30 密着★
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「う、う~ん……」
自分とは別の温もりとかすかな重さを感じて目を覚ます。
俺の上にマリー様が乗って眠っていた。
「えっ!」
さらに左右からはテッサ姉とエリスに抱きつかれている。
しかも、3人とも下着姿で、俺も下着しかつけてない。ほぼ裸だ。
なんで? どうして? と慌てるのは一瞬のこと。
すぐにその理由に思い至る。
そうだ……俺は3人に告白して受け入れてもらったんだった。
その後、キスをして……どうなったんだ?
俺も含めてみんな下着姿ってことは……まさか、そういうことか!?
そういうことなのか!?
だけど全く記憶がない。
俺の頭の中が「?」マークで埋め尽くされていると、
「……ユーリ、起きた?」
「起きたの? まだ寝ててもいいわよ」
「おはようございます、ユーリ様……」
身じろぎのせいか、3人も目を覚ましたようだ。
「お、おはよう……テッサ姉、エリス、マリー様。ところでさ、その……」
俺は3人の姿を見る。
大事な部分は下着で隠されているものの、いつもは服で隠されている綺麗な素肌がこれでもかと晒されている。
やばい。エロい。
「みんな、なんで下着姿なの?」
俺は平静を装おうとしたものの、生唾を飲み込みながらそう尋ねるのが精いっぱいだった。
* * *
結論から言うと、俺はやっていなかった。
キスをした後、当然ながらそういう流れになりそうだったのだが、みんなが脱いでいる間に俺は眠ってしまったらしい。
宿屋についた時点でだいぶ睡魔がやばかったからな……。
「お姉ちゃんたちを守るために夜通し起きててくれたんでしょう?」
「だから、起こすのも悪いかなって……」
「ユーリ様のかわいい寝顔を見るの、楽しかったですわ」
そうやっているうちに、3人も眠ってしまったそうだ。
しかも下着姿のまま。
というわけで、俺はまだ卒業していないようだ。
こんな時に寝落ちしちゃうなんて……何だか、いい雰囲気になると何らかの邪魔が入る少年誌のラブコメ主人公みたいだな。
ゲームでも告白イベントが終わったら、ヒロインたちとのエッチシーンがあったっていうのに。
でも、俺はついに3人と恋人同士になれたんだ。
今朝はダメだったけど、これからいくらでもチャンスはある。
そう、早ければ今夜にでも……。
まさか真っ昼間から始めるわけにもいかず、ひとまずはご飯を食べに行くことになったのだが……
「……ねぇ、ちょっとくっつきすぎじゃない?」
街の食堂から宿屋への帰り道、俺はそんな言葉を口に出した。
文字通り、俺にくっついている3人に。
俺の右腕にはテッサ姉が、左腕にはエリスとマリー様が前後からくっついていた。
それは今だけじゃない。宿屋の部屋を出た時からずっとだ。
さっき食事をしていた時でさえも、俺から離れようとしなかった。
「だって、私たちはユーリと離れたら呪いが発動しちゃうかもしれないんでしょう?」
「だから今朝だって部屋に戻るよりもいっしょの部屋にいたほうがいいって話になったのよ」
「これからは、わたくしたちもユーリ様といっしょの部屋で泊まりますわね」
そんなことを言いながら、3人は俺にギューっと抱きついてくる。
両腕が幸せなやわらかさで包み込まれて心臓がドキドキしてくるけど……。
うーん。なんだか【発情】をいいことに、俺にくっつこうとしているだけのような。
その証拠に、そんなこと言いながらニッコニコだもん、3人とも。
こう考えている俺だって少し気を抜けば顔がゆるみそうになる。
まさか魔王も【発情】の設定追加で、こんなことになるとは思わなかっただろうな。
ただ、3人にくっついてもらえて幸せなのは確かなんだけど、さすがに歩きづらいし、道行く人たちの視線が痛い。
特に男たちの嫉妬と殺意の混じった視線が……。
「少し離れたほうがよくないかな……?」
「えー。お姉ちゃんたちが【発情】になってもいいの?」
俺の提案に、テッサ姉がそんなことを言ってくる。
エリスとマリー様も便乗して、首を縦に振っていた。
「ユーリから離れたら……お姉ちゃん、【発情】しちゃって他の男の人に襲われちゃうかもよ? それでもいいの?」
