3 レベルとスキル
ちょっと短めの説明回です……
次の日。
俺はレベルについて父さんに聞いてみた。
果たしてゲームとしてではない現実としてのこの世界に、レベルなんて概念があるのか心配だったが、ちゃんと存在しているらしい。
結論から言うと、モンスターを倒す以外でも訓練していってもレベルは上がる。
ただ、訓練だけではレベルはあまり上がらず、モンスターを倒したほうがレベルが上がるのは圧倒的に早いようだ。
いちばん弱いモンスターでも、騎士団で2年修行するのと同じくらいの経験値が得られるというのだから、やっぱりゲームと同じでモンスターを倒すのがレベルを上げる手っ取り早い方法みたいだな。
26歳である父さんですら、あまり戦闘はしていないからレベルは2だと言っていた。
なるほど、主人公は騎士になって最初の任務で見つけた聖剣に選ばれて【剣の勇者】になった設定だ。それならレベル1だったこともつじつまが合う。
うーん、でも、やっぱりレベルを上げるのにはモンスターを倒すのがほぼ必須なのか。
まずいな……。さすがに6歳の俺が、モンスターを倒したいと言ったら止められるだろう。
さっきも「まさかモンスターを倒したいとか言うんじゃないだろうな?」と釘を刺されてしまったし。
運がいいことに、序盤のレベリング用のエリアはここの近くみたいだし、父さんたちに黙ってこっそり行ってみようかな。そこのモンスターならレベル1でも楽勝のはずだし。
あと、スキルのことも聞いてみた。
これはテッサ姉のルートではそこまで重要ではないが、他の2人のルートで重要になってくる。
やはりゲームと同じでスキルはあるようだ。よかったー。
スキルとは、誰もが覚えられる技術のことだ。
例えば剣術とか魔法とかが当てはまる。
ただし、そのスキルの適性をどれくらい持っているかによって効果が変わっていく。
騎士とかの物理職だと剣術の効果を最大限まで得られるが、逆に魔法などはうまくいかない。
ただ、俺の場合は【剣の勇者】になった時点でどのスキルにも適性を持つようになる。万能職になるんだ。
そしてスキルには練度というものがある。
これはスキルを繰り返し使うことによって上がっていくもので、練度が上がればより高度なことができるようになっていくし、適性がない職業でもスキルの効果が上がっていく。
スキルの練度はレベルとは関係なく使えば使うほど上がっていくし、【剣の勇者】になったらすべてのスキルに適性を持てるので、寝取られ回避のために必要なスキルは今のうちに覚えてどんどん練度を上げていくべきだろう。
驚いたのが、ゲームでは料理や裁縫といったスキルは必要なかったから作ってなかったのに、この世界ではちゃんとあるらしい。やっぱりゲームとは違うんだな。
レベルとスキルがこの世界にもあることがわかった今、俺がやるべきことは決まった。
ゲームが始まる12年後までにレベルを上げてスキルを覚える。
特に大切なのは、エリスとマリアンヌ姫の寝取られルートを回避するのに必要な、あのスキルだ。
でもあのスキル、手に入れられるのかなぁ。
手に入れられなかった時は、別のスキルで代用しないとな……。
あと、調べておかなきゃいけないこととして、ゲームと違う点だ。
この世界はゲームの設定とほぼ同じだが、俺が設定していないスキルがあったり、訓練だけでもレベルが上がったりと、相違点が少しある。そういうのもしっかりと把握しないといけない。
「お待たせ、ユーリ」
そんなことを考えていると、俺に話しかけてくる声が聞こえた。
エリスだ。
ここは昨日、エリスと訓練をしていた広場。
今日も訓練をするためにやってきていたんだけど、先に俺がついていたからエリスを待ちながらこれからのことを考えていたんだ。
テッサ姉は家の手伝いがあるから後から来るらしい。
「遅いよ、エリス!」
「ごめんってば。じゃあさっそく始めよっか」
考えを中断させて立ち上がる俺に、エリスは謝りながら持ってきた木剣を構える。
俺も木剣を構えると、すぐに軽い打ち合いが始まった。ウォーミングアップだ。
「……今日は素直じゃない、ユーリ」
その打ち合いをしながら、エリスはそう言ってきた。
「いつもは早くこんなの終わらせて試合しようよー、って言ってるのに」
「今日からの俺は違うからね!」
そう、昨日までの俺とは決定的に違うのだ。
こうして前世の記憶を思い出しても、この世界で生まれてからの6年間のことは……小さい頃のことはあまり覚えてないけど、最近のことはしっかり覚えている。
正直、昨日までの俺は、がむしゃらに体を動かして剣を振っていただけだ。
どうすればエリスに勝てるかなんてことは考えてもいなかった。
でも、今の俺の思考は大人のそれになっている。
昨日まではこのウォーミングアップも、ただ早く終わってくれないかなとしか思っていなかったが、ちゃんと考えてやってみるとこれが剣を使うための基礎的な動きを確認するためのものだということがわかる。また、相手の攻撃をどう防げばいいかも身につく。
約束組手みたいな感じか。打つ力は弱くでいいから、基礎的な動きを体に覚えさせていく。俺は感心していた。
思い返してみると、筋トレとかも前世の高校時代はがむしゃらにやってたけど、ちゃんとどこに負荷をかけているかってことを気にしないと効率が悪い。
それがわかったのは大人になって筋トレの楽しさに目覚めてからだったなぁ。まぁ今は子供なんだけど。
それもあってか、最初のウォーミングアップですら俺は楽しんでいた。
やればやるだけ、覚えれば覚えるだけ、できることが増える。
それが楽しかった。
「よーし、ウォーミングアップ終わり! じゃあ試合するわよ」
「お願いします!」
その日、遅れてやってきたテッサ姉が持ってきてくれたお弁当をみんなで食べた時以外は、俺とエリスはずっと訓練を続けていた。
よろしければ、感想などで「ちゃんと書けて偉い!」とか褒めてくれると嬉しいです!
次回は本日(7/13)の午後7時に更新予定です。
【こぼれ話】
街の若い独り身の男はみんな、テッサを狙っています。
ロリコンというわけではなく成長したら嫁にしようと思っています。
ただ、本編では彼らの出番はないです。