29 【槍の勇者】★
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それは、【剣の勇者】と魔王が対峙してから数日後のこと。
大陸東部に位置するメヨソワ王国の、とある街の食堂にて。
「はい、ソーマ♡ あーん」
「あーん……これうまいなぁ。ルルに食べさせてもらってるから格別だぜ」
「ソーマソーマ! こっちも美味しいわよ。あーん」
「お、ロゼ。ありがとな。あーん」
6人掛けのテーブルで、1人の青年と5人の女性が食事を取っていた。
その中で唯一の男であるソーマと呼ばれた青年は、両隣に座っている双子の少女2人から交互にご飯を食べさせてもらっている。
彼の両手は何をしているかというと、自分にご飯を食べさせてくれている女の子の胸を無遠慮に揉んでいた。
その様子を見て、彼の正面で食事をしている騎士風の女性が苦言を呈する。
「ソーマ! まただらしない顔をして……お前は【槍の勇者】なのだから、もっとしっかりしろ!」
「って言いながら、ソーマといちゃいちゃしたいシルヴァさんでした」
「じゃんけんで負けたからって嫉妬はよしてよね、シルヴァ」
「なっ! ちが……!」
ルルとロゼに茶化され、女性――シルヴァはうろたえる。
そこに追い打ちがかかった。
「シルヴァはオレのこと、嫌いなの?」
「そ、そんなことないぞ! ワタシはソーマのことが大好きだ! だが、だからと言って甘やかしてばかりというのはお前のためにならないと思ってだな……」
「わかってるよ、シルヴァ。これが終わったらがんばるからさ」
「ほ、本当か?」
「ホントホント。いちおうオレってば、【槍の勇者】だよ? 決める時は決めるって」
「ソーマが決める時って女の子にカッコつける時だけでしょ~?」
シルヴァとソーマの会話に、露出の激しい服を着た女性が割り込んでくる。
「ま、あたしもそんなソーマの数少ない決めた時に落とされちゃったクチだけどさ~♪ ってわけで~、この後、しっぽりと食後の運動でもしない~?」
「マジで!? するする! ……ハッ!」
「ソーマ~~~~~! メリッサ~~~~~!」
話しながら胸元をはだけさせて谷間を見せるメリッサと、それを見て鼻の下を伸ばしたソーマに、シルヴァの目が吊り上がる。
その意味がわからないシルヴァではない。
なぜなら彼女もそういうことをソーマとしているのだから。
「まぁまぁ、シルヴァちゃん。ソーマくんも年頃の男の子なんだからエッチなことに興味があるのは仕方ないわよ」
「ミラさん……でも……!」
「ソーマくんにはわたしが後できつ~く言っておくから、許してあげて。ね?」
「わかりました……」
「ありがとう、ミラ姉!」
「ソーマくんとメリッサちゃんも、シルヴァちゃんを困らせちゃダメよ~~~?」
「はい……」
「わかったよ~、ミラさん~」
「よろしい。じゃあご飯を食べちゃいましょう?」
ソーマとメリッサの返事に、ミラという名の女性は大きな胸をたゆんと揺らしながら満足げに微笑んだ。
「【槍の勇者】だな」
そんな時だった。
彼が【槍の勇者】の前に現れたのは。
いきなり現れた青年の姿に、【槍の勇者】のパーティーは瞬時に臨戦態勢を取る。
当の本人であるソーマを除いて。
「誰? 会ったことある人? 悪いんだけど、男の顔覚えるの苦手でさ」
「いや、安心するがよい。初対面だ」
「ふーん。で? 何の用?」
「貴様にプレゼントがあってな」
「プレゼントぉ? 男が男にプレゼント渡すなんて、ホモかタヌキかのどっちかだぜ」
訝しむソーマのことなどお構いなしに、男は言葉を続ける。
「クックック……セックススキルと対女性特化コミュニケーションスキルと対女性特化魅了スキル、そしてラッキースケベスキルがすべて練度99か。流石だな」
「――っ!」
「さらにそれらを偽装スキルで隠しているとは……貴様のような男に狙われれば、そこらの女などひとたまりもあるまい」
男の言う通り、ソーマは自らのスキルを隠している。
これらのスキルはソーマの「女の子を好きに食い散らかしたい」という目的には大変都合が良かったが、その反面、バレてしまうと女の子に警戒されてしまうというリスクもあった。
だから、彼は万が一鑑定スキルを使われてもいいように、常に偽装スキルで自分のステータスを隠していた。
その偽装があっさりと破られ、初めてソーマに微かな動揺が走る。
しかし、彼はただやられるだけの人間ではない。
「そう言うアンタこそ、普通の人間じゃないっぽい雰囲気してるけど?」
