18 武器屋にて
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今日もちょっと先の話ですが、1話分を書き上げました!
「お待たせ、ユーリ!」
その後、エリスが合流し、集合場所に最後に現れたのはテッサ姉だった。
エリスが遠地でのモンスター討伐任務などの際に騎士団から支給される軽装鎧を着ている(ちなみにこれも騎士系の職業の初期装備として親友がデザインしたものに酷似していた)のはいいが、問題はテッサ姉の格好だ。
「テッサ姉……旅行に行くんじゃないんだから」
「え? ダメだった?」
思いっきり私服だった。
「さすがにシスター服じゃダメかなって思って……」
確かにシスター服じゃ旅にも戦闘にも適さないな。
俺やエリスは騎士という職業上、鎧を持っているし、マリー様も城に保管されていた装備をもらってきたそうだが、テッサ姉は違う。
テッサ姉は昨日までシスターとして街の教会に勤めていた一般人だ。戦闘用の装備なんて持っているはずがないだろう。
でも、うん、ちょうどいいかもしれないな。
「……まずは装備を買いに行こうか」
その提案は、実は最初からしようと思っていたものだった。
* * *
「ここが武器屋さん……?」
武器屋に入ったテッサ姉が目を丸くする。
店内には、所狭しと鎧や武器が飾られ、ローブや戦闘用の服が並んでいた。さらに奥には試着スペースもある。
「うん。ここでテッサ姉用の装備と、あとは武器なんかも揃えようと思って」
「武器? でも、お姉ちゃん、武器は使えないわよ?」
「テッサ姉は回復魔法と支援魔法のスキルがあるだろ? それを補助できる杖を持つといいよ」
小さいころからモンスターを倒しに森に入っていた俺たちだが、その時もテッサ姉は武器を使ってはいなかった。
モンスターと戦うのは主に俺とエリスで、テッサ姉は基本的に回復魔法と支援魔法を使っていたのだ。
「あと、いちおう護身用にナイフとかは持ってた方がいいかもね」
「あ! ナイフなら持ってきてる!」
「……いや、果物ナイフじゃなくて」
果物ナイフを取り出したテッサ姉にツッコミを入れつつ、俺は手ごろなナイフを手に取った渡した。
「基本的に俺とエリスが前に出て戦って、テッサ姉とマリー様は後ろで魔法を使ってもらうことになると思うけど、万が一、モンスターに襲われたらこれで威嚇して」
「……え?」
「大丈夫。テッサ姉が危なくなったら、俺がすぐに行くから」
「う、うん。ありがとう、ユーリ……でも、違うの」
ん? どうしたんだ? 違うって何のことだ?
ふと視線を感じてそちらを向くと、エリスも信じられないようなものを見ているような目を俺に向けていた。
「今、ユーリ、マリー様って……」
あっ……。
しまった、まだマリー様をそう呼べと言われたってことを2人には話していなかった!
「そ、それはわたくしからそう呼ぶようにお願いしたのですわ。わたくしも皆さんと親しくなりたくて……」
どう説明しようかとうろたえていると、当のマリー様が助け舟を出してくれる。
「えっと……ほら、俺たち3人って顔見知り同士だろ? マリー様にとってはそこに1人だけ放り込まれた状況だから、もっと仲良くなりたいんだって」
「よろしければ、皆さんにもそう呼んでいただけませんか……?」
「ふぅーーーーーーーん…………」
「そうなんだ……ユーリ、さっそくマリアンヌ姫殿下と……」
ジト目で俺のことを見るテッサ姉とエリス。しかし、しばらくするとテッサ姉はマリー様のほうに向き直った。
「じゃあ、私も遠慮なくマリーちゃんって呼ぶね!」
ま、マリーちゃん!? しかもタメ口!?
それはいくら何でも距離飛び越えすぎじゃないか!?
「ありがとうございます、テスタロッサ様!」
「マリーちゃんも、私のことテッサって呼んでいいからね」
「はい、テッサ様!」
えぇ……いいんだ…………。
いやマリー様がいいなら構わないんだけど。
これから旅をする仲間同士、仲良くなるのはいいことだし。
それにしてもテッサ姉はすごいな。普通、あんな風に飛び越えるか?
