31 聖剣の声★
評価・ブックマーク・感想、誠にありがとうございます!
個人的に10万文字以上書いたのが初めてなので、ここからは未知の領域です!
やりたいことをちゃんと書ききれるように頑張ります!
宗教国家ノクロスの首都……聖地アザースト。
先にも言った通り、宗教国家と言っても国民は修行僧みたいな禁欲生活をいつもしているわけではなく、普段は他の国と同じように生活をしている。
街並みも、多少の文化の違いはあるものの基本的にはノナリロ王国とそう大差はない。西洋ファンタジーといった感じだ。
そんな中、俺たちは勇者神殿に向かっていた。
『ふむ。先代の【剣の勇者】たちの記録がそこに残っているのか』
「ああ。魔王を倒すための手がかりを探して、そこに行くんだけど」
腰に差している聖剣からは、先ほどと変わらず、声が聞こえてくる。
実は聖剣はこれまでも俺たちに語りかけていたらしいが、ずっと届かなかったようだ。
また、俺たちの声も聖剣には届かなかったらしい。
ということは、昨日の魔王との会話は聞こえていなかったのか。
転生とか転移とか言ってたから、聞こえてなくてよかった……。
しかし、何がきっかけになったかはわからないが、ついさっき俺とその仲間たち――テッサ姉たちには届くようになったという。
……ゲームでは最初の入手イベント以来、声が聞こえることはなかったから、完全に忘れていた。
そういえば昨日、魔王と対峙していた時に光ったけど、それがきっかけだろうか?
それを聞いてみると、どうやら違ったようだ。聖剣は覚えていないとのこと。
それ以外に昨日と今日とで変わったことと言えば……3人に告白してハーレムを作ったこと?
【剣の勇者】とその仲間たちは聖剣の力で繋がっている。
その繋がりが強くなったことで聖剣との繋がりも強くなったから、声が届くようになったのか……?
理由はわからないが、とにかく聖剣と話せるようになったのは確かだ。
それならそれで、利用しない手はない。
ちなみに、向こうの声は俺たちの頭に直接届くような感じだが、こちらの声は実際に口に出さないと届かないらしい。
おかげで、もし俺が1人だったらぶつぶつ独り言を言うおかしな奴みたいに見られていただろう。
ただし、俺には3人も仲間がいる。しかも密着は継続中。
もし聖剣と話しているところを見られても仲間たちと話しているように見えるはずだ。
俺たちは何の気兼ねなく聖剣に話しかけていた。
「ねぇ、聖剣ちゃんは昔のことを覚えてるの?」
『聖剣ちゃん!? う、うむ……そうだな。先代のことはハッキリと覚えておる』
さっそく、聖剣を「ちゃん」付けするテッサ姉に、聖剣はそう返答する。
「それじゃあ神殿に行かなくても聖剣ちゃんに聞けばいいんじゃないかな?」
『うむ。その通りだ』
せやな。
何たって、記録どころじゃなくて当事者だ。
これ以上の手がかりなんてないだろう。
俺だって魔王の弱点は知っている上にこの先何が起きるかもだいたい知っているわけだが、転生者であることを明かしていない以上、それを言うことはできない。
だが、聖剣に聞きさえすれば先代の【剣の勇者】と【槍の勇者】がどうやって魔王を倒したのか、そしてその弱点もテッサ姉たちに自然な形で教えることができるだろう。
それに、言っちゃあ何だが、ゲームでは勇者神殿で手に入る手がかりなんて大したものではなかった。
せいぜい、過去の戦いの後に【槍の勇者】と聖槍がどうなったかがわかる程度だ。
それも結局は【槍の勇者】は聖槍を子孫に代々受け継いでいくことにしたが、【槍の勇者】は子沢山だったがゆえに聖槍の行方は今は誰にもわからないというオチだ。
そのため、この後も主人公たちは魔王軍と戦いながら【槍の勇者】を探し回ることになる。
ただ、せっかく来たのだしということもあり、勇者神殿には立ち寄ることにした。
聖剣の知識と記録を照らし合わせるというのが表向きの理由だが、そもそも先代【剣の勇者】のエピソードは俺は作っていない。
現実になったこの世界で、どのような話になっているかを知っておきたかったのだ。
『それにしても、今の【剣の勇者】は相当な強者のようだな』
「わかるのか?」
『うむ。繋がりを通じて、強さを感じる。かつての魔王よりも強いのではないか?』
そりゃあ、レベル99だからな。
昨日も戦闘だけなら魔王を圧倒できていたし。
俺たちはそんな話をしながら、いちおう勇者神殿へとたどり着いた。
昨日の夜にも入ったのだが、やはり夜と昼とじゃ全然印象が違うな。
勇者神殿は、入口にはそれぞれの勇者が武器に選ばれた時のエピソードが展示されており、奥に進んでいくにつれて仲間との出会いや2人の勇者の合流、そして魔王軍との戦いの様子の記録が並べられていた。
神殿というより資料館といったほうがいいかもしれないな、ここ。
『ふむ……なかなか詳しく記録されておるようだな』
「お前から見てもそうなのか?」
『うむ』
「っていうかお前見えるの?」
目があるようには見えないけど。
『お主の視覚を借りて見ておる』
勝手に借りるなよ……。
『それにしても仲間の胸をチラチラと見すぎではないか?』
勝手に視覚を借りるんじゃない!
