23 温泉
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「はぁ~~~~~~。気持ちいい~~~~~~~~」
テッサ姉に誘われてやってきた温泉。
その露天風呂に浸かって、俺は気の抜けた声を出していた。
いやー、『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』は西洋風ファンタジーの世界観だけど、温泉がある設定にしておいてよかった。
もちろん、混浴イベントなんかを起こせるからだが、まさか自分が転生することになるとは思ってなかったからな。異世界転生しても温泉に入れるなんて夢のようだ。
こうして温泉に浸かっていると、ここまでの2週間の旅の疲れがお湯に溶けて流されていくようだ。
ちなみに、俺の住んでた街を含め、ノナリロ王国には温泉はなかったから、これがこの世界に来て初めての温泉ということになる。しかも露天風呂。これで唸らずにいられるはずがなかった。
ただ、俺は裸ではない。水着のような形状の湯浴み着を着ている。
これは仕方ない。なぜならここは――
「あ、いたいた! ユーリ~!」
「ユーリ、こんなところにいたの!」
「……ユーリ様!」
俺を呼ぶ声に振り向くと、湯浴み着を着たテッサ姉たちがいた。
そう、ここは混浴なのだ。
前世で言うとスパリゾートに近い。
俺たちの他にも家族連れだったり、恋人同士だったりで、異性と一緒に温泉を楽しんでいる客がいる。
もちろん、1人あるいは同性同士で来ている客もいた。
そんな、温泉を楽しんでいた客のうち男性は例外なく、異性と一緒に来ていた人でもテッサ姉たちの湯あみ着姿に目を奪われていた。
普通の服でも視線を集める彼女たちが、水着のような露出度の湯浴み着を着ているのだ。そりゃあ誰だって見てしまうだろう。
「温泉って初めてだね、ユーリ」
そう言ってテッサ姉は俺の隣で湯に浸かる。
「それより聞いてよ、ユーリ。更衣室出た時からナンパがすごくて疲れちゃったわ。ね、マリー様」
「はい……ちょっと怖かったですわ」
「な、ナンパ!? 大丈夫だったの!?」
エリスとマリー様が俺のそばでお湯に浸かり始めながらそんな爆弾発言をしてきて、俺は驚いてしまう。
いや、驚くも何も、3人はこんなに美人なんだ。目を離したらナンパされるのは目に見えていた。
失敗したな……更衣室の出口で待っているべきだった。
「アタシたちを誰だと思ってるのよ。ナンパ野郎なんて適当にあしらってやったわよ」
「私たちが一緒にお風呂に入るのはユーリだけなんだから。ねー」
「でも……しつこい人もいましたわ。それは――」
「アタシがちゃーんと、オシオキしといたから」
……そういえば、さっき向こうからすごい音が聞こえたな。あれはエリスだったのか。
「何にせよ、3人が無事でよかった」
「こんな美女が3人もいるんだから、変な男にナンパされないように、ちゃんと見てなさいよね」
「うん。悪かったよ、エリス」
「わかればいいのよ。それじゃあ――」
そう言って、エリスは満足そうに笑うと、
「えいっ!」
俺の左腕に抱きついてきた。
テッサ姉やマリー様に比べたら小ぶりだが、柔らかい膨らみの感触が水着越しに伝わってくる。
「こうやって、アタシがユーリのものだって周りにアピールしないとね」
「あ、エリスずるい! 私も!」
競うようにしてテッサ姉も俺の右腕に抱きついてくる。
右腕はテッサ姉の水着ごと彼女の深い谷間に挟み込まれて、幸せな感覚に文字通り包まれた。