ソーマもソーマで、男の奥に隠されている魔の気配を敏感に感じ取っていた。
「アンタさぁ……魔王じゃない?」
「魔王!?」
ソーマの言葉に、【槍の勇者】のパーティーたちが驚愕の声を上げる。
「フッ……感づかれているならば隠す必要もないか」
瞬時に、擬態していた人間の男――大和ダイチの姿を元の魔王としての姿に戻す。
「オレを殺しに来たの?」
「いいや、違う。貴様を殺してシナリオが崩れては元も子もないのでな」
「じゃあ何の用よ。勇者と魔王が出会ったなら戦うしかなくない?」
「言ったであろう。貴様にはプレゼントがあると」
そう言うと、男はパチンと指を鳴らした。
「ん……? これは?」
その途端、ソーマは自分の体に異変が生じるのを感じた。
「貴様のスキルの練度を999まで上げられるようにしたのだが、これは……99になって以降、これまで蓄積した経験値によって一気に練度が上がったようだな」
「ふーん……」
ソーマは自分の鑑定スキルで練度を確かめる。
セックス:859
対女性特化コミュニケーション:223
対女性特化魅了:189
ラッキースケベ:349
確かに、練度の上限が99ではなくなっていた。
「シルヴァ、ちょっと来て」
「……? どうしたの、ソーマ」
手招きされて近くまでやってきたシルヴァに、ソーマはおもむろに手を伸ばす。
そしてそのまま彼女の耳を撫でた。
「~~~~~~~っ!」
すると、彼女はまるで思わず出そうになる声を押し殺すように口を押さえて、その場にへたり込んだ。
彼女の一番の弱点は耳だ。
そこに【槍の勇者】の仲間の印である槍を模した紋章も浮かんでいた。
その紋章を触ってあげるとめちゃくちゃ感じてくれるのだ。
ただ、それでも今までは、ベッドの上ならともかく、いきなり触ってもこんな風にへたり込むようなことはなかった。
せいぜいが驚いたような声を出して真っ赤になって耳を押さえる程度だ。
明らかに女を悦ばせる力が増していた。
「魅了とコミュニケーションのスキルの練度が上がれば、どんな貞淑な女性もすぐに貴様に股を開く淫売となるだろう」
「へぇ、ありがとう。ナンパがしやすくなるや。でも、どうしてオレに?」
「貴様には必要だと思ってな。【剣の勇者】の仲間を寝取るために」
「え~……【剣の勇者】? それって、【槍の勇者】と一緒にお前を倒すやつでしょ? さすがのオレでもそんなやつの仲間には手を出さねぇって。それに、オレにはもうハーレムできてっし」
嘘である。
この男はそんな殊勝な人間ではない。
興味がある女を見つけたら、それが彼氏持ちだろうと人妻だろうと王妃だろうと絶対に自分のものにする。
それを知っているからこそ、魔王はソーマの言葉にも動じない。
「まぁよい。しかし、【剣の勇者】とその仲間たちは強固な絆で結ばれておる。さしもの貴様でも、寝取るには苦労するだろう」
「だぁかぁら~、寝取らないって」
「それならそれでよいが、いざ寝取りたくなった時にそのスキルは役に立つ。しっかりと育てるのだな」
それだけ言って、魔王は立ち去っていった。
* * *
「……やり足りない」
その日の夜、【槍の勇者】ソーマはベッドの上でつぶやいた。
周りには【槍の勇者】パーティーの仲間たちが疲れ果てて服を着るのも忘れて気絶するように眠っている。
その寝顔を見ながら、ちょっと今日はやりすぎちゃったかな、と反省する。
昼間、魔王によってセックススキルの練度があり得ない数字になったおかげか、面白いように女の子たちを喘がせることができたから、ついつい調子に乗ってしまった。
だが、彼はまだまだ満足していない。
「そこらへんの女の子でも適当に誘いに行ってみようかな」
コミュニケーションスキルと魅了スキルの練度上げもしたいという目的もあったが、普通にやりたいだけだ。
寝ている女の子たちを起こさないように気を付けながら、ソーマは服を来て宿屋の外に出る。
「もっと仲間を増やそうかな。みんなの負担も減るだろうし。でもいちおう勇者のパーティーだから適当な子を入れるわけにもいかないし、男が入るのはオレが嫌だし。うーん……【剣の勇者】の仲間かぁ」
あの男は、会えば必ず手に入れたくなると言っていた。
【剣の勇者】の仲間なら実力的にも申し分ないだろうが……
「そんなに美人なのかな。パーティーに入れるかどうかは別として、どうせ最後には一緒に行動するんだし、欲しくなったらその時に寝取っちゃえばいっか」
