃となってゴブリンジェネラルに飛んでいく!
ゴブリンジェネラルは咄嗟にセレスさんを盾にするように自分の体の前に掲げるが――
「な、何っ!?」
その斬撃はセレスさんの体をすり抜け、ゴブリンジェネラルだけを真っ二つにする。
聖剣の力は人を守るためのものだ。
悪しきものにだけダメージを与え、守るべき人には傷1つ与えない。
それが聖剣技の特徴だった。
だから、セレスさんを盾にしても意味がない。
俺が聖剣を抜いた時、ゴブリンジェネラルの負けは確定していたんだ。
「ぐっ、がっ……このオレが…………」
そんな言葉を残してゴブリンジェネラルの体は消えていき、後には意識を失ったままのセレスさんと素材らしきドクロが残った。
倒れたセレスさんに駆け寄ると、服が汚れたり、ちょっとした傷はあるようだが、服が大きく乱れている様子はない。
あとでお医者さんにちゃんと診てもらう必要はあるが、どうやらゴブリンたちに乱暴される前に助け出せたようだ。
その事実に、ホッとする。
それにしても、すごい威力だな、聖剣技。
ゴーシュとの強制負けイベントでは聖剣を使うのをすっかり忘れてたけど、使ってみるとやはり汎用性が高すぎる。
モンスターだけを倒せるなんてご都合もいいところだが、実際に使えると頼もしいことこの上ないな。
「すごーい! ユーリ! さすがだね!」
「これが聖剣の力なのね……」
「人を傷つけず、モンスターのみを倒せるなんて素晴らしい力ですわ!」
そこに、外で配下のゴブリンたちを相手していたテッサ姉たちがやってくる。
「でも、この力は1日に1回しか使えないんだ」
「え、そうなの!?」
『そうなのか?』
「うん。だからいざって時にだけ使わないと……って――」
あれ? 今、テッサ姉だけじゃなくて聖剣も驚いてなかったか?
聖剣技はいくつもあったが、ゲームだとそれら全て含めて1日に聖剣技は1回しか使えない設定だった。
その代わり、雑魚モンスターだったら一撃で全滅させられたし、四天王相手でもHPの大半を削れる、まさに切り札的な存在だった。
だからこそ、多用できないように1日に1回……宿屋とかで眠って翌日にならないと使えない設定にしていたのだが。
「何回でも使えるの?」
『アレンはバンバン使っておったぞ』
「……聖剣技・セイントアロー」
俺はいったん洞窟から出ると、距離を取って様子を窺っているゴブリンに聖剣を向けてその技名をつぶやいた。
すると、剣先から光の矢が放たれ、ゴブリンの頭を貫く。
そしてその矢は軌道を曲げて他のゴブリンたちを次々に貫いていった。
結果、この周辺のゴブリンは全滅となった。
「すごいすごーい!」
「ねぇ、これもうユーリ1人でいいんじゃない?」
「ユーリ様、頼もしいですわ!」
『やはり使えるではないか』
はしゃぐテッサ姉。
呆れ気味につぶやくエリス。
称賛するマリー様。
そして、それ見たことかと言わんばかりの聖剣。
『しかし、先ほどのセイントストライクもそうだったが、セイントアローの威力も射程もアレンをはるかにしのいでおる。頼もしい勇者だ』
「ふふーん。うちのユーリはすごいでしょ、聖剣ちゃん」
「どうしてテッサ姉が威張ってるのよ」
「だって私の弟で恋人だもん」
「わたくしだってユーリ様の恋人ですわよ」
『ただし、これだけ威力が高いと消費する魔力も高い。多用はするなよ』
ゴブリンが一掃されたのを見て、3人&聖剣はやいのやいのと騒ぎ始める。
うーん。確かに、1日に1回しか使えないって現実で考えると明らかに不自然な設定だよな。
どうやらこれも現実になったことによる影響で、何度でも聖剣が使えるようになったようだ。
聖剣の言う通り、連発したからちょっとふらっとするけど、気を付ければもっと使えそうだ。
レベル99だし、これで少なくともバトルは苦労しないんじゃないか?
嬉しい誤算を感じながら、俺はセレスさんを連れて街に戻る準備を始めた。
* * *
「ありがとう! 何とお礼を言っていいか……」
「冒険者として当然のことをしたまでです」
その後、気絶したセレスさんを俺が背負って、アザーストまで無事に戻れた。
セレスさんの恋人にはすごく感謝され、何度も頭を下げられた。
また、ちょうど街の騎士たちが準備を整えて森に入ろうとするところだったようだ。
すれ違いになる前に戻ってこれてよかった。
そして俺たちは騎士団長にゴブリンジェネラルのことを報告し、今は昨日も泊まった宿屋に戻っていた。
騎士団長は詳しいことをもっと聞きたいようだったが、もう今日は日が暮れそうだったし、森の中に入ってセレスさんを助けたから疲れているだろうから、という彼の気遣いで今日は宿屋に戻ることになった。
明日また改めて事情を話すことになっている。
さて、宿屋に戻った俺たちはと言うと、部屋を借り直した。
昨日のように男女で別れていない。
4人用の一緒の部屋だ。
一番の理由は【発情】への対策だ。
密着はやりすぎだとは思うけど、さすがに同じ部屋にいれば安全だろうという判断で、同じ部屋に泊まることにした。
ただ、それだけではない。
俺たちは恋人同士になったのだ。
つまり、そういうことをするためでもある。
宿屋の受付さんには、「今夜はお楽しみですねー」と言われてしまった……。
見透かされてる。
そして今、3人は部屋に備え付けのシャワーを浴びていた。
3人がシャワーから出てきたら俺たちは……。
この後に起こることを想像して、思わず息をのんだ。
そうしているうちに、浴室のドアが開く。
「お待たせ、ユーリ……」
出てきたテッサ姉は、いつもの明るさは鳴りをひそめて、ちょっと恥ずかしがっているような声だ。
その体にはバスタオルが巻かれていた。
テッサ姉に続いてエリスとマリー様も出てくる。
2人も同じようにバスタオルで体を隠して、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。
そのバスタオルの下がどうなっているか、わからないほど唐変木な俺ではない。
3人のバスタオルがはらりと落ちる。
一糸まとわぬ裸体が俺の目の前に晒された。
「……なんだか恥ずかしいね。昔はいっしょにお風呂に入ってたのに」
「ちょっと……あまりまじまじと見ないでよ」
「わたくしの体、どうですの? ユーリ様……」
「3人とも、綺麗だ……」
そう言うのが精いっぱいだった。
「えへへ……ユーリにそう言ってもらえて、お姉ちゃん嬉しいな」
「アタシも嬉しいわよ、ユーリ」
「喜んでもらえて光栄ですわ」
俺の言葉を聞いて3人は微笑むと、ベッドの上に横になる。
「きて、ユーリ……」
「ちゃんと愛してくれなきゃ怒るからね」
「わたくしの体を好きにしてください」
三者三様のおねだりを聞き、俺の理性はあっけなく崩壊し――
俺は貪るように3人の体を愛するのだった。
――というわけで、ユーリくんとヒロインたちがついに初夜を迎えました!
ノクターン送りが怖くてちょっとあっさりめの描写ですが……。
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次回は3日後(8/16)の午前7時に更新予定です。




