17 愛称
評価・ブックマーク・感想、ありがとうございます!
前回のこぼれ話に対するコメントがけっこう来て、ビックリしつつもすごく嬉しかったです!
「まずは旅の準備をしよう」
仲間となったヒロインたち3人の前で、俺はそう提案した。
マリアンヌ姫はなぜか着の身着のままで出てきてしまったみたいだし、テッサ姉もエリスも仕事場を抜け出して来ている。聖剣を見つけてそのまま城に召喚された俺はもちろん、他の3人も旅の準備が全くできていない。
ゲームでなら「さぁ出発だ!」となるが、ここは現実。
これから長い旅が始まるのだから、最低限の旅の準備は必要だろう。
ちょっとのお金と明日のパンツだけじゃ、俺はともかく女の子たち3人はさすがにまずい。
3人とも、ひとまずは俺の提案に従ってくれて、明日の昼までに準備を整えて王都の噴水広場で集合することになった。
そして翌日。俺が集合場所に行くと、
「ユーリ様!」
「マリアンヌ姫。おひとりですか?」
すでにマリアンヌ姫が来ていた。
他の2人の姿は見えない。
「そのようです。早く着きすぎてしまったようですね」
そう言って微笑むマリアンヌ姫の装いは、昨日と同じだ。
ゆったりとした露出度抑えめのワンピースの上に黒いローブを羽織っている。そして頭にはとんがり帽子、手には魔法使いの杖――魔法使い系統の初期装備。
昨日と違うのは、大きめなトランクケースを持っていること。
そこに生活必需品やらを入れているのだろう。
それにしても、一国の姫がこんな普通に広場にいていいものなのだろうか。
そう疑問を投げかけると、
「この格好ならば、わたくしが姫だときっと思われませんわ」
「そうですか……?」
昨日は同じ格好でテッサ姉とエリスにすぐばれてたと思うけど。
まぁしかし、つばの広い帽子をかぶってるから顔もあまり見えないし、じろじろ見ないと気づかないかもしれないな。
ここで俺が傅くとあからさまに姫だとわかってしまうからと言われて、俺は姫の隣に立ってテッサ姉とエリスを待つことにした。
そうしていると、チラチラと通りがかりの男たちがマリアンヌ姫のほうを見ているのがわかる。
帽子で顔はしっかりと見えないだろうが、首から下の豊満な体はローブでは全然隠せていない。男たちの視線を集めるのは当然のことだろう。
「あの……ユーリ様」
そんなことを考えていると、マリアンヌ姫が話しかけてきた。
「はい。何でしょうか?」
「ひとつ、お願いがあるんです」
「お願いですか? 私でよければ何なりと」
「でしたら……その……」
マリアンヌ姫が言い淀む。
心なしか、顔が赤いような気がする。言いにくいようなお願いなのだろうか。
……ハッ! もしかしたら、あまり馴れ馴れしくするなとかそういう感じなのかもしれない!
仲間になったとはいえ、マリアンヌ姫はお姫さまだ。
昨日はああ言ったけど、やはり身分を弁えるようにと言うとか!?
しかし、そんな俺の心配は杞憂だった。
やがてマリアンヌ姫は意を決したように口を開いた。
「あの、わたくしとも、テスタロッサ様やエリス様たちの時のようにしゃべっていただけませんか?」
「テッサ姉やエリスの時のように……?」
「はい。ユーリ様はおふたりとはすごく自然に話されているように感じました。けど、わたくしと話をされる時は少し距離を感じますの」
「そ、それは……テッサ姉やエリスとは小さい頃の付き合いですし」
「テスタロッサ様やエリス様が、幼いころからユーリ様と過ごされていたことは存じておりますわ。でも、これから旅をする仲間だというのに、わたくしが最初の仲間なのに、わたくしひとりだけよそよそしくされるのは少し寂しいです……」
そう言って、マリアンヌ姫は悲しそうな表情を浮かべた。
だがそれも一瞬のことで、
「そ、それに、そのように肩肘を張られては旅も大変ではありませんか? わたくしは【剣の勇者】様の仲間として、ユーリ様を支えるために旅に出る決意をしたのです。実力的にはユーリ様の足手まといかもしれませんが、それ以外のところでユーリ様に気苦労をかけたくはないのです」
今度はこちらを気遣うような表情を浮かべ、そう続けた。
……気のせいかもしれないが、「寂しい」と言った時のマリアンヌ姫は少し拗ねているように感じた。
そして、どちらかというと最初の主張のほうが、彼女の本心が吐露されたものなんじゃないかな。
これから4人で旅をするっていうのに、そのうちの3人が顔見知り同士で、自分だけ初対面だと居心地が悪いだろうし、心細いだろう。
マリアンヌ姫はまだ17歳の女の子なのだからなおさらだ。
「わかりました」
「……え?」
「すぐに切り替えるのは難しいかもしれませんが、少しずつ努力してみます」
なんたって、相手はお姫様だ。
テッサ姉やエリス相手みたいに話すのは精神的なハードルが高い。
ゲームならご都合主義ですぐに話し方が変えられるけど、そこが現実の難しいところだ。
だけど、いきなりは難しくても旅の中で少しずつ距離を縮めていけばいい。
結局は問題を先延ばしにしているだけかもしれないし、今すぐには距離をなくせるわけではないが、意識しているのといないとのでは大きな違いだろう。
意識しないでいると、いつまでも変わることはできない。
それに、マリアンヌ姫はヒロインの1人なんだ。
お姫様相手だから失礼のないようにと振る舞っていたけど、それじゃあいつまで経ってもただの仲間のままだ。
ハーレムルートに進むためにも、もっと積極的にマリアンヌ姫と仲良くなった方がいいな。
「ユーリ様、それでは、呼び方から変えてみてはいかがでしょうか?」
「呼び方……ですか?」
「はい。わたくし、親しい方からは『マリー』と呼ばれていますの」
「マリー……」
「はい!」
マリアンヌ姫の顔がぱあっと明るくなる。
対して俺はぎくりと動揺していた。
ゲームでもマリアンヌ姫の愛称の設定はあった。ただし――
マリアンヌ姫をそう呼ぶのは主人公ではなかったはずだ。
ゲームではNTRハーレムルートの寝取りキャラのみがその愛称を呼ぶ。
普通に考えれば主人公もその愛称を呼ぶべきなのだが、主人公すら呼ばない愛称を寝取りキャラだけが呼ぶのってめちゃくちゃ股間に来るなって思ってそのままにした。
愛称のくだりを思いついたのがそのルートを書いている時で、主人公がマリアンヌ姫をそう呼ぶようになったエピソードを後から入れるには全体的にやり直しになってめんどくさすぎたってのもある。
これも現実になった影響なのだろうか……?
ともあれ、今は呼び方だ。
マリアンヌ姫が嬉しそうなのは何よりだが、いきなり愛称を呼ぶのはどうなんだ?
いちおう、許可を取ろう。
「マリアンヌ姫、いいのですか?」
「それじゃあ返事はしませんわ」
返事してますけど……。
「じゃあ……マリー様、いいのですか?」
「……本当は呼び捨てにして、敬語もやめて欲しかったのですけれど、それでもいいです」
そう言って、マリアンヌ姫……マリー様はちょっと頬をむくれさせる。
それから、いたずらっぽく微笑んだ。
「今はまだ……ですけどね」
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次回は明日(7/24)の午前7時に更新予定です。
ヒロインたちとお買い物にいきます。