19 旅立ち
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皆様からの反応に、作者は皆様の想像以上に喜んでいます。
その後、目当てのものを見つけた俺は、武器屋の中をふらふらと回っていた。
テッサ姉たちは試着スペースに行っていて、楽しそうな声ではしゃいでいる。
どこが大きいだとかやわらかいだとか引き締まってるだとかいう会話が聞こえてくるが、他の客にも聞かれていると思うとかなり複雑な気分だ。
周りを見渡すと、男どもは見るからに下卑た顔を浮かべてにやにやしている。
これは試着スペースから出てきたら絡んでくるんじゃないか?
テッサ姉とエリスくらいのレベルがあれば大丈夫だと思うけど、3人が怖い目に合う前に俺が止めないとな。
と思っていたら、試着スペースから出てきたらなんてレベルじゃなく、今から乗り込もうとしている奴らがいた。コイツら……!
俺はそいつらの前に立ちはだかる。
「俺の連れに何か用か?」
「あぁん? 怪我したくなかったらどけや兄ちゃん」
「あんなエロい会話されて、黙って聞いてられるわけねーだろ」
「俺らをむらむらさせた責任、取ってもらわねぇとなぁ!」
にらみつける俺に対し、男たちは口々に汚いことを言い始める。
「魔法使いの姉ちゃん、ローブじゃ隠れねぇくらいでけぇ胸だったな。後ろから揉みまくって喘がせてやりてぇぜ」
「胸のデカさなら私服の女だろ。挟ませたらどんだけ気持ちいいか……じゅるり」
「俺は女騎士の姉ちゃんだな。強気な女をヒイヒイよがらせるのがいいんじゃねぇか」
男たちの無遠慮すぎる言葉に、俺はカーッと頭に血が上っていくのを感じた。
歯を食いしばり、拳を痛いほど握って目の前の男たちを睨みつける。
しかし、そんな俺の視線なんて意にも介さず、男たちは下品な会話を続ける。
「お前の連れだって? あのすけべな体の女どもも、お前といるより俺らのパーティーに入ったほうが幸せだってもんだぜ」
「そうそう。イキ死んじまうくらい女の幸せってやつを俺たちが教えてやるからよ!」
「心配しなくても飽きたら返してやるって。そんときにはポッコリお腹が膨れてるかもしれねぇがな! ガッハッハッハ!」
そこまでが俺の限界だった。
「表に出ろ」
「はぁ?」
「その薄汚い口を二度ときけなくしてやる」
「やるってのか? いいぜ。なら、俺たちが勝ったらあの女たちはもらってくからな」
「あと、こっちは3人でやらせてもらうぜ」
「ああ、それでいい」
「威勢がいいな、兄ちゃん。その心意気に免じて、あの女たちが乱れるところをお前にも見せてやるよ。特等席でな! ギャッハッハ!」
俺たちは武器屋の外に出て対峙する。
三対一。
勝負は一瞬で終わった。
「げぶあっ!」
「ながびっ!」
「ごべばっ!」
全員を一発ずつ殴って気絶させて道端に重ね、
「これに懲りたら俺の仲間には手を出さないことだな」
そう言い放った。
* * *
武器屋に戻った俺は、手持ち無沙汰になって店内を回っていたのだが、とあるコーナーに目が止まった。
「実際に見るとえぐい服だな……」
ビキニ鎧やバニー服、踊り子衣装といった露出度高めの装備が置かれている一角だ。
それらはゲームでも買えるエロ衣装だった。誰でも着れる汎用衣装の他に、ヒロインたち固有のエロ衣装もある。
汎用エロ装備はともかく固有エロ装備はゲームではめちゃくちゃ高い割に(汎用のほうもまぁまぁ高い)、そんなにステータスが上がるわけでもない、完全なネタ装備だった。
唯一にして最大のメリットと言えば、ヒロインたちの立ち絵の服装が変わることだ。
序盤でこの装備の誘惑に負けて固有のエロ装備を1つでも買うと、マリー様の寝取られ回避が無理ゲーとまでは行かずとも厳しくなる。
でも買って着せてみたい。そんな男の欲望を刺激する罠だった。
まずエリス用のビキニ鎧。
これはもう言うまでもなくファンタジー系では鉄板だろう。
上下ともにビキニ水着の形をした鎧だ。布地の代わりに金属で作られていて、妖しい光沢を放っている。
これを着たらエリスの引き締まった肢体がめちゃくちゃ映えるだろうなぁ。
守れてるところがほぼないとか茶々入れてくる奴もいるが、うるせぇエロに細かいいちゃもんつけてくんじゃねぇ! 俺のファンタジーじゃ守れてるんだよ! あ、いや守れてないな……。
次にマリー様用のボンデージ。
エリスのビキニ鎧は定番ってことですぐ決まったが、テッサ姉とマリー様の衣装は悩んだ。
親友がボンデージなんかどうだと提案してくれて、膝を叩いたのは懐かしい記憶だ。