でも、テッサ姉らしいと言えばテッサ姉らしいか。俺とエリスじゃすぐにああはできない。
「よろしいのですか、マリアンヌ姫殿下……」
騎士であるエリスが小声で尋ねる。
すぐに切り替えたテッサ姉と違って、恐る恐るといった様子だ。
「わたくしのことはマリーと呼んでください、エリス様」
「はっ……! そ、それでは…………マリー様?」
「はい、エリス様。これから仲良くしてくださいね!」
にっこりと微笑むマリー様。嬉しそうだ。
この調子で3人とも仲良くなってくれるといいな。
「それで、テッサ姉の装備の話に戻るんだけど」
「この服じゃダメなのよね? 鎧とかのほうがいいのかしら?」
「俺やエリスはモンスターと直接戦うから鎧をつけたほうが良いと思うけど、テッサ姉はこっちの戦闘用に作られた服でいいと思うよ」
「あ……これ、可愛い。でも、これなら今着てる服でもいいんじゃゃないの?」
「いや、こっちの服は戦闘用って言うだけあって、特殊な素材でできてて丈夫なんだ。ゴブリンの牙や爪程度なら防いでくれるし」
「へぇ、そうなんだ」
まぁ、騎士団で習ったことの受け売りなんだけど。
「そうだ。テッサ姉。せっかくだから、マリー様に装備を選んでもらったら?」
「わたくしが?」
「うん。マリー様は鑑定スキルも持ってるし、女の子の服は女の子同士で選んだほうがいいんじゃないかなって」
「へー、ユーリにしては良いアイデアじゃん」
「わかりました! わたくし、がんばりますわ!」
俺の提案にエリスが乗ってきて、マリー様も奮起する。
そうして3人はテッサ姉の服を選びに店の奥に行く。
俺はそれを遠目から眺めながら、他の必要なものを探すことにした。
……それにしても、あの一角だけすごい華やかなだな。
無骨な客ばかりの中に美女が3人もいるからめちゃくちゃ目立つ。
しかも、3人とも固まっているんだからなおさらだ。
いちおう、他の男からちょっかい出されないように警戒しておこう。
「テッサ様は回復と支援系の魔法スキルを使われると伺いましたが、それなら支援魔法の効果を高める服がよさそうですね……いえ、その前に鑑定をさせていただけますか? 職業に合った服が一番だと思いますので」
一定の職業にしかつけられない装備というのはゲームではよくある。
例えば、騎士の鎧は魔法使いは装備できないとか、初期職の魔法使いは上級職の賢者用の装備をつけられないとか、そういうのだ。
『俺の大切な仲間たちが寝取られるわけがない』でも、そのシステムは採用していた。
現実となったこの世界で、騎士用の鎧を魔法使いが装備できるかというと可能だ。
だけど、武器屋に並んでる鎧や服なんかは特殊な技法でいろいろな効果を持つものもある。魔法使い用の服だったら魔法に使う魔力が減ったり、騎士用の鎧だったら物理攻撃からの衝撃を減らすなどだ。
そのため、自分の職業や戦い方に合ったものを装備するのが常識だった。
「テッサ姉の職業ってシスターだよね?」
「うん、そうだよ」
「シスター用の装備ってどんなのだろ?」
「いえ、伝承によれば、剣の紋章が浮かんだことで職業が上位職に変わることがあるそうです」
「えっ、そうなんですか!?」
「はい。ですから、いちおう鑑定してみますね」
「よろしくね、マリーちゃん」
俺の知る限り、テッサ姉とエリスの職業はそれぞれシスターと騎士のはずだ。
だが、ゲームでは聖女と聖騎士だった。
マリー様の言う通り、剣の紋章が浮かび上がったことで、ゲーム通りの職業に昇華するのだろう。
「鑑定!」
スライムやゴブリンに直接攻撃をしていたわけではないが、回復魔法や支援魔法を使って間接的にテッサ姉も俺やエリスと一緒にモンスターを倒していたわけだ。レベルもカンストしているに違いない。
そんじょそこらの鑑定スキル持ちじゃあレベルがカンストしてるテッサ姉を鑑定することは難しいが、マリー様ならならそのレベル差も覆してテッサ姉の職業などがわかるはずだ。
「ぴやああああああああああああああ!」
そう思っていると、いきなりマリー様の悲鳴が聞こえた。
な、何だ!?
「れ、れれれれれ、レベル99!?」
次いで聞こえたのは、混乱したマリー様のそんな言葉。
それを聞いて俺は全てを察した。というか伝えていなかったことに気づいた。
テッサ姉とエリスもレベルがカンストしているということを。
「ユーリ様! この方は何者なのですか!? 本当に教会に勤められているシスターなのですか!?」
「ま、マリー様。落ち着いて……実はですね」
俺のそばに詰め寄ってきたマリー様に、この12年間のことを話した。
もちろん、俺が転生者であることは隠してだ。
「じゅ、12年間、モンスターを倒し続けた……?」
「はい。だから俺たちはレベルが極端に上がってるようでして……」
「そうだったんですね……道理で、ユーリ様たちのレベルが高いわけですわ。ということは、エリス様ももしかして……」
「レベル99です」
「きゅっ」
あまりにショックだったのか、マリー姫がふらっと倒れそうになる。俺はそれを慌てて支えた。
「いったいぜんたい何ですの、このパーティー! わたくしだけレベル1で他の3人はレベル99だなんておかしくありませんか!? 【剣の勇者】様の仲間になれると浮かれていたわたくしがバカみたいですわ!」
「2人のレベルについてお伝えしておらず、申し訳ありません……」
