26 究極の選択★
【CAUTION】
昨日の午後7時にも更新されていますので、そちらをまだご覧になっていない方はそちらから先にお読みください。
今でも覚えている。
あの日、俺たちのゲームが――『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』が完成して、あとは配信を待つだけとなったあの日のことを。
俺が殺されたあの日のことを。
俺たちは安い居酒屋で浴びるように酒を飲み、周りの目も気にせずに寝取られ談義をした。
ダイチは俺の書いたシナリオのいやらしさを称賛し。
俺はダイチの描いたヒロインたちの痴態を絶賛した。
俺たちは最高に性癖が合った仲間だった。
ダイチも俺も、最後までずっと催眠とか洗脳しっぱなし(特に意識改変とか)は邪道だと思ってたし、肉親は寝取られと言えるのかという疑問を持っていたし、両片思いとかならともかく単なる片思いの相手がチャラ男に先に取られるとかは全然寝取られじゃないだろとかいつも言っていた。それはそれとして使ってはいたが。
だからこそ、俺が考えた最高の寝取られを詰め込んだ『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』のシナリオは、ダイチもすごく気に入ってくれていた。
俺とダイチとで唯一評価が分かれたのは……純愛ルート。
ダイチは寝取られゲームなんだから純愛ルートなんて要らないと言っていた。
でも、俺の考えは違った。
俺は寝取られは好きだったけど、それと同時に救いのない話はあまり好きじゃなかった。
寝取られとは別に、幸せな結末もあっていいと思っていたんだ。
そこが本筋であって欲しいとさえ思っていた。
……その考えは、ダイチには許せなかったようだ。
それがもとで口論となり、ダイチはもういいと言わんばかりに席を立った。
俺はそんなダイチを慌てて追いかけた。
ゲームが完成したこんな日がケンカして終わりなんていうのは嫌だったからだ。
だけど、追いついた場所が悪かった。
歩道橋を登りきった時に、ダイチが俺を突き飛ばし――
それで俺は歩道橋から転げ落ちて死んだ。
俺はその後、この世界に転生して、6歳の時に前世のことを思い出した。
ダイチもこの世界に来ていたのか。
それも、俺のような転生ではなく元の姿のままで。
「何だ、知り合いか? いや…………そうか! 貴様、大橋コウヘイか!」
「――っ! なんで俺の名前を……」
「言ったであろう。余には此奴の知識が全て流れ込んできておると。当然、貴様のことも知っておるぞ。此奴が殺した親友よ」
魔王はそう言ってニヤニヤと笑っていた。
まるで面白そうな玩具を見つけた子供のように。
「何がおかしい!」
「いや、何。それならばむしろちょうど良いかもしれぬと思ってな。むしろ貴様にとってはご褒美か」
ご褒美、だと……?
魔王が何を言おうとしているのか予想もできず、ただ警戒の視線を送るしかできない。
落ち着け。考えるんだ。
魔王が俺の素性を知った。
今起きたのはそれだけだ。それで俺に不都合が起きるとしたら何だ?
魔王はここに来る前から俺のことを転生者だと疑っていた。
俺のことを大橋コウヘイだと知ったことで変わったことと言えば……単にゲームのことを知っているだけの転生者ではなく、ゲームを知り尽くした制作者本人だということか。
魔王にとっての脅威度は高くなったとは思う。
だが、それがなんで「ご褒美」という言葉に繋がる?
