24 襲来★
【CAUTION】
ここから4話、ちょっと展開が重めになります。
ただ、タグでハッピーエンドとネタバレしています通りですので、ご安心ください。
宿に戻った俺は、自分の部屋でテッサ姉たち3人が来るのを待っていた。
3人は、気持ちを落ち着かせたいからと、いったん自分たちの部屋に戻っていった。
これから俺は、3人全員と恋人になりたいと言うつもりだ。
果たしてみんながそれを受け入れてくれるかはわからない。
けど、3人の気持ちに応えるために……特にテッサ姉とエリスをこれ以上待たせないためにも、答えは出そうと思っていた。
「……それにしても、遅いな」
そうつぶやいた時だった。
――コンコン。
扉をたたくノックの音がした。
「――っ! ど、どうぞ」
さすがに緊張して声が上ずる。
俺の声が届いたのか、部屋の扉が開き――
『ギャァ!』
「っ!? ゴブリン!?」
そこからゴブリンが入ってきた。
俺は反射的に、ベッドの脇に置いておいた剣を取り、襲ってきたゴブリンを難なく返り討ちにする。
ミドルゴブリンですらない、普通のゴブリンはあっけなく俺の剣を受けて絶命した。
「……なんでこんなところにゴブリンが」
いきなり襲ってきたゴブリンを倒したのはいいが、そんな疑問が俺の脳裏をよぎる。
ここは街の中だ。
普通は街道ですらモンスターが現れるのは稀で、街の中にまでモンスターが入ってくることはほぼない。
それに、街にモンスターが入っていたらもっと騒ぎになっているはずだ。
日は沈んでいるとはいえ、夕食時だから外食をする人たちが外の往来にはいるだろう。
なのに、外は静かなものだった。
まるでここにいきなり現れたみたいな……ん?
ゴブリンの死体が消えたところに、素材とは別の何かが落ちていた。
「手紙……? これは!」
そこに書かれていた内容、それは――
* * *
夜の勇者神殿。
その最奥の空間に、そいつはいた。
「よく来たな、【剣の勇者】」
「何者だ、お前……」
祭壇に腰掛けたそいつは、軽妙な口調で俺に話しかけてきた。
顔は暗がりで見えない。
こいつが手紙の主なのか?
――仲間は預かった。返してほしければ勇者神殿の奥まで来い。
手紙には、テッサ姉の筆跡でそう書かれていた。
なんでテッサ姉がそんな手紙を書いたのか疑問には思ったが、そんなことは関係ない。
みんなを助けるために俺は勇者神殿の奥までやってきていた。
「みんなをどこにやった!」
「そうがなるな。初めて会った時には自己紹介をするのが人間のルールだろう?」
「何を言って……」
「おお、そうだ。自分から名乗るのが礼儀だったな。悪かった。余は魔王。魔王バージェラルドだ」
「な――っ!」
魔王を名乗るその男が指をパチンと鳴らすと、火の玉が生まれ、顔が照らされた。
親友がデザインした通りの姿をした魔王がそこにいた。
さらにその後ろには、魔王に付き従うかのように立っている3人の女性の影が。
「テッサ姉! エリス! マリー様!」
まぎれもなく、連れ去らわれた仲間たちだった。
俺は彼女たちの名前を呼ぶが、みんなの瞳はうつろで、誰も返事をしてくれない。
魔王……!?
なんで魔王がこんなところに!?
いや、それより――
「みんなに何をした!?」
「安心するがいい。意識を軽く操っているだけでまだ何もしておらん。もっとも、貴様の態度次第ではこのまま余に奉仕してもらってもよいがな」
「やめろ!」
「やれやれ。話のわからぬ奴だ。先も言ったであろう。まずは自己紹介といこうではないか。余は話したぞ。次は貴様の番だ」
意識を軽く操る……催眠か洗脳状態ってことか?