これはもう、本当にごめんなさいとしか言いようがない。だけど。
「ですが、俺にとってマリー様は2人と同じで、かけがえのない仲間と思っています。剣の紋章で繋がれた、特別な仲間だと」
「ユーリ様…………」
俺の言葉に、マリー様は頬を染めて瞳を潤ませる。
「こ、こほん。そんなことを言われて舞い上がるほど、わたくし、安い女ではありませんことよ? でも、わたくしも取り乱しすぎました。わたくしたちの目的は魔王の討伐です。仲間の方々が強いのであれば、何ら問題はございませんわ」
よかった。機嫌を直してくれたみたいだ。
「それに、わたくしもすぐに……とはいきませんが、いつか追いついてみせますわ。見ててくださいましね、ユーリ様」
「はい」
そんなやり取りをしていると、テッサ姉とエリスもやってきた。
「マリーちゃん、大丈夫?」
「驚かせてしまって申し訳ありません、マリー様」
「テッサ様、エリス様。大丈夫ですわ。取り乱してしまい、こちらこそ申し訳ありませんわ。さぁ、改めて装備を買いに参りましょう」
「うん!」
「はい!」
マリー様の言葉に、2人は屈託なく笑ってうなずいた。
その姿に、俺は胸をほっこりとさせる。うんうん、女の子の仲がいいのはいいことだ。
そうして、3人は気を取り直して再び装備選びに行こうとする。
……あ、そうだ。
「テッサ姉、ちょっと待って」
「え? どうしたの? ユーリ」
テッサ姉を俺は呼び止めた。
そして、荷物からお金を取り出して3人に渡す。
「これ、装備を買うお金。とりあえず100万マネーあるから」
「こんなお金、どうしたの!?」
「ほら、スライムとかゴブリンを倒した時に落ちてた素材を売ったお金だよ」
「え? でも、スライムとかの素材ってそんなに高くないよね?」
「12年間分だからね。けっこうな数があったから、売ったらすごい値段になったんだ。いちおうまだお金は残ってるから、足りなかったら言って」
スライムやゴブリンの落とした素材で、俺の手元に残っているのはごく一部だ。
これらはすべて元の素材単体に対して錬金術を使って別の素材にしたもので、今後、錬金術で使えるから取っておいた。
「し、しかしユーリ様。父からいただいた手形を見せれば、援助金で購入できますが……」
「ええ。ですが、これからの旅で何があるかわからず、援助金といえど無尽蔵ではありません。いざという時に足りなくなり、他国からの融資もすぐには受けられない状況になってしまっては魔王討伐の旅も頓挫してしまいます」
俺がそう言うと、マリー様は顔をハッとさせた。
「幸いにして、私は先ほど申し上げた理由で懐に余裕があります。しばらくは援助金に頼らずに旅をしてはいかがでしょうか?」
それはもちろん建前で、本音は援助金を使いすぎてマリー様の寝取られルートを進めたくないだけだが、マリー様は少し考えた後に首肯してくれた。
「……わかりましたわ、ユーリ様。それでは、わたくしも自分の自由になるお金を使うようにしますわ」
「あ、それなら私も! お姉ちゃん、4年も教会でお仕事してたからけっこう貯金があるし!」
「アタシも、騎士団の給金で貯えがあるからそうするわね」
「うん。でも、とりあえずここの装備は俺が出すよ。と言うか、スライムやゴブリンを倒してたのは俺だけじゃなくてテッサ姉やエリスのおかげでもあるし、みんなのお金だし」
「うん、わかった!」
「じゃあ、ありがたく使わせてもうらうわね」
「わたくしは、モンスター退治に参加しておりませんが……」
「マリー様は私たちの仲間です。気になさらないでください」
「……ユーリ様なら、そう仰いますよね。わかりました。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
「テッサ姉の装備を買ってお金が余ったら、マリー様も少し良い装備を買ってください」
「いいのですか?」
「ええ。少しでも良い装備にしておいたほうが安全ですので。エリスも、何か必要なものがあったら買って」
「わかったわ。それなら盾でも買っておこうかしら」
「よーし! それじゃあさっそく装備選びに行こう、マリーちゃん! エリスも!」
そう言うが早いか、テッサ姉はマリー様を連れて、エリスと一緒に再び装備選びに行ってしまった。
再び装備を選んでいる3人に意識を向けつつ、俺は必要なアイテムを探すことにした。
「鑑定させていただきましたら、テッサ様は聖女、エリス様は聖騎士のようですわね」
「へー。私、聖女なんだ」
「テッサ姉は回復魔法と支援魔法の練度が高いから、聖女の職業はピッタリね。アタシは聖騎士かー」
「聖女でしたらこの服とかいいかもしれませんね」
「でも、ちょっときついかも……胸のあたりとか」
「あっ……確かに、わたくしでもきつそうですわね」
「……このおっぱいおばけたちが」
そんな3人の会話が耳に届いて、俺は平静を装うのに大変だったが。
よかったら感想で「ちゃんと毎日更新偉いね!」などと褒めていただけると嬉しいです!
もしくは「チョロいマリー様すこ」とかでも嬉しいです!
次回は明日(7/25)の7時に更新予定です。
引き続き武器屋でのお話です。
ならず者たちが着替え中の3人に近づこうとして……!?
【こぼれ話】
ヒロインたちのバストサイズは大きい順に、
テッサ姉(90後半)>マリー様(90中盤)>エリス(80中盤)
って感じです!