幸いにして、昼間の男によってコミュニケーションスキルと魅了スキルの練度上限を上げられている。
最大まで練度を上げれば、どんな貞淑な女性でも一瞬で好感を持ってくれるようになるという。
いざ欲しいとなった時のために、【剣の勇者】と合流するまでに練度を上げておこうとソーマは決意する。
そうしているうちにソーマは今日の獲物を見つけ、自身の欲を解消するためだけにその毒牙を隠しながら近づいていった。
* * *
「これであらかたの根回しは終わったか」
魔王は自らの城の玉座で、ひとりごちる。
彼にとっての一番の脅威とは、【剣の勇者】と【槍の勇者】が今すぐに合流し、討伐にやってくることである。
だからこそ、先日の【剣の勇者】との邂逅で魔王は【剣の勇者】の仲間には手を出さなかった。
【剣の勇者】が【槍の勇者】との合流を渋る理由は、下手をすると仲間たちが全員寝取られてしまう可能性があるからだ。
つまり仲間がいなくなれば、合流をためらう理由がなくなる。
取り込んだ大和ダイチの記憶によると、最初こそ【剣の勇者】の仲間たちは【槍の勇者】に良い印象を持たないが、行動を共にするにつれて【槍の勇者】への好感度が高まっていくそうだ。
仲間たちが勝手に【槍の勇者】の良いところを見つけていき、実はそんなに悪い人ではないのかもと思ってしまうらしい。
不良が猫を助けているのを見てギャップにときめいてしまう理論だと記憶の中の大橋コウヘイが力説していたのを思い出し、魔王は馬鹿らしくてつい笑ってしまった。
そして【槍の勇者】との好感度が溜まっていく度にイベントが起きる。
そこで【剣の勇者】と【槍の勇者】の好感度の差が一定以下の場合に寝取られが進行するし、差が大きければ進行しない。
この寝取られハーレムルートの回避方法は、【槍の勇者】の好感度が高くならないように仲間たちに極力【槍の勇者】といっしょに行動させないことと、【剣の勇者】の好感度を高めることである。
魔王はそれを利用することにした。
「最終的に【剣の勇者】と【槍の勇者】の合流は避けられぬだろう。今までの余であれば、聖剣と聖槍が揃えば敗北は必至。しかし――今は違う」
今の魔王には、大和ダイチを取り込んだことで得られたステータス書き換えの能力がある。
それはまだ使いこなせないが、時間をかければいずれ使いこなせるようになるだろう。
そして使いこなせれば、勇者など恐れる必要はない。
それまでの時間を稼ぐために、シナリオの進行を遅延させる。
だからこそ、【剣の勇者】には【発情】のことを懇切丁寧に説明してやった。
あれによって【剣の勇者】には行動を慎重にさせる縛りを設けるのと同時に、【槍の勇者】の脅威を残しておき、寝取られハーレムルートを回避するための好感度稼ぎにも時間を割かせる。
そして、【槍の勇者】には練度上限を上げるとともに【剣の勇者】の仲間を寝取るには練度999が必要だという意識を植え付け、その練度上げに注力させて【剣の勇者】との合流を遅れさせる。
もっとも、上限を書き換えた途端にセックススキルが800台までいくとは魔王も思わなかったが。
「しかし、【発情】の設定を聖剣の力で中和できるようになり、なおかつ常時にできなかったのは痛手だったな。この能力さえ使いこなせていれば、中和さえも消せたはずだ」
ただ、使いこなせるようになるのは時間の問題だろう。
【剣の勇者】の前では、ゲーム通りに寝取られエンドで終わらせることで自身の勝利へ導くという話をしたが、無論、そんなものは魔王自身も信じていない。
ワンチャンあるとさえ思っていない。
ただ、そう思わせることで本来の目的――能力を使いこなせるようになるまでの時間稼ぎから目をそらせはしただろう。
「このステータス書き換えの能力さえ使いこなせるようになれば、いくらでも合流して構わん。それまで、せいぜい余のシナリオ通りに踊るがよい。【剣の勇者】よ」
魔王の静かな笑い声は、闇に吸い込まれ、誰にも聞こえることはなかった。
これにて「告白編」が終了です! いちおうここで一区切りなイメージです。
ここまでに10万文字も使ってしまいましたが、これで本作の根幹の情報はほぼ出し尽くした感じです。
よかったら、「10万文字も書けて偉い!」と褒めていただけますと嬉しいです……。
次回は明日(8/3)の午前7時に更新予定です。
またユーリくんサイドの視点に戻ります。
あ、それと、一区切りを記念して(?)作者の活動報告に
メインヒロイン3人のキャライメージを掲載しました。
よろしければご覧ください。




