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22 宗教国家ノクロス

評価・ブックマーク・感想をいただく度、書いてよかったなと思います。

本当にありがとうございます!



 テッサ姉も無事だったことだし、ゴーシュを退けた翌朝に俺たちは改めて旅立った。

 最初の目的地、宗教国家ノクロスへは馬車を乗り継いで向かう。

途中、いくつかの国を経由して、特にトラブルなく俺たちは2週間ほどでノクロスにたどり着くことができた。


「んー、ようやく着いた!」


 俺に続いて馬車から降りたテッサ姉が大きく伸びをする。

 その拍子に、大きな胸の膨らみも突き出されて、ぷるんと揺れていた。


「2週間も馬車に乗ってるとさすがにこたえるわねー、お尻痛いわ」


 次に降りてきたエリスはそう言って自身のお尻をポンポンと叩く。


「エリス様も? 実はわたくしもですわ」


 最後がマリー様だ。

 ノナリロ王国の姫である彼女は、上品な仕草で馬車から降り立って微笑んだ。

 王族としての外交などで馬車での移動に慣れているマリー様だが、やはりその時に使っていた馬車とこの2週間で乗った馬車とでは乗り心地が違うのだろう。

 テッサ姉やエリス同様に、少しくたびれた様子だった。


 そんな3人が並び立つと、にわかに通りすがりの男たちが色めき立つ。

 スタイル抜群の美女が3人が固まっているのだ。無理もない。


 ここ、ノクロスは宗教国家と区分されている国だが、国民は前世でいうところの修行僧みたいな生活をしている人ばかりではない。もちろん、この国が推奨しているノクロス教の教徒が大半ではあるものの、普通に暮らしている。

 戒律でもセックスや性欲をご法度としているわけでもないので、美女がいたらつい目で追ってしまうのも仕方のないことだろう。俺だって向こう側の立場だったら絶対に見ちゃうし。


