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21 動き出す陰謀★

評価・ブックマーク・感想、そして閲覧、いつもありがとうございます!

皆様の反応に作者はそれはもう喜びまくってます。



「はぁ、はぁ……化け物め!」


 魔王の居城に逃げ帰ったゴーシュは、息を荒くしてそう吐き捨てた。


 【剣の勇者】(ユーリ)を散々煽り、さも余裕ですという顔で消えたゴーシュだったが、その実、かなりギリギリだった。

 ゴーシュは転移魔法を使えるが、それも魔力を使う。

 事前に魔王から魔力を渡されていたとはいえ、蘇生に莫大な魔力を使用したゴーシュにとって無事に転移魔法を使えるかどうかは賭けだった。


 果たしてゴーシュは、その賭けにどうにか勝ち、命からがら逃げてきたのである。

 逃げ際に煽ったのは四天王としての矜持がさせたことだった。


「何だったのです、あの男は……! 本当に人間なのですか!?」


【剣の勇者】の実力を見極めに出立する前に、魔王に言われたことを思い出す。




 ――【剣の勇者】にとってこの世界は2周目以降かもしれん。




 あの時の魔王の言葉には、続きがある。


 なんと、【剣の勇者】は何度もこの世界をやり直している可能性があると言ったのだ。

 しかも、やり直す度に力を増しているらしい。正確には、やり直す前の世界でのレベルやスキルなどを引き継いでいるそうだ。

 魔王に負けた時はもちろん、魔王に勝てたとしてもやり直しているのかもしれない。例えば……戦いの中で仲間を失ったなどの理由で。


 そうして、自分の理想の世界になるまでやり直しているのだ、と。


 そんな馬鹿なことが。

 ゴーシュは一瞬、魔王が自身をからかいでもしているのかと思ったが、魔王の真剣そのものといった表情からそうではないと判断した。

 また、それであればイルゼーの魔力を受けたミドルゴブリンを【剣の勇者】が普通の剣で倒したことも説明がつく。


 もちろん、それは単なる推測の域に過ぎないと魔王は言っていた。

 だが、万が一にもその魔王の空想(・・)が事実だった場合、これからの戦いは魔王軍に不利なものになるだろう。

 何せ、世界を繰り返しているということは、【剣の勇者】にはこれから何が起きるのかわかっているということなのだから。


 ゴーシュが【剣の勇者】を襲撃することも。


 そこで魔王は一計を案じた。

 あえてそのままゴーシュに【剣の勇者】を襲撃させたのである。


 今回の【剣の勇者】に対してゴーシュをぶつけるというのは魔王が真っ先に思いついた采配だ。

 つまりは、前の世界でも同じことが起きた可能性が高い。

 本当に【剣の勇者】が世界をやり直していたら……このゴーシュの襲撃を経験していて、対策を取ってくるだろう。

 つまりゴーシュに襲撃させることで【剣の勇者】が世界を繰り返しているかどうかを見極めようとしたのだ。


 果たして魔王の懸念は杞憂にはならなかった。

 ゴーシュと遭遇した【剣の勇者】は、何の躊躇いもなくゴーシュに攻撃した。

 まるでゴーシュが来るのを知っていたかのように。

 その上、捨て石として聖剣の破壊に向かわせたミドルゴブリンとは比べ物にならない強さを誇るはずのゴーシュを、一方的に殺したのだ。


【剣の勇者】がその強さを引き継いで何度も世界をやり直している。

 まだ確証はないが、そんな魔王の言葉が現実味を帯びてきている。


 さらに言うならば、


「呪いが解かれているですと!?」


 去り際に仲間の1人にかけたはずの呪いが解呪されていた。

 その呪いは、かけた相手の夢の中にゴーシュが侵入できるようになるものだった。

 そうやって、夢の中に入れるスキルでも持っていない限りは誰も邪魔できない夢の中でゆっくりと調教するつもりだった。

 そして、最終的に魔族へと堕として【剣の勇者】にその痴態を見せるのも一興かと画策していたのだ。


 夢の中に入れる呪いであるが故に、ゴーシュとテスタロッサにはつながりができていたはずだった。

 しかし、そのつながりはいつの間にかなくなっていた。


「そんな馬鹿な! この呪いはどんなに練度が高い解呪魔法でも解くことはできないはず……! ありえるとしたら、あらかじめ呪い除けを……まさか!」


 そこまで言って、ゴーシュは思い至った。


 知っていたのだ。

 ゴーシュが呪いをかけることを。


 やはり【剣の勇者】は世界をやり直している。

 ゴーシュは起きた事実を見つめれば見つめるほど、そう確信を深めていった。


 しかし、【剣の勇者】のやり直しが真実だとして、自分に何ができる?