そんな一幕がありながらも、俺はテッサ姉たちと密着したまま記録を読んでいく。
先代の【剣の勇者】――アレンのエピソードは、俺はゲームでは作っていなかった。
ただ、現実となったこの世界では何のエピソードもないのでは不自然だ。
これもゲームの世界が現実になった影響だろう。
アレンが聖剣と出会ったのは俺たちよりもずっと悪い情勢でのことだった。
大陸の西側半分のほとんどが魔王軍によって占領されていたのだ。
そんな中、人類軍の一兵士だったアレンは最前線で戦っていたが、とある戦いで所属している隊が壊滅し、敗走する。
その最中で迷い込んだ森の中に、
『我が眠っていたというわけだ』
そして聖剣を抜いたアレンは追ってきた魔王軍を聖剣技で一掃し、その後、彼の活躍で人類軍は魔王軍に奪われていた各地の拠点を次々と奪い返していく。
「見てください、ユーリ様。先代の【剣の勇者】様たちの戦いの様子が記されていますわ」
マリー様が指さす方向には、先代の【剣の勇者】であるアレンという男とその仲間たちが魔王軍と戦った時の記録があった。
アレンのパーティーは今の【剣の勇者】と同じで、聖騎士、聖女、賢者の4人からなるパーティーだ。
アレンは各地の拠点を取り戻しながら仲間たちと出会っていき、ついにその4人がそろった時、1つの大きな戦いが起きる。
それこそが「リブマの奇跡」の名で今でも語り継がれている戦いだ。
【剣の勇者】の登場によって趨勢を巻き返す人類軍だが、当時の魔王軍四天王の策略によって全滅の憂き目に合いそうになった。
人類軍が撤退する際に殿を務めたのが【剣の勇者】とその仲間たちだった。
4人だけで数十万にも及ぶ魔王軍と対峙しては、いかに聖剣の力を使える【剣の勇者】でも生きて帰れないだろうと思われていた。
しかし、アレンだけでなく仲間の3人にも聖剣の力が分け与えられ、【剣の勇者】のパーティーは生き残るどころか逆に四天王を倒すという快挙を成し遂げたのだ。
それと同時期に別の場所で聖槍に選ばれた【槍の勇者】が現れ、その仲間たちとともに別の四天王を単独で撃破する。
その後、【剣の勇者】と【槍の勇者】は合流したことで人類軍は一気に攻勢に出る。
残る2人の四天王をそれぞれの勇者パーティーが倒し、大陸のほとんどを人類の領土に取り戻した。
そして残すは魔王のみとなり、2組の勇者パーティーは魔王城へと乗り込んだ。
『魔王の強さはすさまじかった。あのクソ槍はともかく、我ですら傷つけることはできんとは』
クソ槍って……まさか聖槍のことか?