その答えは、魔王自らが教えてくれた。
「此奴の記憶にあったぞ? 貴様……寝取られが好きらしいな。そして、貴様の理想とする寝取られを実現させたのがこのゲームのシナリオ。相違ないな?」
「……まさかとは思うが、俺が寝取られが好きだからって寝取られルートに進むのを協力しろだとか言わないだろうな」
そのつもりなら、甘いと言わざるを得ない。
確かに、前世で俺は寝取られものが好きだった。
このゲームを作っていた時も、自分の好きな属性のキャラクターが乱れていく姿に、自分でシナリオを作りながら興奮していた。
前世の俺なら、悪くないと思ってしまうだろう。
だけど、今の俺は違う。
転生して18年、前世の記憶を思い出してから12年、この世界で1人の人間としてテッサ姉やエリスと過ごしてきた。
マリー様とはまだ出会って2週間くらいだけど、3人のことを現実に生きている人間として、大切に思っている。
寝取られルートだとテッサ姉は魔族になり、エリスはグレマートンの奴隷、マリー様はダマリス皇帝の娼婦になってしまう。
彼女たちに悲惨な結末は迎えて欲しくない。
もちろんバッドエンドもお断りだ。
「この世界に生まれて、俺は3人のことを幸せにしたいと思うようになった。寝取られエンドになんて、絶対に進ませない」
そのために、この12年間、ずっとレベル上げやスキルの練度上げをしてきたんだ。
今や十分にハーレムルートに進めるだけの力が俺にはある。
それを覆してまで、寝取られルートに進むなんてあり得ない。
「ふむ。心変わりをしたということか。いや、そうか。大和ダイチとはそれで口論になったのだったな。それでは悪いことをしてしまったかもしれんな」
「……何をしたって言うんだ」
「何、寝取られルートに進ませたい余に対して、現状でその全てを防げる貴様は有利すぎるとは思わんか?」
「…………」
確かに魔王の言う通りだった。
俺は全てのルートの寝取られフラグを知っていて、そのフラグを折るための力も持っている。寝取りキャラに対して、有利だとは思う。
ただ、最初はガン不利だったからな。公式ハードモードだ。
しかし、「ちょうどよかった」「悪いことをしてしまった」と過去形ばかりの魔王の口ぶりからして、俺への対策を何かしたのか?
そんな俺の不安は的中した。
しかも、最悪な方向で。
「故に、余はこの3人に【発情】という設定を追加した」
「………………は?」
発情? って? 何だ?
言葉の意味、それ自体は知っている。
簡単に言うと、めちゃくちゃエッチがしたくてたまらなくなる状態のことだよな?
それを……何と言った? 設定を追加した?
魔王が何を言っているのかわからず、俺は呆けるしかなかった。
「此奴を取り込んだことで、余にも此奴の能力――ステータス書き換えと言ったか? それが使えるようになってな。それでこの娘どもに設定を追加してやったのよ。もちろん、対象は貴様以外の男よ」
「何を……言って…………」
「カカカッ! 確かゲームでは寝取られルートに入っても犯されるまでに時間がかかったはずだな。しかし、これで貴様の女どもは寝取りキャラに体を許しやすくなった。会った途端に股を開くくらいにはな。貴様は何が何でも娘どもを寝取りキャラに会わせるわけにはいかなくなったな!」
魔王の言う通り、寝取られルートでは、テッサ姉たちは段階的に体を許していく。
何回かそういう本番以外のエロシーンを重ねていった後に、犯されるんだ。
しかし、魔王の言うことが本当ならば、最初から犯されてしまうというのか?
「さらに言えば、寝取りキャラ以外の男相手にも、口説かれれば体を許すようになったぞ。だいぶ貴様のアドバンテージが減ったのではないか?」
あまりのことに、俺の目の前が真っ暗になりそうだった。
ゴーシュ、グレマートン、ダマリス皇帝、【槍の勇者】だけではない。
他の男相手にも寝取られてしまう恐れがある。
さっき、テッサ姉たちは温泉でナンパされたと言っていた。
あの時と同じようなことが起きれば、もしかしたら今度は……。
アドバンテージが減ったどころの話じゃない。
こんな状況で今まで通りの旅なんかできるわけがない!
「それだけではない。貴様も知っての通り、その聖女の寝取られルートはゴーシュの呪いがかからないことには始まらん。しかし、それは呪い除けのアクセサリーなどをつけていれば防ぐことができる。そこで、ゴーシュの呪いスキルの練度の上限を999にした」
またおかしな言葉が聞こえた。
スキルの練度は最大で99のはずだ。その上限を、999にした……?
ゲームでは起こりえない、バグのようなことが起きている。
さっき、魔王は確かにこう言った。
ステータス書き換え、と。
つまり魔王はダイチを取り込んだことで「もともとなかった設定を後から追加する」という能力を得たというのか?