「そんなのダメに決まってるだろ!」
「――っ! ユーリ……?」
思わず大声を出してしまった。
突然のことに、テッサ姉たちも、通行人も、ビックリしている。
「ご、ごめん……でも、テッサ姉たちは俺の恋人だから、他の男に指一本でも触られたくないよ。それは本当だよ。だけど、さすがにこんなに密着しなくても中和できると思うんだ」
どれくらい離れて大丈夫なのか、魔王が把握していたかはわからない。
だけど、あんなにすんなりと引き下がったのは、中和できなくなる距離はそこそこ遠いからだと思う。
例えば一歩分離れれば【発情】状態になるのであれば、そうなった瞬間に一歩近づけば防げる。それをあの魔王が良しとするわけがない。
それならば、ある程度の距離――俺が駆けつける前にどこかの空き家に連れ込めるくらいの余裕ができる距離は離れないと【発情】状態にはならないと考えるのが自然だ。
だから、こんなに密着はしなくてもいいと思う。
その考えを3人に話すと、
「え~!」
「別にくっついてたっていいじゃない!」
「そうですわ! それに、それはユーリ様の推論ですわよね!?」
「3人とも、ただ俺と離れたくないだけでしょ……」
自分で口にするとかなり照れるな、このセリフ。いや、かく言う俺も離れたくはないけどさ。
「でもユーリだって、お姉ちゃんたちとくっつけて嬉しくないの?」
「そりゃ嬉しいよ」
「ならいいじゃん。アタシたちとくっついてる限りは呪いは発動しないんでしょ?」
「……う、うん。たぶんそうだと思う」
「それに、もし人混みではぐれた程度でも中和できなくなるのでしたら、なおさらはぐれないように密着しておくべきですわ」
「そうかな……そうかも…………」
……あれ? 男たちの視線が痛いだけで実害があるわけではないし、密着してる限りは【発情】状態に確実にならない。
なんなら、テッサ姉たちにくっつかれたら幸せだし、はぐれないように密着し続けるのは有効だ。
確かに3人の言う通りなんじゃないか?
このノクロスの首都・アザーストくらいの人通りだったらよっぽど不注意に歩きでもしてなければはぐれることはないけど、もっと人通りが激しい街だったらふとしたはずみではぐれてしまうかもしれない。
しかもその時に【発情】になってしまったら、俺の見ていないところで他の男に襲われてしまう可能性も……。
「やっぱり密着したほうがいいでしょ?」
「そうよ。というわけで、ユーリはアタシたちに抱きつかれてなさい」
「ユーリ様とこうやってずーっとくっついていたいですわ」
結局、俺は3人に抱きつかれたまま移動することになった。
決して、3人の体がやわらかいからとかそういう理由じゃなく、あくまでも【発情】への対策としてだ。
「でも、はぐれないようには気をつけるけど、もしはぐれたらどうしようか。はぐれても居場所がわかるようなスキルやアイテムがあればいいんだけど」
ゲームではそもそも仲間がはぐれるなんて状況がないから、そんなスキルは作ってなかったし、この世界でも聞いたことはない。
前世だとスマホとかで連絡を取り合って互いの居場所を教えあってたけど、当然、この世界にはそんな手段はない。GPSとかあればなぁ。
そこまで考えた時だった。
――仲間の居場所が知りたいのか? それならば我が教えられるぞ。
「――っ!? 何だ!?」
まるで頭の中に直接語りかけてくるような声が聞こえてきた。
「え、何、この声!」
「アタシの頭の中に聞こえてくるみたい……」
「いったい何者ですの!?」
テッサ姉たちにも聞こえているようだ。
3人は戸惑っているようだが、俺はこの声に聞き覚えがあった。
どこで聞いたんだっけ。確か――そうだ、神殿だ。
俺が【剣の勇者】となったイベントが起きたノナリロにある古い神殿で聞いたんだ。
――【剣の勇者】とその仲間は、剣の紋章で絆ができておる。我の力でつながりをたどれば居場所などすぐにわかる。
それは、(設定的にも)すっかり忘れていた聖剣の声だった。
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次回は明日(8/4)の午前7時に更新予定です。