【剣の勇者】はこれから起きることを知っている。

 さらに、自分を正面から一方的に殺すだけの強さを持っている。


「このまま我々は負けるしかないと言うのですか……!」

「いや、よくやったぞ、ゴーシュ」

「――っ! 魔王様!?」


 ゴーシュの嘆きに、応える者。

 それは魔王であった。


「これであの者の言葉が正しかったと証明された」

「あの者……?」

「うむ。復活直後に余の前に現れた人間がいてな。其奴(そやつ)が余に言ったのだ。この世界は2周目以降かもしれん、と」

「何と――。それで、その人間は何者で? どうしたのですか?」

「取り込んだ」

「…………は?」


 魔王の何気ない一言に、ゴーシュは呆気に取られる。


「アドバイザーだとか言っておったが、余に指図をしようとするのでな。まず殺した。しかし、不思議にも肉体を細切れにしても煉獄の炎で焼いても瞬時に復活した。しかも、何やら寝取られルートがどうとか妙なことを口走るものだから、興味深くなってな。取り込んでみたわけよ」


 魔王はそう言うと、自らの装束の胸元をはだけさせる。


「これは――!」


 その胸元には人間の男が埋め込まれていた。


「すると、此奴(こやつ)の知識と能力が余の中に流れ込んできてな。くくく……ゴーシュよ。どうやらこの世界はゲームというものだそうだぞ」

「ゲーム?」


 聞き慣れない言葉にゴーシュは眉をひそめる。


「盤上遊戯のようなものだな。余を倒すことを目的に【剣の勇者】を操って旅をするというものだ。何と言ったか……そう、マルチエンディングというらしい」

「と言うと……?」

「【剣の勇者】の行動如何で結末がいくつかに分岐するようだな。余を倒し、仲間たちと結ばれる結末もあれば、余に敗北し、人類が余の家畜となる結末もあるらしい。そして、仲間たちが他の男に寝取られてそこで旅が終わるという結末も」


 そう言うと、魔王は「面白くはないか?」と尋ねてくる。


「なぜ我らが勝つ結末などを作ったのか……まったく、人間の業とは愉快なものよの。ともかく、この知識、活かさぬ手はない」

「御意。このゴーシュ、魔王様の手足でございます。何なりとご命令を」


 元よりゴーシュは魔王の配下だ。

 魔王が望むのであれば、何でもするつもりだった。


「では尋ねる。ゴーシュよ。貴様が呪いをかけようとした【剣の勇者】の聖女をどう思った? 犯したいと思ったか?」

「良い体をしていました。それに【剣の勇者】との結びつきも強固の様子。こちら側に堕とせば、【剣の勇者】への精神的なダメージは計り知れないかと」

「よろしい。ならば貴様はそのまま聖女に呪いをかけ、寝取れ」

「聖女を、ですか……?」

「うむ。この男の知識によれば、聖女を寝取る相手が貴様のようでな。貴様の言う通り、【剣の勇者】の仲間が魔族に堕ちるのは面白い。加えて、聖女を貴様が寝取れば魔王軍の勝利になるそうだ。まぁ、それが真実かどうかは定かではないが、聖女を堕として損はない。シナリオに沿ってみるのも一興ではないか」

「はっ……拝命いたしました。しかし、【剣の勇者】は呪いの対策をしているようで――」


 淫夢を見せることで相手の劣情を刺激し、無意識化でその本性を淫らに変えていくゴーシュの呪い。

 それはどんなにレベル差があっても覆せるもので、かけられさえすれば逃げ道はない。

 しかし、そのかけることができないのだ。


「心配はいらん」


 魔王はそう言って指を鳴らす。すると、ゴーシュは自分の体に生じた異変を感じた。


「今のは何を――」

「貴様の呪いスキルの練度の上限を999に書き換えた」

「何ですと!? そんなことが!」

「この男を取り込んだことで余は貴様らのステータスを書き換えることができるようになったのだ。この男の言葉を借りれば、チートというものだ。本来は余のものではない故、今はまだ多用できんが、いずれ自由に操れるようになるだろう」