「え、聖剣ちゃんでも!?」
「じゃあどうやって勝ったの!?」
「テッサ様、エリス様。その答えはそこに書かれていますわ」
マリー様に促され、魔王との戦いに関する記録を読み進めていく。
そこには、【剣の勇者】と【槍の勇者】が力を合わせて魔王を倒したとあった。ただし、その詳細は書かれていない。
『忌々しいことだが、我とクソ槍の力を合わせることでようやく魔王にダメージを与えることができたのだ』
「ということは、魔王を倒すには【槍の勇者】の力が必要なのか?」
『その通りだ。まったく腹立たしいことだがな』
ここはやはりゲームの設定通りか。
過去に魔王と戦ったことがある聖剣の言うことだ。
従ったほうがいいだろう。
それにしても、さっきから気になっていたんだけど……。
「……なぁ。もしかして聖槍と仲が悪いのか?」
武器同士が仲が悪いとか、フィクション以外じゃあまり聞いたことがないけど。
いやここはゲームの世界だったな。
ということは、向こうの槍もしゃべるのだろうか?
『好かん。聖槍もそうだが、その持ち主はさらにいけ好かない男だった。奴は相当な女たらしでな。常に女を侍らせていた上に、旅の間に出会った女に片っ端から声をかけておった。あまつさえ、アレンの仲間たちにも手を出そうとする始末だ』
「えー! 何それ!」
「女の敵じゃない」
「不潔ですわ!」
「……なるほどね」
女性陣の総パッシングに次いで、俺はそうつぶやく。
例によって、先代の【槍の勇者】について俺が設定したのは「子沢山だった」くらいであとは具体的には設定してなかったけど、まぁそうなったか。
さすがは寝取られハーレムルートの寝取りキャラの先祖だな。
『あの時代の【槍の勇者】が生きておったら、この子たちも口説かれておっただろうな』
「大丈夫よ! 私たちはユーリ一筋だから!」
「アタシ、ナンパな男って好きじゃないのよね」
「わたくしも誠実な方が好みですわ」
「私たちは、ユーリ以外の男の人に口説かれても絶対になびかないからね」
そう言って、3人はぎゅーっと密着度合いを増してくる。
『モテモテじゃないか。かつての【剣の勇者】を見ているようだ』
「は、話を戻すけど」
照れ隠しで俺は話題を切り替える。
「【槍の勇者】が魔王討伐に必要なら、合流しなきゃいけないよな……どこにいるか、手がかりとかはある?」
「えーっと……聖剣は遺跡に封印したという記述はありますわ」
「でも、聖槍は【槍の勇者】が子孫に受け継がせるって言って持っていったって書いてあるわ」
「その子孫っていうのも、子沢山だったから誰に受け継がれてるか今はもうわからないみたい……」
「そっか……」
『ふん、クソ槍となど最後に合流すればいい』
俺は残念そうな振りをしてそう答えた。
もちろん、演技だ。
展示されている記録にそう書かれているのは確認した上で尋ねたのだ。
聖剣と同じで、俺も最後まで合流したくはない。
「聖剣ちゃんは、何か不思議な力で聖槍の在処とかわからないの?」
『わからん。わかろうとも思わん』
テッサ姉の質問にそう答える聖剣に、俺は内心ほっとしていた。
ここでわかると言われたらすぐに【槍の勇者】と合流できてしまう。
もしそうなったら、どうごまかして合流しないように旅を続けようかと思っていたところだ。
だから、俺はゲーム通りにこのセリフを言う。
「じゃあ、魔王討伐の旅を続けながら、【槍の勇者】がどこにいるか探そうか」
「はーい!」
「いいんじゃない?」
「賛成ですわ」
こうして、勇者神殿での手がかり探しは終わった。
これでノクロスでやるべきことはもうないかな。明日には次の目的地に向けて出発しよう。
そう思って宿屋に戻ろうとしていた時だった。
「た……助けてくれ! 俺の恋人がモンスターにさらわれちまったんだ!」
そんなことを叫ぶ男の声が聞こえてきたのは。
よかったら、「10万文字も書けるのすごいね!」と褒めていただけますと嬉しいです!
ストックが尽きました……!
いやまだ少しあるんですが、もともと遅筆なのとちょっとお仕事が忙しくなってきたので、
少し更新ペースを落とさせていただきます……すいません。
次回は3日後(8/7)の午前7時に更新予定です。