わけがわからないが、3人を人質に取られている状態だ。ひとまず奴に従い、名乗ることにする。
「……【剣の勇者】のユーリだ」
「ユーリか。よろしい。今日、ここに貴様を呼んだのは貴様にゲームの提案をしに来たのだ」
「ゲームだと?」
俺が問い返すと、魔王は「うむ」と頷いた。
「『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』という名のゲームだ」
「なっ――」
魔王の口から出たそのタイトルに、俺は思わず驚愕の声を上げてしまう。
そしてそれは悪手であった。
「そうか。そうか。やはり貴様もそちら側だったか、ユーリ。日本と言ったか。貴様もそこからやってきたのだな。この世界の外側から」
しまった、と思っても時すでに遅し。
魔王は俺が俺がこの世界の外からやってきたことを確信していた。
ゴーシュに「2周目以降」という言葉を授けたのは魔王だと俺は知っていたのだから、こんな揺さぶりをしてくるのは予想できていたはずなのに……!
だが、言い訳するわけではないが、魔王は俺を何周もしてステータスを引き継いだ状態の主人公だと思っていたはずだ。
それでも主人公はあくまでもゲーム内のキャラクターでしかない。
なんで魔王は俺をゲームの外側の人間だと思ったんだ?
いや、思うことができたんだ?
「どういう理屈だかは知らんが、この世界のもとになったゲームが貴様らの世界にあったらしいな。余はそのことを偶然知ることができてな」
その言葉に愕然とする俺に向かい、魔王は滔々と語り続ける。
「どうやらこの世界の存在は、そのゲームのシナリオ通りに動くらしい。しかし、お前は違った。ユーリよ」
「…………」
「おそらくはお前はもともとこの世界の住人ではない。シナリオを知っている。それ故に、シナリオを無視した動きができるのだ。違うか?」
その通りだ。
魔王の推測に、俺は何も言うことができなかった。
「当たりのようだな。ならば貴様は、単に世界を何周もしている男以上に厄介な存在だ。ゴーシュを一撃で倒せるほどの力を持っている貴様に勝つのは容易ではあるまい。そこでだ」
魔王はそこでいったん言葉を切って、後ろに立つ3人に視線をやる。
「聖女の寝取られルート、女騎士の寝取られルート、賢者の寝取られルート、寝取られハーレムルート、そしてバッドエンドだったな。せっかく我々が勝つシナリオが用意されているのだから利用させてもらおうと思っているわけだ」
「何を……する気だ?」
問いかけながら、俺は魔王の意図がわかっていた。
「ゴーシュを一撃で倒せる貴様と戦って勝つ――バッドエンドに比べたら、この女どもをシナリオ通りに寝取るほうがはるかに容易だろう?」
「――っ!」
つまり、ゲームのシナリオ通りに寝取りキャラたちに3人を寝取らせることで自分たちが勝つエンディングにたどり着こうとしているのだ。
「しかし、3人ともなかなか良い体をしている。バッドエンドではこの娘たちを余が犯すらしいな」
そう言って魔王はテッサ姉たちの体を舐めるように眺める。
バッドエンドでは魔王によって世界が征服された後、人間の女は魔族の子を孕ませるための家畜として飼われ、男は奴隷として働かされ続けていた。
その中でも、魔王軍に特に歯向かった【剣の勇者】である俺の仲間たちは魔王直々に死ぬまで犯される。
それは数あるエンディングの中でも、今の俺にとって最悪の結末だった。
「あるいはここでこの娘どもを余の牝奴隷にして――」
そこまで聞いた時、俺の体は勝手に動いていた。
「魔王おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
今にもテッサ姉の胸をわしづかみにしようとする魔王を斬り伏せるために。
「くっ!」
一瞬で間合いを詰めて振られた俺の剣を、魔王は素早く魔剣で受ける。
しかし、レベル99の俺の膂力は魔王ですらも受け止めきれず、弾き飛ばされた。
そして俺は3人の前に立つ。
「……なるほど。ゴーシュがなすすべもなくやられたわけだ。余ですらも受けるのがやっととはな」
「みんなに手出しするなら容赦しない」
「面白い! 貴様の力、見せてもらおうか!」
魔王が魔剣を構えて突っ込んでくる。
ここに、ゲームではあるはずのなかった勇者と魔王の決戦が始まった。
作者的に必要と考えているとはいえさっさと終わらせたいので、今日と明日は1日2話更新します。
次回は本日(7/30)の午後7時に更新予定です。
作者はヒロインたちとのいちゃいちゃが書きたいんです!