魔法使いにボンデージって発想がもうすごい。
それも単なるボンデージではない。バンド状の革で構成されていて、肌のいろんなところが露出している。いわゆるホットリミットのアニキみたいな格好だ。
もちろんこんな細いバンドでマリー様の巨乳が隠せるわけもなく、北半球も南半球もはみ出てしまうのは間違いない。
そして1番の問題衣装は、テッサ姉用のセクシー衣装だった。
基本はシスター服なのだが、ワンピースの前部分が完全に布地が取り払われている。代わりに体を隠す役割を持っているのはレオタードだ。
ただし、胸元が大きく開いたデザインで乳房は上半分がほぼみえてしまうだろうし、そもそも胸部分と股間部分は生地が薄すぎて透けて見えてしまうほどだ。しかも超ハイレグ。
露出度自体は他の2人よりも低い。
だが、普段は隠れているところが露出されているという背徳感、そして隠れている部分と露出している部分のギャップで凄まじい破壊力を生み出していた。
さて、値段は……20万マネーか。
そこらの装備と比べるとだいぶ割高ではあるが、ゲームよりもだいぶというか遥かに安い。
そりゃそうか。ゲームの1000万設定なんて、現実じゃ馬鹿げすぎてるもんな。
これなら、買ってもマリー様の寝取られ回避が厳しくなることはないか……。
いやいやいや冷静になれ、俺。何を買う方向で検討してるんだ。
いくら余裕があると言っても、これから何があるかわからないんだ。
こんな、ステータスの底上げも期待できないエロ衣装なんか、絶対に買わないぞ!
「……ユーリ、こういう服が好きなの?」
「アンタ、なんてものを……!」
「こんな服、大胆すぎますわ」
「うわああああっ!」
気づくと、試着スペースにいたはずの3人が戻ってきていた。
「さ、3人ともいつの間に……試着はもう終わったの?」
「もうとっくに終わったわよ」
「それで、ユーリの意見も聞こうかなって何度も呼んだの……」
「こちらのコーナーを夢中で見ているようでしたので……」
「えっ……」
うそ。俺、そんなに夢中で見てた!?
見てたのか……3人が近づいてくるのに全く気づかなかったもんな。
「……私、これも買おうかな」
「テッサ姉!?」
「ならアタシも買お」
「エリス!?」
「では、わたくしも……」
「マリー様まで!?」
テッサ姉とエリスはわかる。
俺への好感度はかなり高いから、こういう服を着てあげようと思ってくれているのだろう。
だけど、マリー様まで買うと言い始めるのは意外だった。
むしろ、こんな服に興味があるなんて不潔だと言ってきてもおかしくないような……。
「みんな落ち着いてよ! 確かに見てたけどさ、この服には装備として最低限の機能しかないのに高いんだよ? 無駄遣いだよ」
ちゃんとした装備ならまだしも、この服はどう考えても優先度は低い。
この服を買うくらいなら、アイテムを買ったほうがマシだ。
確かに着てくれたら嬉しい。だが、これを買うことでみんなが寝取られたら嫌なんだ。
だからこそ、俺は「装備として使えない」「なのに高い」と説得しようとしたのだが、
「大丈夫だよ。お姉ちゃん、この4年間のお仕事で貯金があるし!」
「アタシも騎士団の給金で多少は蓄えあるわよ」
「わたくしも、少しですが自由に使えるお金がありますので……」
3人ともポケットマネーで買う気満々だった。
「で、でもさ。ほら、こんな服着てるの恥ずかしいんじゃない?」
「それは恥ずかしいけど……じゃあ、ユーリの前でだけ着てあげるっていうのはどう?」
「えっ……」
テッサ姉の爆弾発言に、俺は反射的にこの服を着ている姿を思い浮かべてしまった。
それを敏感に感じ取ったのか、
「テッサ姉、ずるい! あ、アタシだって……ユーリにだけ見せてあげるから」
「わたくしも、ユーリ様の前でだけ着るなら……!」
それに張り合うように、エリスとマリー様も大胆なことを言い始めた。
「それじゃあ買っちゃおう!」
「そうね」
「はい!」
「あ、ちょっと待って! テッサ姉! エリス! マリー様! 無駄遣いだって!」
その後、俺は3人を説得しようとしたが、その努力もむなしく、結局、エロ衣装はみんなが自分のお金で買った。
* * *
いろいろとトラブルはあったが、どうにか武器屋での買い物を終え、そのまま俺たちは買ったものをその場で装備した。
ゲームならステータス画面を開いて装備を選べば装備できたが、この世界では実際に着替える必要がある。武器屋の試着スペースを使って着替えさせてもらった。
そうして、食料といくつかのアイテムを買って、俺たちは王都の正門の前まで来ていた。
「じゃーん! どう? ユーリ!」