「お姉ちゃんのことも、ユーリの女だよ~、ってみんなに教えてあげようね」
「お2人とも大胆ですわ……」
マリー様はというと、そんな俺たちを真っ赤な顔で見ていた。
「あ、あの……わたくしも抱きついたほうがよろしいでしょうか? そうなると……」
テッサ姉が右側、エリスが左側を陣取っている。空いているのは前か後ろだ。
魔王を倒したら結婚する相手とはいえ、抱きつくのはハードルが高い場所だろう。
だから俺は首を横に振る。
「そんなことをしなくても大丈夫ですよ。マリー様も大事な仲間ですから。俺が守ります」
その俺の言葉に、マリー様はちょっとホッとしたような表情を浮かべた。
そんな彼女を見守りながら、でも抱きついてもらえたらきっとマリー様も気持ちいいんだろうなとつい思ってしまい、俺は頭を振ってその煩悩を必死に追い払うのだった。
* * *
それから俺たち4人は温泉を楽しんだ。
温泉自体は数種類しかなく、順番に入っていったらすぐに全ての温泉に入れてしまった。
だが、どの湯でもゆっくり入れたし、3人と一緒ということもあって、非常に満足感の高い時間を過ごせた。
温泉に連れてきてくれたテッサ姉に感謝だな。
「そろそろ帰ろうか」
「そうね、もう日も暮れる頃だし」
「温泉もいろいろ入れたし、ユーリとも一緒だったし、お姉ちゃん大満足〜」
俺の言葉に、エリスとテッサ姉が賛同してくれる。
「それでしたら、その、帰る前に……」
しかし、マリー様は顔を赤らめてモジモジと何やら言いにくそうにしている。
俺はその言葉の続きを待ったが、それよりも早く、テッサ姉とエリスはピンときたらしく、
「うん、待ってるから行っておいで」
「アタシたちは帰る準備をしてますね」
「……! ありがとうございます!」
そんなやりとりをした後、マリー様はどこかに行ってしまった。
いやさっきナンパされたばかりなんだから1人にするのはまずい。
そう思って彼女についていこうとするが、エリスに止められた。
「お手洗いでしょ、デリカシーがないわね」
「あっ……」
そういうことか。
確かに、男の俺に言うには躊躇われるだろうし、ついていくのもまずい。
エリスの言う通り、俺のデリカシーが足りなかった。
大人しくマリー様が帰ってくるのを待とう。
そう思ってみんなで待っていたが、
「ちょっと遅くないか?」
「そうね……」
「様子見に行ってみる?」
あまりにもマリー様が戻ってくるのが遅かったため、テッサ姉たちと一緒に様子を見に行くことになった。
何かあったのかもしれない。
もしのぼせて途中で倒れていたりしたら大変だ。
しかし、幸か不幸か、マリー様が戻るのが遅れている原因は他にあった。
「やめてくださいませ!」
その声は、トイレの近くまで来たときに聞こえてきた。
紛れもなくマリー様の声だ。しかも、その声音はだいぶ切羽詰まったものだった。
俺は慌てて声のする方へと駆け出す。
「そこを通してください!」
「へっへっへ。いいじゃねぇか。ちょっとオレらと遊ぼうぜ」
そこには、複数の男たちに通せんぼをされているマリー様がいた。
「マリー様!」
「ユーリ様!」
「ん? 何だお前……邪魔すんな!」
マリー様に絡んでた男のうち、一際体格の大きい男が振り返る。
「あ、お前……! ノナリロの武器屋で会った……!」
その男の顔に見覚えがあった。
ノナリロの武器屋でテッサ姉たちが試着をしているところに押し入ろうとした男だ。こいつもノクロスに来ていたのか!
あの時、俺はこいつを一撃でぶっ飛ばしたし、俺を見たら退散するんじゃないか?
