25 最悪の再会★
【CAUTION】
本日は、午前と午後で2回更新しています。この話は午後7時に更新されました。
本日の午前7時にも更新されていますので、そちらをまだご覧になっていない方はそちらから先にお読みください。
俺と魔王の戦いは一方的なものだった。
もちろん、有利なのは俺だ。
「ダーク・インフェルノ!」
その呪文とともに、魔王の手から黒い炎が放たれる。
視界を覆いつくすほどの広範囲の炎。
しかし、それを浴びても俺にほとんどダメージはない。
それだけ、魔王と俺との間にレベル差があった。
炎の壁を突き抜けて、魔王に対して剣を振りかざす。
それを魔王は咄嗟に魔剣で受け止める。
ゲームならばこの時点では圧倒的に主人公よりも膂力が上回るはずが、レベル99の俺の力を受け止めきれず、少しずつ刃は押し込まれていく。
「くっ!」
「ソニック・ストライク!」
魔王は呻きながら苦し紛れに剣をはじくが、それによって魔王に生じた隙を見逃す俺ではない。
剣術スキル最速の突進技を叩き込む。
しかし――。
「…………チッ、これもダメか」
「良い突き技だったぞ」
魔王の体にダメージはなかった。
【剣の勇者】と【槍の勇者】がそろわない限りは、魔王にダメージは与えられない。
ゲーム通りの設定に、俺は何てめんどくさい設定を作ったのだと後悔の念を感じていた。
「魔剣技・イービルスラッシュ」
ノーダメージの魔王が魔剣を振るって魔剣技を繰り出す。
闇色の斬撃が飛んでくる。
だが、その攻撃を俺は難なく避ける。
レベル99で剣術スキルの練度も99の俺には、魔王の攻撃はほぼ当たらず、当たっても有効打にはなっていない。
俺は攻撃を当てられるがダメージは与えられない。
魔王もダメージを与えられない。
どちらも決め手に欠ける状況だった。
「ふむ。千日手か」
「…………」
先に剣を収めたのは魔王の方だった。
俺は警戒したままだ。
「貴様も剣を収めろ。余が悪かった。からかいすぎたようだ」
「テッサ姉たちを解放しろ。話はそれからだ」
「よかろう」
魔王が指をパチンと鳴らす。
すると、後ろで棒立ちになっていたテッサ姉たちが、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる。俺は慌てて3人を受け止めた。
今はただ眠っているだけのようだ。ホッと安堵の息が漏れる。
「話を戻そうか」
「3人を取り戻せたなら、もう俺はお前に用はない」
この場で倒せるならまだしも、倒せないならさっさと離脱するに限る。
俺はともかく、3人は気絶してるし、魔王に狙われたら危ない。
今の俺にはこの窮地を抜け出したい気持ちしかなかった。
「慌てるな、まぁ待て。余はもう今日は貴様らに手を出すつもりはない」
「そんな言葉を俺が信じると思うのか?」
「思わんが、信じてもらう他あるまい。そもそも、その女たちを殺すならば貴様が来るより先にやっておる」
「…………」
確かに、魔王の言う通りだ。
テッサ姉とエリスはともかく、まだレベル7のマリー様は殺そうと思えばいくらでも殺せるチャンスはあったはず。
それをしなかったということは、魔王は本当にここで俺たちを殺す気はないか、もしくは、何か企みがあって殺さないか。
例えば、そう――
「それに、余にとっても大幅にシナリオを変えることは避けたい」
シナリオを変えないため。
さっき魔王はこう言っていた。
俺と戦って勝つよりも、テッサ姉たちを寝取るほうが容易だ、と。
もし、この世界がゲームと同じようにテッサ姉たちが寝取られたら魔王の勝利が確定するならば、確かに俺に勝つよりも寝取られルートに進ませるほうが魔王にとって楽だろう。
何せ、寝取られルートはいくら主人公のレベルが高くても進もうと思えば進められるのだから。
それを踏まえた上で、魔王の言葉を振り返る。
ゲームの提案。
そして、その後に出てきた『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』という言葉。
それは俺の動揺を誘うためのものでもあったのだろうが、同時に本心でもあったんだ。
「貴様はもうわかっておるな? 寝取られエンドを完遂することで我らが勝利するエンディングを実現させようとしていることは」