「うん。似合ってるよ、テッサ姉」
えへへと笑うテッサ姉が着ているのは、先ほど俺が見ていた露出過多な衣装……ではなく、聖女が装備できる初期装備だ。
シスター服に近いが、より動きやすいようにデザインされている。
明るめな色を基調としているのも、普通のシスター服と違う。
そんな彼女を見てると、ふと顔を近づけてきて、
「さっきの服は、誰も見てないところで着てあげるからね」
「――っ!」
そんなことを囁いてきた。
「からかわないでよ、テッサ姉……」
「ふふふ、ごめんね」
「まったく……とにかく、テッサ姉の装備も整ったし、俺も必要なものは買えた。2人も良い装備が買えてよかった」
俺の言葉通り、エリスとマリー様は集合した時とは少し装備が異なっていた。
エリスは軽装鎧と武器の剣こそ変わっていないものの、片手持ち用の盾が装備に追加されている。
そしてマリー様は装備と武器が一新していた。
俺たちのパーティーで最もレベルが低いのが彼女だ。だから、衝撃を吸収する服と魔法の攻撃力を高める効果を持つ杖を装備してもらった。
これでレベル1でも序盤のモンスター程度なら無双できるだろう。
「準備はバッチリだね。改めて確認するけど、この旅はすごく危険なものになると思う。3人とも、覚悟はいい?」
「当たり前だよ! お姉ちゃんはずーっとユーリと一緒だもん!」
「アタシだって、ユーリを守るから……!」
「わたくしも、及ばずながらお手伝いをいたします!」
俺の言葉に、3人ともが力強く返事をしてくれた。
俺はそれにうなずき返す。
「よし! 行こう!」
そうして、俺たちはノナリロ王国王都の正門をくぐった。
俺たちの旅の最初の目的地は、ノナリロ王国の西方、いくつかの国を越えたところに位置する宗教国家・ノクロスだ。
さすがに歩くには距離がありすぎるので、馬車を乗り継いでいこうという話になっている。
国王陛下によると、そこにはかつて魔王が現れた時の【剣の勇者】と【槍の勇者】の戦いの記録が残されているらしい。
多くのRPGがそうであるように、魔王を倒すには「手順」がある。
一緒に戦う仲間を増やす。必要な装備・アイテムを手に入る。各地のボスを倒す。魔王の居城への移動手段を確保する。
そういった魔王を倒すための手順や条件が『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』にもある。
その条件とは――四天王の撃破と【槍の勇者】との共闘だ。
ゲームでは【槍の勇者】がいないと、魔王にはどうやってもダメージを与えられない設定だった。
だから、ゲームの中盤までは四天王を倒しながら【槍の勇者】を探すというのがメインの流れになっている。
もっとも、【槍の勇者】が現れるイベントが起きる条件は四天王を倒すことだから、四天王を倒さないと【槍の勇者】は現れないんだけど。
ただ、この世界ではどうなっているかはわからない。
もしかしたら【槍の勇者】なしでも倒せるのかもしれないし、四天王全員を倒す前に現れるかもしれない。
個人的には、【槍の勇者】の力なしで倒せるならそれに越したことはないし、ギリギリまで現れてほしくないという気持ちがあるが……。
しかし、いざ【槍の勇者】抜きで魔王と戦ってみて、やっぱり【槍の勇者】がいないと倒せないとなったらまずい。
聖剣入手イベントでは、聖剣以外で倒せなかったとしても聖剣を使えばよかった。
だが、魔王戦でそれをやったら、俺が死ぬだけでなくてテッサ姉やエリス、マリー様も犠牲になってしまう。それだけは避けなきゃいけない。
ということは、【槍の勇者】との合流必須だな……本当に、気が進まないけど。
まぁ、その前にこなさなければいけない……いや、覆さなきゃいけないイベントがある。
「失礼。【剣の勇者】ご一行とお見受けしますが……」
そいつは、ゲームのシナリオ通り、俺たちが旅立った直後に現れた。
「お初にお目にかかります。私は魔王軍四天王の1人、肉欲のゴーシュと申します。ああ、覚えていただかなくて結構。――あなた方はここで死ぬのですから」
強制負けイベントだ。
感想もらえるのは本当に嬉しいので、何かしらコメントいただけると喜びます。
あと、今回で14日間の連続更新なので「ちゃんと更新できて偉いね」って褒めていただけると嬉しいです!
次回は、明日(7/26)の午前7時に更新予定です。
ついに強制負けイベントがやってきて、旅立ち編も佳境です。
果たしてユーリはゲームのシナリオを覆すことができるのか!?
そしてテッサ姉を寝取られルートから守れるのか!?
ご期待ください!