 ゴーシュは驚きのあまり、何も言うことはできなかった。


「まだステータスの書き換えは何度かできるが、それは他のことに使用する。まずは四天王では貴様だけ強化しておく」

「そ、それは何故でしょうか?」

「呪いスキルの練度が999に達すれば、必中効果がつく」

「必中効果……?」

「呪い除けの道具でも、防げなくなるのだ」

「何と……!」


 ならば練度を999まで上げられれば【剣の勇者】の聖女を寝取れるようになる。


「貴様には真っ先に練度を999まで上げてもらう。そのために、まず貴様を強化した」

「ありがたき幸せ……!」

「貴様はひとまず人間の国との戦いはしなくていい。呪いスキルの練度を上げ、【剣の勇者】の聖女を寝取ることだけを考えよ」

「はっ……! それでは失礼いたします」


 一礼し、ゴーシュが去っていく。

 その姿を見送りながら、魔王は思慮を巡らせる。


「【剣の勇者】とその仲間か……」


 聖女の他の仲間――女騎士と賢者にも、それぞれ寝取る男がいるらしい。

 取り込んだ男は、魔王が復活する前にその男たちにも根回しをしていたようだ。

 よっぽど【剣の勇者】の仲間たちが寝取られるのを見たかったと見える。


「よかろう。その望み、余が叶えてやる」


 取り込んだ力――ステータス書き換えの力を自由に使えるようになるまで時間が必要だ。

 その時間は、寝取られルートとやらで稼いでもらおう。


 そのまま仲間たちが寝取られてこちらの勝利で終わるなら良し。

 寝取られずに済んでもそれまでにこの力も存分に使えるようになっているだろう。


 とはいえ、【剣の勇者】には不可解な行動が多い。

 この世界にシナリオなどというものがあると考えた場合、それは【剣の勇者】にも適応されるべきではないか。

 しかし、【剣の勇者】はゴーシュに負けるはずの場面で勝った。

 これはもしかすると、【剣の勇者】も取り込んだ男と同様の存在なのかもしれない。


 ならば、根回しはしておくべきだろう。

 そう考えると、魔王は己の姿を取り込んだ男のものに変え、転移魔法を発動させた。




 * * *




「くそぅ! くそぅ! くそぅ! あの小娘め……!!」


 ノナリロ王国の騎士団。その留置所の中で、イラついた声を上げる中年男性がいた。


 彼の名はグレマートン。

 ノナリロ王国で最も有名な奴隷商だ。

 いや、奴隷商だったと表現するのが正しいだろう。


 彼は違法な手段で奴隷を入手していたことが明るみに出て、捕まってしまったのである。

 そして、グレマートンを捕まえたのが「鬼神のエリス」と呼ばれる女騎士だった。


「絶対にここから抜け出し、あの小娘にも屈辱を味わわせてやるわ……!」


 騎士団に捕まったとはいえ、グレマートンはノナリロ王国最大の奴隷商だった男だ。

 国の中枢に関わる者――彼が違法で手に入れた奴隷を回してやった者――との繋がりは多数持っている。この国とて潔癖ではないのだ。

 釈放されるように国の有力者への手回しは済んでいる。

 さすがに火消しに時間はかかるようだが、いずれ必ず外に出られる。


 しかし、ただ解放されてもグレマートンの虫は収まらない。

 外に出たら、自分を捕まえた女騎士――鬼神のエリスを奴隷にしてやると息まいていた。


 正義感が服を着ているような性格だったが、見た目はなかなか良い。

 自分の好みはムチムチとした女ではあるが、あの引き締まった体を苛め抜くのも面白そうだ。

 特に張りのある尻だ。あの尻を叩いて泣かせてやりたい。


 いずれ来るだろう、その時に向け、グレマートンはぐふふと笑う。

 そして、唐突に思い出す。


 ――あなた、若くて美しい女騎士に捕まりますよ。


 15年ほど前に、そう警告してきた男がいたことを。


 違法な手段でグレマートンに身内を奴隷にされた者が恨みつらみから「捕まれ!」と言いに来ることはよくあった。

 しかし、その男の発言はそういう恨みつらみからのそれとは違ったようにグレマートンは感じた。