それでテッサ姉たちに【発情】というステータスを追加し、さらにはゴーシュのスキルの練度の上限を突破させた。
何なんだ、それは。
まるで不正行為だ。
「呪いスキルの練度が999まで上がれば必中効果がつき、呪い除けのアクセサリーなどでも防げないようになるのだ。ただ、まだゴーシュの練度は100を少し超えた程度なのでな。つまり、この【発情】の付与は貴様のアドバンテージを削ぐのと同時に、冒険を遅延させて聖女の寝取られルートを進めるための時間を稼ぐためでもある」
「…………」
魔王の言うステータス書き換えが本当なら、悔しいが、その策は綺麗に俺に刺さっていると言えるだろう。
付与された【発情】の設定によって俺はより慎重に動かざるを得ない。
グレマートンに1日でもエリスを渡さないように。
ダマリス皇帝に1日でもマリー様を渡さないように。
3人に色目を使う男たちから守れるように。
しかし、慎重になればなるほど、旅の進行が遅くなり、ゴーシュのスキル練度が上がる時間を与えてしまう。
そして、999まで練度が上がった時、呪い除けですらも防げない呪いがテッサ姉を襲い、ゴーシュによって寝取られる。
どうすればいいんだ……。
そうやって項垂れていると、
「ふむ。どうやら賭けには勝ったようだな」
「賭け……?」
「そうだ。この能力は此奴を取り込んだことで得られたとは教えたな。此奴の記憶にあったぞ。貴様らは転生や転移をすることで特典を得るとな。それが本当ならば、此奴だけではなく、貴様にも同じような能力があるかと思ったが……ないようだな」
俺にチート……?
そんなものはない。
あったとしても、先々に何が起こるかを知っているかという知識チートくらいだ。
魔王が使っているような本物のチートなんて、持っていない。
というか、あったらどれだけ楽だったと思ってるんだ!
「貴様もこの能力を持っていたら、設定を付与したところで消されるのがオチだと思ったが、重畳だ」
「くっ……」
ニヤニヤと笑う魔王に対して、俺は悔しさに歯噛みするしかない。
このままでは、テッサ姉も、エリスも、マリー様も、全員が寝取られてしまう。
何かないのか、何か……起死回生の手は――。
考えるが、ステータス書き換えなんていうチート能力の前に、ゲームのシナリオを知っているだけの俺が太刀打ちできるわけがない。
いくらレベル99で、寝取られフラグを折るための知識を持ってても、これは覆すことはできない。
「ふむ。その目はまだ諦めてはいないようだな」
「誰が諦めるか……!」
俺の目的はテッサ姉たちを幸せに導くことだ。
こんな、男相手に誰にでも体を許すような状態にされて、黙っていられるか。
寝取られルートに進んでも、進まなくても、ずっと犯され続ける未来しか見えない。
何とか【発情】を消させるしかない。
「ふむ。その心意気やよし。では、貴様の心意気に免じて、1つ、選択肢をやろう」
「選択肢だと?」
どうせろくなことを言ってこない。
そうわかりつつも、俺は尋ねるしかなかった。
「この3人の中から寝取られルートに進む1人を選べ」
「なっ――! そんなことできるわけ――」
「まぁ聞け。余の目的は寝取られルートに進むことで我らの勝利を確定させることだ。ならば、3人じゃなくても良いとは思わんか?」
「…………」
「余が3人全員に【発情】を付与したのは、3人のうちの誰か1人でも寝取られルートに進む可能性を高めるためだ。逆を言えば、誰か1人が確実に寝取られルートに進むのであれば、【発情】を付与する必要はない。故に、貴様が仲間を1人、差し出すのであれば全員の【発情】は消してやる」
そうして魔王はニヤリと笑い、
「選べ。1人を犠牲にするか、全員が【発情】のままか」
そんな悪魔的な選択を突きつけてきた。
次回は本日(7/31)の午後7時に更新予定です。
男2人の会話劇、次でラストです。