そう思っていたが、向こうは俺を見ても全く動じていなかった。
その理由はすぐにわかった。
「ノナリロぉ? お前、弟のことを知ってんのか?」
「お、弟!?」
「その様子じゃあボコボコにされたって感じか? アイツはオレに似て凶暴だからな」
目の前の男は、ノナリロで会った男の兄だったのだ。
そっくりすぎて全く見分けがつかなかった……。
「お。後ろにかわいこちゃんがいるじゃねーか。弟のことを知ってんなら話ははえーや。後ろの女ども置いて、とっとと失せてくれっか? 言っとくが、オレは弟よりつえーぞ?」
「アニキはモンスター倒したことがあるんだぜ!」
「なんとレベルは4だ!」
えぇ……マリー様のほうがレベル上じゃん……。
そんな俺の驚きには気付かず、ニヤニヤ笑いながらチンピラ(兄)と取り巻きたちが俺に迫ってくる。
「どうだ? 女たちを置いて消える気になったか?」
それに対して俺は当然――
「断る」
毅然とした態度でそう答えた。
「マリー様はもちろん、後ろの子たちも俺の大切な人たちなんでね。お前なんかに、はいどうぞって渡すわけにはいかない」
「ほう……痛い目を見ないとわからないらしいな」
「やっちまいましょう、アニキ!」
「こんなモヤシ、楽勝っすよ!」
俺の返答にイラついたチンピラ(兄)と取り巻きたちが指をポキポキ鳴らす。
そして殴りかかってきて――
「うがぽっ!」
「あじゃぱっ!」
「がらがんちょっ!」
俺は弟の時と同じように、全員を一発ずつ殴り飛ばした。
「じゃあ、行きましょうか、マリー様」
「は、はい……でも、あの方たちはそのままでよろしいので?」
「きっと大丈夫だと思いますよ」
あんなチンピラにも気を遣うなんて、マリー様は本当にお優しい方だな。あいつらは自業自得だろう。
でも、後で警備の人にでも報告しておこう。
「あの……ユーリ様」
「はい。何でしょう?」
「助けてくださり、ありがとうございますわ」
「いえ、俺のほうこそマリー様を1人にしてしまって……」
「でも、助けてくれたでしょう? とても嬉しかったですわ。それと……大切な人と言っていただたことも。だから――」
そう言うと、マリー様は俺の左腕に抱きついてきて、
「わたくしも、ユーリ様をお慕いしていますわ」
頬にキスをしてくれた。
いきなりのことに、俺は目を白黒させるしかなかったが、黙っていなかったのがテッサ姉とエリスだ。
「あー! マリーちゃん、何やってるの! ユーリは私のなのに!」
「ちょっとテッサ姉! 何言ってるのよ! まだテッサ姉のものじゃないでしょ!」
「テッサ様、エリス様。わたくしもユーリ様の争奪戦に参加いたしますわ」
争奪戦って……。
でも、そうか……もう12年か。
テッサ姉とエリスに好きだと言ってもらえてから12年も、2人はずっと俺の返事を待っていてくれたのに、答えを出さないままここまで来てしまった。
それはもちろんハーレムルートを作るためで、どう考えてもクズなことをしているという自覚はある。2人が待ってくれているのをいいことに、ずっと甘えてきた。
それなのに、ここにきて、最後のヒロインであるマリー様にも好きだと言ってもらえた。
テッサ姉もエリスも、心穏やかではないだろう。
……そろそろ、限界なのかもしれないな。
テッサ姉もエリスも、12年間、俺がどちらかを選ぶのだろうと思って待ってくれていたのだろう。
そして、マリー様も3人のうちの誰か――自分を選んでほしいと思って告白してくれたのだと思う。
だけど、俺は3人の誰かではなく、3人と結ばれたい。
そのために、俺はハーレムルートを作るために頑張ってきた。
最初は漠然と、どうせならハーレムルートを作りたいと思っていただけだった。
だけど、今は3人のことが好きだ。
ゲームのヒロインとしてではなく、現実に生きている人間として。
誰にも奪わせたくない。
だから――
「3人とも……宿に戻ったら大切な話があるんだ。聞いてもらえる?」
この気持ちを、3人に明かそうと思う。
というわけで、温泉回でした! いちゃいちゃ多め!
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次回は明日(7/30)の午前7時に更新予定です。
【こぼれ話】
5人兄弟。