 まるで、これから起こることを伝えているかのようだった。

 だからこそ、記憶の片隅に残っていて、唐突に思い出したのだろう。


 その時、その男は「この2人にお気を付けを」と言って2枚の人物画を見せた。男と女だ。


(……あの絵の女、鬼神のエリスではなかったか?)


 そうなると、あの男は15年前から鬼神のエリスの存在とこの日のことがわかっていたということになる。


 では、もう1枚の男の絵は誰だったのか。

 何かが引っ掛かる。そう思って記憶の糸をたぐろうとしていると、


「貴様がグレマートンか」


 鉄格子の向こうに、その男は現れた。


 15年前と、全く同じ姿で。


 しかし、全く異様な雰囲気をまとって。




 * * *




 ノナリロ王国の隣国――カマラ帝国にて。


「……そうか、ノナリロ王国に【剣の勇者】が現れたか」


 密偵からの報告を受けた皇帝ダマリス・デ・カマラの反応は、家臣たちの予想を裏切り、非常に静かなものだった。


「よし。それでは融資の準備をしておけ」


 続く彼のそんな二言目に、家臣たちは驚愕した。


「皇帝陛下。融資とは……どこの国にですか?」

「無論、ノナリロ王国への融資だ」

「ノナリロへの!? 失礼ながら、どうしてそのような準備をするかお聞かせ願えますか?」

「なに、簡単なことよ。【剣の勇者】が現れたということは、魔王が復活したということ。ノナリロ王は【剣の勇者】に魔王討伐を命じるだろう。全面的に援助してな。しかし、ノナリロ王国にそれだけの備えがあるわけがない。資金が尽きたところで、周りの国への融資を募るはずだ。そこで、我々がいの一番に融資に名乗りを上げる」

「……魔王討伐の協力をするということですか?」


 家臣たちは意外に思った。

 ダマリス皇帝は、そういった善意の行動を取るとはお世辞にも思えない人間だったからだ。

 むしろ、魔王復活の混乱に乗じて他国を侵略して領土を増やそうと思うタイプだと思っていた。


 それは正解ではある。


「何を言ってる。マリアンヌ姫を手に入れるために決まっているだろう。融資を出す見返りに、マリアンヌ姫を手に入れるのだよ」


 ダマリスは飄々と部下にそう言い放ちながら、ある男のことを思い出していた。


 ――ノナリロ王国から【剣の勇者】が生まれます。


 ――その時に融資を行い、見返りとしてマリアンヌ姫を求めるのが良いかと。


 ――強引に奪うよりは、他国からの反発は受けずに済むのではないですか?


 5年ほど前に現れたその男の妄言を、ダマリスは信じていなかった。

 だが、こうして現実になった以上、あの男の言うことに従ってみるのも一興だと強国の皇帝は心の中でつぶやいた。





 こうして、男たちは動き始めた。


【剣の勇者】の大切な仲間たちを自分たちのものにするために――。


これにて「旅立ち編」は終了です。

よかったら、感想などで「旅立ち編の更新、お疲れ様!」などと言っていただけたり、

何ならこの下の評価欄で★をいただけると嬉しいです!


次回は、明日(7/27)の午前7時に更新予定です。


【こぼれ話】

たぶん気づいてる人も多いかと思いますが、

ノナリロの名前の由来は「ネトラレ」の言葉遊びです。

一文字ずつ後ろにずらすとノナリロになります。

ちなみに、まだ出ぬ槍の勇者の出身国の名前は「メヨソワ」です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴーシュの迫真の演技力。クソ寝取り野郎だが死ぬ寸前で虚も勢を貫けるのは悪役として褒めたい。 [気になる点] >相手の夢の中にゴーシュが侵入できるようになるもの 成功していたとしてもレベル差…
[一言] 旅立ち編の更新、お疲れ様。 なるほど 寝とり大好きマンだね。
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