 それにしても、ゲームだとストレートにノナリロからノクロスに行こうとしたら3日分で済むのだが、やはり現実になると移動時間はシビアになってくるな……。

 馬車の乗り継ぎの関係もあって、たどり着くのに2週間もかかってしまった。

 もっとも、1周目の主人公(ユーリ)がここまで来ようとするとレベル上げも含めてもっとかかるから、これでも早く来れたほうだけど。


 それに、馬車を乗り換える際、出発が翌日だったりした時には周辺のモンスターを倒したりできたので、素材を売ったり錬金術で良い素材を手に入れられた。

 この辺りまで来ると、スライムやゴブリンのような最下級モンスター以外も出てくる。

 おかげで収入も増えてきた。まぁ今の段階では赤字ではあるのだが。


 モンスターを倒して得られたのは素材だけではない。経験値もだ。

 俺やテッサ姉、エリスはもう経験値を得てもレベルが上がらないが、マリー様は違う。


「ここまで来る道すがらで、レベルを上げられてよかったですわ」


 そう、ノナリロ王国を出た時にはまだレベル1だった彼女も、今ではレベル7まで上がっていた。

 ノナリロ王国周辺よりも強いモンスターが出てくるとはいえ、まだまだ序盤のエリアだ。

 4人中3人がレベル99である俺たちが負けるわけもなく、順調にマリー様のレベルを上げられた。

 そして俺も上げられたものがある。


「でも、わたくしのレベル上げに皆さんを付き合わせてしまったのではないでしょうか?」

「気にしないでください、マリー様。俺も魔法のスキル練度を上げたかったですし」


 俺はノナリロ王国を出る時に、これからの冒険に役立ちそうな魔法のスキル本をいくつか買っていた。差し当たっては基本の火と水、そして回復魔法だ。

 マリー様のレベル上げがてら、その練度を上げていたのだ。


「それに、マリー様のレベルが上がれば、それだけこの旅も安全になります」

「そうそう! マリーちゃんは私たちの仲間なんだから、心配しないで?」

「アタシも、マリー様のレベル上げを手伝えて光栄ですよ」

「皆さん……ありがとうございます」


 俺たちの言葉に、嬉しそうに礼を言うマリー様。


 この2週間で得たものは、レベルやスキル練度は元より、何よりも俺たちパーティーが親しくなったことだろう。

 宿屋での部屋はもちろん男女別だったけど、そういう時以外はずっと一緒に行動していたから、自然と心の距離も近くなっていた。

 最初は俺もエリスもマリー様に構えてしまうところがあったが、だいぶ気楽に接せられるようになったと思う。まだ敬語は抜けないが……。


 さて、このノクロスにある勇者神殿には、かつて魔王と戦った【剣の勇者】と【槍の勇者】の記録が残っている。

 その記録から【槍の勇者】の手がかりを見つけるのがここに来た目的だ。


 だが、馬車がノクロスの首都(ここ)に着いたのは昼過ぎ。

 すでに日もてっぺんから落ち始めていて、これから勇者神殿に行くにはちょっと遅い時間だ。

 それなら――


「みんな長旅で疲れてるだろうし、荷物を持ったまま行くのも大変だから、今日はもう宿屋に泊まって、勇者神殿には明日行こうか」

「お姉ちゃんは賛成!」

「アタシも賛成かな」

「わたくしも賛成しますわ」


 満場一致だ。俺たちはひとまず宿屋を探すことにした。




 * * *




 幸いにして、宿屋はすぐに見つかった。

 テッサ姉たちと別れて、俺は自分の部屋に入って荷物を置くとベッドに横になった。


 ここまでは順調だ。

 ゴーシュがテッサ姉に呪いをかけて寝取るのは阻止できたし、序盤のレベル上げが不要だったからノクロスまでほぼノンストップで来れた。

 ゲームよりも移動に時間がかかったというのは予想外だったが、それも大きな問題ではない。

 そして国からの援助金は一切使わずに済んでいる。これが大きい。


 ここまでの道のりでは、この12年間で倒したモンスターの素材を売ったお金でほぼやりくりできていた。しかも、まだ十分に余裕がある。

 これから先、強いモンスターが出てくるエリアに行けば手に入る素材も高く売れるようになる。

 そうすれば援助金に頼らずに旅が続けられて、マリー様の寝取られルートのフラグも折ることができる。

 エリスの寝取られルートに関してはまだ動きがないからわからないけど、高く売れる素材が安定して手に入るようになればグレマートンから要求される慰謝料も払えるだろう。


 そう、順調だ。


 ……ただ、ゴーシュの動向だけがずっと気になっていた。


 旅立ち直後の負けイベントでゴーシュを返り討ちにできたのはいいが、倒しきるには至らなかった。

 本来のシナリオなら、この後のゴーシュはテッサ姉にかけた呪いが進行している間に人間の国を攻め落とし、そこで俺たち――【剣の勇者】のパーティーを待ち受けていた。

 だが、今は俺が負けイベントを覆したことでテッサ姉に呪いはかかっていない。

 これによって、今後、ゴーシュがどう動くのかが俺にはわからなくなっていた。


 テッサ姉は諦めてシナリオ通りに国を攻めるならまだしも、もしかしたらテッサ姉を諦めずにもう一度呪いをかけようとリベンジを狙っているかもしれない。

 やっぱり後顧の憂いを断つ意味でも、ちゃんと倒しきっておくべきだったな……。


 それに、「2周目」という発言もある。

 奴は「魔王の言った通り」と言っていたな。

 魔王はこの世界が『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』の世界だと知っているのか?

 だとしたら、俺の強さを知ったら間違いなくステータス引き継ぎでのニューゲームを疑うだろうな。


 もっとも、俺は1周目なのだが。

 ただ、それも魔王から見たらどちらでもいい。


 向こうにとっての問題は、この先の展開を知っている上にレベルがめちゃくちゃ高い【剣の勇者】がいることなのだ。

 当然、警戒してくるだろう。


 ゴーシュ、そして魔王は要注意人物だ。


 不意を突かれないように気を付けよう。


 そこまで考えた時だった。


「ユーリ、ちょっといい?」


 ノックの後に、部屋の扉の向こう側からテッサ姉の声が聞こえてくる。


「どうしたの? テッサ姉……って、エリスとマリー様も?」


 扉を開くと、そこにはテッサ姉だけではなくエリスとマリー様も立っていた。

 3人で何の用だろうかと首をかしげていると、


「近くに温泉があるんだって! みんなで行かない?」


 そんなことを言ってきた。


特に何ともない繋ぎの話からの次回は温泉回です!

よかったら、この下の★を押して評価していただいたり、

感想で「ちゃんと更新できて偉いね」などと褒めていただけると嬉しいです!


次回は明日(7/29)の午前7時に更新予定です。

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