ゲームでは寝取られたらその後は魔王を倒せずに敗北する扱いだが、この世界でどうなるかはわからない。
わからないが、魔王にとって俺の仲間が寝取られる――勇者の仲間が減ることに利益はあっても害はない。
「故に、貴様の仲間をここで殺すつもりはない。勝ち筋を自分で減らすこともないし、また、そうすることで大きくシナリオが変わっては、貴様のアドバンテージも消えるが、余のアドバンテージもまたなくなる。むしろ余のほうがやや損かもしれんな」
「……こんなところで魔王と戦うなんてシナリオはなかったけどな」
「おお、それもそうか。一本取られたぞ」
俺の皮肉に、魔王は愉快そうに笑う。
「しかし、ここで余は死なんし、そして貴様も死なん。大した変化ではあるまい。貴様がゴーシュに勝ったことに比べればな」
「…………」
「ああ、先ほどのこの女どもを牝奴隷にするという言葉も冗談だ。ここで貴様の仲間たちを奪えば、もしくは殺せば、貴様は【槍の勇者】との合流をためらう理由がなくなる。すぐにでも合流し、余を討ちに来るだろう」
それもわかってるってわけか。
【槍の勇者】が寝取られハーレムルートの寝取りキャラだってことが。
魔王の言う通り、3人とも奪われたら俺が【槍の勇者】を恐れる理由はなくなる。
何せ、奴に奪われる可能性のある仲間たちをすでに失っている状態になるわけだからな。
今はまだどこにいるかはわからないが、必ず【槍の勇者】を探し出して、魔王を倒しに行く。
やや損、というのもその可能性を受けてのことだろう。
テッサ姉たちをここで殺してしまったら、やはり俺は【槍の勇者】に奪われるものは何もなくなるため、躊躇なく【槍の勇者】と合流すると考えているに違いない。
ただ、それは個別の寝取られルートが進みきって全員が寝取られた状態でも言えることだが……何か考えがあるのか?
それとも、寝取られルートが完遂すればゲーム通りに自分たちが勝利できると本当に思っているのか?
そんな俺の考えを見透かしたように、
「何、ダメでもともとだ。貴様がいた世界ではワンチャン狙うと言うのだろう?」
魔王は不敵にそう言ってくる。
確かに、魔王としては普通にやったら負けるのだからダメでもともとワンチャンを狙うというのは頷ける。
だが、本当にそれだけか?
何かが引っかかる。
その違和感の正体を探る前に、
「おっと」
「――っ!」
それは、俺の目に飛び込んできた。
「すまないな、ユーリ。服が破けてしまった。しかし貴様の攻撃が激しすぎるのが悪いのだぞ? 少々礼儀に欠けるが、見逃してもらおうか」
そんな魔王の軽口に、俺は答える余裕はなかった。
「……お前、それは何だ?」
先ほどの戦いの余波で破れた魔王の衣服。
はだけて見えたその胸元。
そこに、人の頭が埋め込まれていた。
「おお、そうだそうだ。まだ取り込めきれずに残っていたのだったな。貴様も不思議だっただろう。余が何故この世界がゲームだと知っておるか。これのおかげだ」
俺が驚いたのは、魔王の胸元に人が埋め込まれていたから――ではない。
いや、それもあるが、それよりも驚くことが俺にはあった。
「愚かにも、余に指図をしてきたのでな。取り込んでやったのよ。するとどうだ? 面白いことに、此奴の知識が余に流れ込んでくるではないか。この世界がゲームの世界だという知識、そしてこの先何が起きるかの全てがな」
取り込んだ……?
誰を? 誰が?
決まってる。
魔王が、その胸元に埋め込まれた人物を、だ。
足元がガラガラと崩れるような感覚に襲われる。
魔王の言葉がどこか遠くのもののように感じる。
なぜなら、魔王に取り込まれたという人物は俺のよく知っている人物だったから。
「なんで……なんでお前がそこにいるんだよ……」
その埋め込まれていた人物は――。
「ダイチ……」
前世で俺を殺した親友――大和ダイチだった。
男しかしゃべってねーーーーーーーーーー!
謎の男(仮)がユーリくんのこと勘違いしているので、書くの大変でした。
あと2話だけご辛抱していただければ、ヒロインといちゃいちゃするので……。
そしてここが終わったら感想で「頑張ったね」って褒めてください!




